第13話 私とおやすみ
次に私が目を覚ましたのはベッドの上でした。体を起こして、辺りを軽く見まわして見えたのは、見慣れた木目の天井と壁と床、商人さんが持ってきてくれたお気に入りの服が入ったクローゼット、窓辺から差し込む月の光に照らされている、花瓶に活けられたバラの花。
どうやら、いつもは一日の始まりに目が覚めるはずの私の部屋で、私は、一日の終わりに目が覚めたそうです。
「ん、今何時だろ…」
私は、のそのそとベットから出て時間を確認しに廊下へ出ようとする。
トントン…
その時、ドアをノックする音が聞こえた。私はベットに座ったまま、音のなる方にゆっくりと振り向いて、ノック音の主を確認する。
「ああ、起きてたか、リリ」
ドアを開けて話しかけてきたのは、寝間着姿のお兄ちゃんでした。
「あぁ…お兄ちゃん。今何時?」
私はゆったりとした口調で尋ねます。
「もう9時だ。夕飯も食い終わったよ、後は寝るだけだ」
「ええ…そんなぁ…」
予想どおりとはいえ、いざ言われると少しがっかりする。なんだかもったいないことをしたような気分。
ぐぅ~…
そして、夕飯を食べ忘れたのが分かったとたんにお腹が音をたてる。私は別にご飯をよく食べる方では無いけど、今日に限っては運動もしたのでお腹がすくのは当然だと思う。
「一応パンくらいは残ってるぜ、食べて来いよ。」
「ん、分かった。」
そう返事をした私は、パンを食べにキッチンへ行こうと、ベットから立ち上がってドアの方へと歩き出す。
「それにしても…ククッ…」
私が廊下に出たとたんに、お兄ちゃんは何かを思いだしたかのように笑い始めました。
「なに笑ってるの?ちょっと気持ち悪いよ?」
「だってよう…お前お姫様抱っこされて…ククッ…」
「お姫様抱っこ?」
聞きなれない単語に私は首をかしげる。
「お前、カナリアさんに抱えられて帰ってきただろ?村の皆の見世物になってたぜ?」
「え?あ…ああっ…あーーーーっ!!!!!!」
私は夜中なのに大声で叫んでしまいました。
修行の帰り道は、師匠に抱かれたままだった。そして、その状態のまま寝てしまったという事は、例の恥ずかしい恰好のまま家へと帰ってきたという事。しかもお兄ちゃんが言うにはそれが村全体に公開されたみたいです。
その事実に気が付くと、私の顔はどんどん果実のように赤くなりました。
そして、恥ずかしさが限界を超えた私は、全力ダッシュで部屋の中へと戻り、ベッドへと飛び込んだ。
「あー!!!もう!やだ!あんなの見られたらもう外に何てでーらーれーなーいーーーーー!!!!」
足をバタバタして、枕に顔を埋めながら叫ぶ私。
「まぁ、落ち着けよ、もう過ぎたことなんだし…クククッ…」
そんな事言いながらずっと笑いをこらえているお兄ちゃん。あぁもう本当に恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいーーーーー!!!
私は、全身を覆い隠すように毛布の中に包まります。
「もう寝る!寝る!寝るったらねーーーるーーー!!!」
「はぁ…どうせさっき寝たばっかで寝れないだろ。ほら、せめて話し相手になってやるよ。今日はカナリアさんと何してたんだ?」
そう言って私の隣から、ポスンという音が聞こえる。多分、お兄ちゃんが私の隣に座った音だと思う。
実際、私の目は冴えており、眠る事なんて到底できない状態だった。
でも、私がお姫様抱っこされてたことをずっと笑っているお兄ちゃんに、師匠と魔法の修業をしていたことを話すのは、何か癪だった。
「…教えない」
「教えないって…それじゃ話続かないだろ…」
「逆にお兄ちゃんは何してたの?用事があったんでしょ?」
「ん?これを書いてたんだよ…ほら見てみろよ」
お兄ちゃんがそう言うと、私は毛布から顔を出す。そして、お兄ちゃんの方を向くと、何か文字が書いてある紙を私に見せつけていた。
「何それ?」
「ふふふ…聞いて驚け…見て笑え!これが俺が旅でやりたいことだ!」
私は、お兄ちゃんからその紙を受け取ってしげしげと眺める。
そこには、「旅の目標リスト」と書かれた見出しと、お兄ちゃんが旅でやりたいであろうことが10個、箇条書きで書いてあった。その中には、私の聞いたこともないようなことも書かれてある。
「ふふ…どうだ?驚いて声も出ないか?」
お兄ちゃんが自信満々な表情で言う。別に驚いて声を出さなかったわけでは無いんだけど、
「あまりにも夢物語だなぁって…」
「なんだよ、悪いのかよ」
「んーん?すごいいいと思うよ。夢は夢でも、素敵な夢って感じがする。」
私は紙をお兄ちゃんに返しながら、心を込めてそう言った。
「なんだよお前が素直に褒めるなんて、気持ち悪いな」
「なによ、別に本当にいいと思っただけだし。」
確かに以前の私ならこの紙を見ても「何言ってるんだ」と思ってたかもしれない。
でも、今は私も旅に憧れている人間。同じく旅に憧れている人の夢を笑えるはずがなかった。
「そうか…ふわぁ…」
お兄ちゃんが欠伸をする。
「流石に、そろそろ眠くなってきたな…」
そう言って目を細めるお兄ちゃん。流石にそろそろ起きている限界が近そうなのが分かる。
「そっか、ごめんね」
「ん、大丈夫。また明日な…」
お兄ちゃんはそう言って立ち上がり、ドアの方へと向かい、「お休み、リリ」と、言ってドアを閉め、部屋を後にする。
「あ…」
お兄ちゃんが出ていった扉を見て、私は呟いた。
「お兄ちゃんに、私も旅に出たいって言うの忘れてたな…」
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