第20話 私と初めての冒険

「ん~っ!楽しかった!」


 そう言いながら寝間着姿の私は自室のベッドに座って伸びをしながら先ほどまでのパーティを思い返す。


 いきなりリビングに入ってきたカナリアさんとお兄ちゃんがケーキを持って入ってきたときは何事かと思ったけど。


 私達の門出を祝ってパーティだなんてそんな大げさなことしなくていいのに。


「ふふっ…本当に変なの。」


 といった感じで思い出し笑いをしていると、お兄ちゃんが部屋に入って来た。


「お、まだ起きてた」


 部屋に入って来たお兄ちゃんの姿は、睡眠するには窮屈そうな服を着ていた。


 固めの布を使った丈夫そうな上着とズボン。そして腰には今日ガンテツさんから受け取った剣を身に着けている。


 そういう服はこの村を出るときにお披露目するべきなんじゃないかなと思う。


「どうしたの?そんな恰好で」


 そう聞くと、お兄ちゃんは私の隣に座ってきた。


「リリ、俺たちはもう旅に出る準備は出来ただろ?」

「そうだね。特にお兄ちゃんは準備万端って感じだね」

「だろ?だから旅に出る前にちょっと先に冒険でもしてみないか?」


 どういう事だろう。旅に出る前に冒険?いやいや順序がおかしい。


 旅に出てからいろんな所に冒険しようとするのは分かるよ?でも私達はまだ村に住んでいる最中なわけで。


 あ、それとも、今の時間から村を歩き回ろうといっているのかな。


 夜に村の中を歩き回るなんてことは確かにしたことがないけれど、既知の場所を徘徊するのは冒険とは言わないだろう。ちょっと特別感がある散歩位の感覚だと思う。


「冒険って…どこにいくの?」


 頭で考えても仕方がないと思った私は、答えを求めた。


「森、村から見えるあの森で冒険しようぜ」

「あんなところ行って何するのさ?」

「だから冒険だっていっただろ」

「そうじゃなくて…目的は?」

「冒険すること」


 冒険するってなんですか…冒険するのが目的って何ですか…私には冒険するが何を指しているのかが分からない…


 宝物を見つけるーだとか、魔物を倒すーだとかの目的を達成するための過程を指す言葉が冒険だと思っていた私はお兄ちゃんの言葉が理解できない。


 ちゃんと私にもわかるように話してくれないかなという思いを込めて、目を細める。が、お兄ちゃんは斜め上を向き、こっちを見ないで話し続けた。


「しいて言うなら…魔物退治かな?」


 あるじゃないのちゃんとした理由が。私はそれが聞きたかったんです。とはいえ魔物退治という言葉に、私は疑問が浮かぶ


「魔物退治?森に魔物がいるの?」

「いや、知らないけど。」

「ダメじゃん。いるかわからないのに魔物退治ってどういうことよ」

「でもよ、この村の近くに魔物はいるんだろ?だとしたら魔物がいるのって森の中くらいしか思いつかなくないか?」


 確かに、村の近くに魔物が出るというのは実際に聞いた話だ。


 だけど、見たことは無い。魔物が村を襲ったといった話も聞いたことは無いし、目撃証言も無いのに魔物が出るといった話だけが広まっている。


「まぁ、確かに…って魔物に会いに行くのもおかしいんだけど」

「いや、どうせ外に出たら魔物になんて沢山会うだろ?それなら早めに慣れておくのも悪くない」

「そんなこと言って、どうせその剣で早く戦ってみたいとかそれが本命でしょ?」

「まぁそれが5割位なのは認める」


 やっぱり、そんな綺麗な剣を手に取ったら早く使ってみたいと思うのがお兄ちゃんだもんね。少し怖いけど気持ちは分かる。


「もう話はいいだろ?行こうぜ?」


 お兄ちゃんがもう待ちきれないといった様子で私を囃し立てる。


 夜中に家を出て森に行く、とっても悪い子がする行動だと思う。しかも、明後日はもう旅に出る日。少しでも危険があることはしたくない。


 でも、私がここで行かなかったとして、お兄ちゃんは勝手に森に行くことだろう。それで何かあったらいやだ。


 私の知らないところでお兄ちゃんが魔物に襲われでもしたらと思うと1人でなんか行かせられない。


「分かった。準備するから待ってて」

「そう来なくちゃな。じゃ、俺は村の入り口で待っているからな」


 そう言い残してお兄ちゃんは私の部屋を後にした。その後廊下からの足音は聞こえてこなかったことからコソコソと廊下を歩いて外に出ていったんだと思う。


「ふう…全くしょうがないんだから…」


 一方で私はベッドから立ち上がって、クローゼットを開いて、森に行く準備を始める。

 

 取り出すのは奮発して買ったはいいものの着る機会が無かった服。その薄茶色の冒険服にそでを通して、ポーチの付いたベルトを腰に巻く。


 そしてお兄ちゃんからもらった髪飾りを髪につけた私は音を立てずに廊下を通って店の作業場へと移動する。


 作業台の下に隠した丈の長いブーツ履いて、護身用にと思っていた小さいナイフを手に私は村の入口へと急ぐ。


「こんな夜に、行ったこともない森かぁ…」


 声にすると本当に冒険が始まるって感じがする。まぁ今回はお兄ちゃんが言い出したことにしかたなくついていくだけなんだけど。


 楽しみだなんて全然思ってはいないけど、お兄ちゃんを待たせたらいけないと思って、少し走る速度を上げ、私は初めての冒険に出発するのだった。

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