第12話 私と理由。それと少しアタシ
それからも魔法の修業は続きました。
私が疲労を感じたのは当然のことらしく、師匠曰く、「魔法は使い続けることが大事なのよ。いずれ慣れてくるわ♪」とのこと。
と、いうわけであれからずっと風を吹かせていました。とはいっても、吹く方向を変えたりだとか、つむじ風みたいなのだとか、自分を浮かせてみたりだとか。
…まぁ最後のは結局できませんでしたが、とりあえず頑張りました。
ですが、限界というのはいつだって訪れるもの。夕方までずっと風を操っていたことで力を使い果たした私は、大の字の格好で仰向けに寝そべっていました。
「師匠…もう終わりにしましょうよ…」
天を仰ぎながら私は言う。
「さすがに限界みたいね。立てる?」
「立てません…」
「しょうがないわね…よっと!」
「わわわっ⁉」
視点が急に持ち上がる。師匠の顔が近くなる。まつげが長くて、良い匂いがして、唇もなんだかつやつやしている気がします。やっぱり美人さんだ。
そんな素敵な女性の両手にすっぽりと収まる私。
「な…なんか恥ずかしいですよ…この格好…」
「聞こえないわ♪」
「聞こえてるじゃないですか!」
「まあまぁ、素直に運ばれなさい♪弟子の世話を焼くことが師匠の役目って友達も言っていたわ」
そのお友達が言う世話っていうのは、そういう事じゃないと思うけど、疲れ切った私はそのまま師匠に運ばれながら村への帰路につく。
「ところで、どうして魔法を覚えようと思ったの?」
私を抱えて歩きながら、師匠は私に尋ねてくる。
「旅に出るには、必要だと思ったからです」
「必要?そうでもないと思うけど?村の外でも人間は魔法が使えないのが普通よ?」
「…何でもいいから、戦う力が欲しかったんです」
外に出ると決めた時に最初に思ったことは、「外に出る為の準備をしよう」と、いう事だった。そして、その一つとして、何でもいいから戦う力が欲しかった。
外の世界には魔物が溢れていると思っていたし、身を守るための力が必要だと思った。
でも、私はお兄ちゃんみたいに剣の練習なんてしていないし、力も強いわけじゃない。でも、
「師匠みたいな魔法が使えたら、私も戦えるかなって、そう思ったんです。」
「なるほど。それなら、今日みたいなのじゃ全然だめね。もっと頑張らなきゃ」
「はい、がんばります…」
腕の中でゆらゆらと揺らされながら私はどうにか力を絞り出したような、力のない返事を返しました。
こんなへなちょこな返事になったのは、話しているうちに眠くなってきたから。
でも、しょうがないと思うのです。師匠の腕の中はとてもあったかくて、安らいで、気持ちいい。何もしていないと、段々と瞼が重くなって、睡魔に負けそうになってくる。
その感覚に対抗するために、私は目をこする。
「んん…」
「眠くなったら寝ちゃってもいいのよ?今は同じ家に住んでいるんだし」
師匠に優しい声でそう言われると、私はその提案につい甘えてしまいそうになります。
「ダメです。こんな姿皆に見られたら、恥ずかしくて、旅どころか家からもでられなくなっちゃいますよぅ…」
多分だけど、周りから見た今の私はすごい恰好悪いんだと思う。体全部を他人に預けてるばかりか、その様子が周りから丸見えだし、両足がぶらぶらしてるし。
まったく覚えていないけど私は、ずっとずっと小さいころにこれを経験したような気がする。
「じゃあぜめて町の前まではちゃんと起きてなさい。そこでおろしてあげる。起きなかったらこのまま皆に見せつけながらおうちに帰っちゃうわよ?♪」
「はい…」
夢うつつで答える私、ダメだ、このままだと寝ちゃう…なんか話して何とか起きてないと。
「ししょー…」
「んー?」
「だいすきです…」
「あなた、すごい恥ずかしいこと言ってるわよ?」
「えへへ…あんまりこうやってあまえることなんてなかったし…ししょーといっしょだとふしぎと、とってもあんしんするんです…おかあさんみたいです…」
「そうなの?アタシ、ママの経験なんて無いはずなんだけどなぁ…」
「えへへ…ずっといっしょにいてください…」
結局睡魔に耐え切れずに、その言葉を最後に私は眠りに落ちてしまいました。
つまり、今日の私のお話はここでおしまいになりました。
「あら、結局眠っちゃった。」
とっても可愛い寝顔。アタシがこれを見たのはいつ以来だっけか。
なんだかとても安らぐような。前見た時も私はそんな気持ちだったと思う。
「ずっと一緒…ね」
もちろんアタシは旅人。『ずっと一緒』ではいられない。
だけど、誰かに魔法を教えるなんて初めてだし、それも楽しいと思っているから、ここにいたい気持ちはまだある。
だからまだ一緒でいられるけど、それは永遠じゃない。
ああ、それとも、アタシと一緒に行きたいとかそういうことかな?それだったらずっと一緒にいられるかもしれないけど。
でも、きっとそうはならないんだろうな。アタシは今日の事を思い返してそう思った。
「ごめんね。でも、あなたにはもっとふさわしい人がいると思うわよ?」
アタシのその言葉は、夢の世界へと旅立った少女にはもう、届かなかった。
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