第11話 私と風2

 やったやった!これで魔法を使えたんだ!自分のしたことに感動しその場でぴょんぴょんと跳ねる。最初はどうなるかと思ったけど、このままいけば…カナリアさんみたいなことも出来ちゃったりして!えへへ…


「じゃあ次ね」


 そんな私を遮るように、あっさりとした口調でカナリアさんは言いました。かなりの時間頑張ったのに、何ともあっさりとしているというか。

 

「もうちょっと余韻に浸らせてほしいというか…」

「だめよ、大体風を吹かせるなんて魔法なんて使わなくてもできるじゃない。息吐くとか」


 私は口を丸く開けて「あぁ…」と小さく声を発しました。

 悔しいけど納得した。なるほど、そういえばそういう手段があった。次はそれをイメージしてやってみよう。


 そう思っていると、カナリアさんは服のポケットから小さな小石を取り出して、手のひらに乗せて私に呼びかけます。


「じゃあこれをアタシの手から落としてみて?」

   

 一瞬で試す機会が来ました。私は、せっかくだから魔法を使っている感じを出すために、右手をパーにして小石に向ける。そして、小石の真横から息を吹きかけるイメージをする。


ヒュー…


 風の力で小石は飛ばされ、カナリアさんの手から落ちた小石はぽとりと音を立てて草の上に転がりました。

 カナリアさんは少し感心した様子で、

  

「…それは直ぐにできるのね」

「さっき息を吐きだすって聞いたので、そのイメージでやれば簡単でした。」


 指をくるくると回して得意げな表情をする私。それを見て、なるほど、という感じで口を覆うカナリアさん。


 ふふふ、次はどんなお題が来るのかな?どんなことでもやっちゃいますよ?と、調子に乗った考えを心に秘めていた私に対し、カナリアさんは、にやりと笑ったと思うと、胸をさらけ出すように手を大きく広げて言いました。


「じゃあ、今度はアタシを吹き飛ばしてみて?」

「ええ!?」


 私はつい声を出してしまいました。すごい驚きました。いくら何でもそれは無茶というものです。


「そんなの…できません!危ないですよ!」

「危ないって…そんな気、私は全然しないわよ?だって、♪」


 うふふ、と、小さく笑うカナリアさん。嬉しいことに私の事をよくわかっているようで、反論の余地が微塵も無い言葉を私に突き付けてきました。


「私に危ないってわからせたいんだったら、実際にやって見なさいな?」


 挑発するようにこちらを誘うカナリアさん。そんな明らかな事されたら私だってやるしかないと思いました。


「もう!どうなっても知りませんよ!」


 私は、今度は両手をパーにして前に突き出し、自分の後方からカナリアさんの方へ向かって風を吹かせました。そして、私はその風をより強いものから強いものへとイメージを変えていく。


ヒュー…ヒュウウウウ‥‥ビュウウウウ…


 ですが、いくら頑張ってもカナリアさんを吹き飛ばすほどの風の勢いにはなりません。

 自分の出せた風は服が吹き飛ばされそうになる位。それ以上の風は何故か出なかった。カナリアさんのような風は頭の中に焼き付いているのに何故か出せなかった。それでも頑張ってもっと強い風を出そうと体をこわばらせる。


「む…むぅ…」

「どうしたの?そんなんじゃ全然吹き飛ばないわよ♪」


 全然余裕そうな表情を見せるカナリアさん。そのままカナリアさんは、私がやったみたいに本を持っていない方の手を突き出す。


ビュオオオオオオオオオオ!!!!


 カナリアさんの手から、ものすごい勢いの風が飛んできた。それは、あざ笑うかのように私の風をかき消し、その突風は私の体全体に体当たりしてきました。


「きゃあっ!?」


 私は腕で顔を覆いながらその風に負けじと足を踏ん張ったものの、ものの数秒で耐えきれなくなり、尻もちをつく。すると、風はさらに強くなり、このままでは体全体が吹き飛ばされると思うほどの暴風へと変わった。


「も、もう降参です!ま…まいりましたからっ!」


 強くなった風に耐え切れず、私がどうにか上半身まで倒されない様にしながら必死にそう叫ぶと、それにこたえるように風はゆっくりと勢いを弱くし、しばらくすると止まりました。


 風が止まったことを認識してから、顔先の腕をどけて顔を上げると、そこには膝を抱えてこちらに顔をのぞかせるカナリアさんの姿がありました。いきなりの光景に少し驚いた私に対し、カナリアさんは真剣な表情をして私に言いました。


「私を吹き飛ばすにはこれよりもっと強い風が必要よ?こんなので降参してちゃダメっじゃない。」


 私は、座った姿勢のまま、手を膝の上において答える。


「うう…ごめんなさい。ちゃんとカナリアさんの風を想像したんですけど…」


「それじゃあ出来ないのも当然よ。リリちゃんが私よりも強いと思っているのなら、話は別だけど…そうじゃないでしょう?」


「そうですね、カナリアさんは私よりも魔法の扱いが上の人…ううん、それだけじゃなくて、師匠だと思っています!」


「だからダメなのよ、自分じゃまだ届かないと思ってる。それじゃあ私を吹き飛ばす風なんて起こせっこないわ。」


 そうカナリアさんに言われてシュンとし、俯く私。風を起こせなかった事に対してじゃなくて、カナリアさんを師匠と思うことに対してダメと言われたことの方がダメージが大きかったです。

 その様子に気づいたのかカナリアさんが慌てた様子で私に声をかける。


「ああ!そんなにしょげなくていいのよ。まだまだあなたは未熟どころか魔法覚えたてだし…あたしの…そう!弟子として!弟子としては上々の成果と言えるわ!師匠の私も鼻高々よ!」


 そう言いいながらわしゃわしゃと私の頭を撫でる。えへへ、なんだかあったかくてとっても嬉しいです。


「えへへ、くすぐったいです…師匠」


 さっきまで落ち込んでいたのについ笑みがこぼれてしまう私。こんなにコロコロと感情って変わるものでしたっけ。と、自分でも思ってしまいます。

 

「まぁ、頑張ったし少し休憩しましょうか。」


 私の頭から手を放して師匠はそう言いました。体は余り動かしてはいないけど、少し疲労感を感じていた私は、正直助かったと思いながらそのまま体を倒して仰向けに倒れました。


「ああ…そうそう言い忘れてたんだけど。」


 寝転がった瞬間に聞こえた師匠の声に反応して私は体を起こす。


「魔法、他の人の前で使うのは禁止ね?」

「え?どうしてですか?」

「魔法は暴走しやすいの、魔法を使わないときと使うときの切り替えが難しいからなんだけどね。」


 そう言って本を開く師匠。風がその周りで巻き上がった。


「さっきはそうしてなかったけど、私も本を開けてないときは魔法は使わないって決めてる。」


 師匠はそう言って、本を閉じる。吹いていた風は最初っから吹いていなかったかのように止まりました。


「だから、基本は使わない状態を意識しなさい。これも修行だと思って、ね?」

「…わかりました。」


 お兄ちゃんやお母さんに魔法を見せられないのは残念と思ったけど、私はその言葉に素直に従うことにしました。

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