第18話 私と贈り物

 相変わらず長いと感じる階段を駆け上がり、いつもの花畑へと足を踏み入れ…ずに私はぎりぎり高台の様子が分かるところからお兄ちゃんの様子を観察する。


 しつこいようだけど私は尾行中。お兄ちゃんに姿を見られるわけにはいかないのです。


「いや、もういいから。さっさと出て来いよ。」


 こちらを向いてお兄ちゃんはそう言った。どうやら既に尾行はバレていたそうです。


「なんだ、気づいてたの」

「当り前だ。結構バレバレだったぞ。ガンテツおじさんの家にいた時からだろ?」

「う…うん。そう、正解」

「やっぱりな」


 思ったよりバレてなかった。私の尾行が上手かったのか、お兄ちゃんが鈍感だったのか。まぁどっちでもいいや。


「そんな事より、最近どうしたの?カナリアさんとお兄ちゃん、何かしてたでしょ」


お兄ちゃんの顔をじーっと睨みつけながら私は問い詰める。


尾行もバレてしまったことだし、こうなったら本人から聞き出した方が早い。


幸いここは逃げ場も無い。絶対隠している事を暴いてやるんだから。


「そんな事怖い顔すんなよ、言うから。ほらこれ」


そう言ってお兄ちゃんはサユおばさんの家で貰ったらしき袋を私の胸に押し付けた。


「わわっ」


私は押し付けられた袋を手に取る。


「開けてみろよ」


言われるがまま袋を漁ると、なかから出てきたのはあのテーブルの上に置かれていたアクセサリー。


すぐそこに咲いている決して枯れず、しおれない不思議な花をそのまま使った綺麗な髪飾りだった。


「これって…」

「サユおばさんから貰ったんだ。お前に似合うと思ってな」

「私の為に用意したの?」

「まぁ…なんだ?旅立ち祝いっていうか…そんな感じだ。へへっ」


お兄ちゃんは照れ隠しなのか満面の笑みをしてそう言った。


誕生日でもない日に、まさかお兄ちゃんが贈り物を用意しているだなんて思わなかった。


予想外とはいえプレゼントはプレゼント、驚きは直ぐに過ぎ去り、嬉しさが胸の底から溢れてくる。


「えへへ…ありがとっ」

「どーいたしまして。まぁこの俺の旅の仲間なんだ、少しはオシャレしなくちゃな。」

「ん、そんな事言ったらお兄ちゃんの方がオシャレしないとじゃん」

「俺はいいの、男だし」

「そんな事ないよ、今は男の人だってオシャレするんだってよ」

「お前、そういう事はちゃんと聞いてるのな」


お兄ちゃんはそう言った後、ふと気付いた様に私の手にあったアクセサリーに目を向ける。


「お前、いつまでそれ手に持ってんだ、俺が着けてやるよ」

「えっ別にいいよ」

「いいから」


そう言ってお兄ちゃんは私の手からすっと髪飾りをとると、私の髪を弄りだす。


予想通りあまりそういう事に慣れていないのか、上の方から「えっと…こうか?」と悩んでいる声が聞こえてくる。


女性の髪は大事に扱わないといけないんだけどなぁとは声に出さずに、悪戦苦闘しているお兄ちゃんを待つ。


「出来たぞ」


しばらくすると、髪から離れてお兄ちゃんがそう言った。


私が髪を軽く触ると、右耳の上の方にふわりとした感触があった。


「うん、やっぱり似合ってるぞ」

「そう?でもお兄ちゃんの言う事だしなー」

「大丈夫だって」


まぁ、私も似合うと思ってたし、きっと大丈夫でしょう。


「正直に言うとなプレゼントが思いつかなくて、カナリアさんに聞いてたんだ」

「そうなの?」

「ああ、それでアクセサリーがいいんじゃないかって、でも俺一人でアクセサリー選ぶのは恥ずかしくてさ」


成程、それでなんだかソワソワしてたのか。


正直女の私にはよく分からない感情だけど、男の子はそういうもんなんだろうなぁ、と適当に納得する。


「あれ?でもカナリアさんも一緒にソワソワしてなかった?」

「あの人ノリいいからな」


小さく笑いながらお兄ちゃんはそう言った。


納得。そんな事かとは思うけどカナリアさんだからなぁ…と納得せざるを得なかった。


後気になるのは、ガンテツさんの家で貰っていた布に巻かれた何か。


でも、何となく答えは分かっていた。


私はお兄ちゃんにその考えが合っているかを確かめる為に質問する。


「お兄ちゃん、それ…」

「あぁ、そっか受けとったの見てたんだよな」

「うん、それ真剣でしょ?」

「正解。よくわかったな」


そう言って、お兄ちゃんは地面に置いた布を広げる。


広がった布から現れたのは、黒い鞘に入った剣。お兄ちゃんはそれを手に取って剣を抜く。


顕になった剣身部分は木製であることを示すベージュ色ではなく、鈍い銀色。


そして、金属特有の光沢が本物の刃物である事を示していた。


「うわぁ…」

「凄いだろ、いつか外に出る時にってガンテツさんに言っておいたんだ。」


お兄ちゃんはその剣のグリップを握って立ち上がると、西に傾き始めた空に向かって掲げた。


「遂にこれをなぁ…」


感傷に浸っているお兄ちゃん。それを見上げながら私は私は声をかける。


「その為に毎日修行してたんだもんね」

「まぁな」


お兄ちゃんは、そう言って剣を鞘に収める。その姿は様になっていた。まぁかっこよく見えるように隠れて練習とかしてたんだろうけど。


「これで、旅の準備もあらかた出来たわけだけど、最後に筋は通さないとな」

「まだ何かすることがあるの?」

「どちらかと言えばお前の方がやらないといけないことだぞ」

「え?」

「お前、まだ母さんに外に出るって言ってないだろ」


 そうだ、私はまだお兄ちゃんとカナリアさんにしか旅に出ると伝えていない。一番初めに言わなくちゃいけないのはお母さんのはずなのに。


「そういえば…」

「流石に何も言わずにいくのはな」


 お兄ちゃんの言う通り、ここまで私を育ててくれたお母さんに何にも言わないのは、後味が悪い。


 でも、それとは別に急に私まで外に出るなんてお母さんに言ったら怒られるんじゃないかという不安もある。


 昔からの夢を叶えようとしているお兄ちゃんとは違って、私の夢が生まれたのは最近の事。


 いきなり旅に出ると言ってもお母さんは旅に出るのを許してくれないんじゃないか。そう思うと足がすくんでしまう。


「まぁここで止まっていても仕方がない。帰ろうぜ」


 お兄ちゃんは私の心とは真逆の表情をして、明るい声で言った。


「う、うん」


 小さく返事を返した私は、少し下を向きながらお兄ちゃんと共に家へと帰るのだった。







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