第17話 私と日常のお兄ちゃん2

 続いてお兄ちゃんを追いかけて来たところは、他の家より少しゴテゴテしている見た目の、村で唯一の武器屋さん。


 こんな平和そうに見える場所でも魔物は出る。らしい、私は見たことないけど。


 まぁこの村に長年いる私が見たことないのだから武器の需要なんて皆無に等しい。じゃあこの村の武器屋さんは何をしているのかというと…


 あっとその前に気づかれない様に隠れなくちゃ。私が近くにあった小さな柵の裏に隠れると、お兄ちゃんとガンテツさんの話が聞こえてくる。


「よう、タカサの坊主!今日は何の用だ?前作ってやった木刀は折れちまったか?」

「違うよ、ガンテツおじさん」

「じゃあ何だ?家具か?それとも何か道具か?」


 そう、ガンテツさんは武器屋だけど頼めばなんだって作ってくれる何でも屋だ。私の家のタンスだって作ってくれた。

 

 その他にも小さいものは鎌だとか、大きいものだとその辺の家も作ったらしい。正直、おじさんに作れない物なんてないんじゃないかと思う。


 お兄ちゃんも何かガンテツさんに作ってもらいに来たのかな。そう思いながら、柵の隙間から二人を見つめる。


「違うよ前から頼んでたものがあるでしょ?」

「ああ?ああ、あれか、やっと受け取りに来たんか。」

「うん、出来てる?」

「出来てるぞ、ちょっと待ってな」


 そう言ってガンテツさんが奥に入っていくのが見えた。


 その口ぶりから、お兄ちゃんはどうやらだいぶ前から何かを頼んでいたそうです。


「前から…じゃあ最近のお兄ちゃんとは関係ない?」


 とはいっても、お兄ちゃんが何を頼んでいたのか興味はある。そんな話聞いたことなかったし、ましてや家族。気になるのは当然でしょう。


 私はお兄ちゃんに気づかれない様に、ガンテツさんの家へと周りこみ、家の側面へと移動した。


 そして、何を頼んでいたか確かめる為に、顔を覗かせる。ちょうどガンテツさんが戻ってきたみたいだった。


「ほら、ちゃんと手入れもしていたからピカピカだぜ」

「ありがとう!ああ…!ちょっと待ってここで広げないで!」

「どうした?直ぐ中身を見ねぇのか?」

「いい、後で見るから」

「そうか、なんか変だと思ったら、言ってくれよ?」


 お兄ちゃんが受け取ったのは布に巻かれた何か。そんなに大きくはないけど、私の腰から下くらいの大きさはあると思う。


「何だろ…それくらいの大きさの物…」


 覗かせた顔を引っ込ませて、私は何を受け取ったのかを考える。

 

 最初に思い付いたのはお兄ちゃんがよく使っている木刀。確か同じくらいの大きさだったと思う。


 でも、この前見た時も木刀と振っていたし、少し汚れたからと言ってすぐ新しいものを用意しないはず。


 だとすると…もしかして。そう思ったとたん、「じゃあ、おじさんありがとう!」と言うお兄ちゃんの声と、どこかに駆け出していく音が聞こえた。


 しまった。そう思った時にはもう遅くて、お兄ちゃんは見えなくなってしまっていました。


「むぅ…しょうがない…」


 こうなったらガンテツさんにどこに行ったかを聞き出そう。私は壁の裏から体を出して、ガンテツさんに話しかける。


「こんにちは、ガンテツさん」

「おお、そんなとこにいたんか。どうした?お前さんも俺に何か用事か?」

「ううん。お兄ちゃんがどこに行ったか聞きたくて」

「なんだい、見てたのか。お前の兄ちゃんは高台に行くって言ってたぞ」

「そうですか、ありがとうございます!」


 私はおじさんに背中を向けて、お兄ちゃんを追いかけようとする。


「ああ、ちょっと待ってくれ」


 そしてそのまま走りだそうとした時、後ろからガンテツさんの声が聞こえてきた。


「はい?なんですか?私急いでるんですけど」

「ああ…なんだ…聞いたぜ?お前も村を出るんだってな。」

「…はい。私も外を見たくなったんです」

「そうか、別に止めはしねえけどよ。ちゃんとあいつを見といてくれ」

「お兄ちゃんを?」


 私は振り向いた。


「ああ、そうだ。あんな危なっかしいの誰かが隣にいないとな」


 確かに、お兄ちゃんは見ていて危なっかしい。はたから見ていてもハラハラすることも沢山ある。


 外の世界は多分、危険なことがいっぱいある。おそらく、お兄ちゃんはそういうのに巻き込まれやすいと思う。


「でも、嬢ちゃんがいるなら少しは安心だ」

「きっと私は大変でしょうけど」

「はは、違いねぇ!」


 ガンテツおじさんはカカッと笑いながら楽しそうに答えた。それにつられて私も小さく笑みを浮かべる。


「ところで、そろそろ行かなくていいのかい?」


 そういえば、私はお兄ちゃんを追いかけている最中。こんなところで話をしている場合じゃありません。


「そうですね。おじさんまた今度。」

「おう!じゃあな」


 私は高台の方へと走り出し、武器屋を後にした。


「また今度か、次うちに来てくれるのはいつになる事かね」


 そう寂しそうにつぶやいたガンテツさんの声は、私の耳に届くことはありませんでした。



 

 



 

 

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