第10話 私と風

「うーん…うーん…」

「がんばれ!がんばれ!リ・リちゃん☆」


 草原の真ん中で、頭を押さえる私とそれを応援する金髪美少女カナリアさん。


 日が傾き始めても、風を出すイメージが全く湧かず、私は、ずーっとうなっていました。


 大体、風って自然にふいているものでそれが誰かが吹かせてるだなんて考えたことなかったし、ましてや私がそんなことできるだなんていきなり言われても分からないというか、でもカナリアさんは普通にやってるし、あれ?じゃあもしかしてカナリアさんから風を出す想像すればいいのでは?でもそれで風が出たとしても私が風を出したんじゃなくて、カナリアさんが風を出したことになるから、結局私は風を出していないことになって、それじゃ駄目じゃないですか。じゃあ他の方法を考えなきゃ。その為にはまず風が何かを考えなきゃいけないよね。風っていうのは気持ちよくて、涼しくて、人をぴゅーんって上に運んで…ってそんなのカナリアさんがやったやつ以外見たことないんだけど。もしかして本当の風っていうのはああいう感じなの?そうだとしたら私一回も見たことないんだけど。ていうか本当の風って何?本物とか偽物とかあるんですか?それだとすれば私は本物の風を出さないといけないわけで、でも本物の風が何かは分からないわけで――――


「風って…何。」バタッ


 考えた結果、私は草の上に顔から倒れこみました。


「うーん…そこまで難しい物じゃないと思ったんだけど…」


 カナリアさんはそう言いますが、私にとってはめちゃくちゃ難しいです。いきなり魔法が使えますよって言われて使える人の頭の中が見てみたいもんです。


「…カナリアさんはどうやって使えるようになったんですか?」


 私はそう尋ねました。カナリアさんの方法を参考にすれば私も何かつかめるかもと思ったからです。


「私の場合、生まれがそうだったからね、風が使えるのも当然だったというか。」

「生まれから?」

「そ、ウィンドリウム家は代々風の魔法を使える家だったの。だからお父さんもお母さんも妹も風の魔法を使えてたから、使えるのがが当たり前だったのよ」


 なるほど、お父さんもお母さんも魔法を使える環境だったら確かに自分も使えると思うのも当然です。カナリアさんが魔法を楽々と使っているのも納得がいきました。


 まぁ、何かをつかめると思った私の目論見は大外れだったわけですけど。


「そうですか…うーん…うーん…」


 再びうなりだす私。何も進展がなかった私はまた悩む作業に戻るしかありませんでした。そんな様子を見たからか、カナリアさんは優しい声で話しかけました。


「うーん…リリちゃんはどんな時に風を感じたと思った?」

「え?えっと…」


 私は記憶を思い返す。私は風を感じたことは…ある。それはどこで感じたんだっけ?


「あっ…村の一番高い所…花畑のある高台です。」


 そう、あの高台。あそこで私は心地よい風を感じたんだ。


「じゃあ、そこを思い返してみて?そうすれば、きっと風は起こせるわ。」


 カナリアさんはそう言うと、人差し指をくるりと回す。

 その瞬間当たりの風が止んだ。ゆらゆらと揺れていた草は動きを止め、木の葉っぱが擦れて鳴っていたザワザワといった音も聞こえなくなった。


「…やってみます。」


 私の声だけが草原に響き渡る。カナリアさんが少し頷いたのを見てから、私は目をつむります。

 私は高台の情景を思い返す。そこで感じた風。心地よくて、すぅーっと体に染み渡るようで、どこまでも、どこまでも広がっていく感じ。

 草花を少し揺らすくらいの強さで、人を気持ちよくさせるような、そんなイメージの風を私は想像する。


「‥‥‥‥‥んっ!」


 強く、強く念じる。風のイメージは固まった。後は信じるだけ。カナリアさんは、私も魔法を使えるようになったって、そう言ってくれました。私は小さな声で呟いた。


「私は風を、使えます。」

 

ヒュー…


 少し風を感じた、意識しないと気づかないようなとても弱いものだったけど、確かに感じた。


「もう少しよ」


 カナリアさんがそう言ったのが聞こえた。風が弱かったのは、きっと私にまだ自信がなかったから。「それなら…」と思って、大きく息を吸って、大きな声で私は言いました。


「私は!風を!使えまぁぁぁぁす!!!」


 ヒュウウウウゥゥゥゥゥゥ・‥‥


「あっ…!!」


 私が宣言したその瞬間、風が吹き抜けた。思わず声が零れ、目を見開く。


 体全体に感じるのは、心地よい風。私が何度も、何度も感じた風。私が一番好きな風。それを私が吹かせられたのだ。


 風の吹き続ける中、私は浮き立つ気持ちでカナリアさんを見て言った。


「カナリアさん!私!できました!」


 その表情を見て、カナリアさんは私以上に嬉しそうに微笑みながら言いました。


「ええ!とってもとっても上出来よ♪」



 

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