第9話 私と魔法
その日のカナリアさんの話は前よりも少し面白く聞くことが出来ました。
でも、私が思っているよりカナリアさんは色んな所を旅しているらしく、知らない世界の話が半分くらいでした。
と、いうわけで結局半分はキラキラして聞いていたけれど、もう半分は以前と同じくピンとこないままだった私は、話を終えて近くの椅子で休憩していたカタリナさんに話しかけます。
「じゃあカナリアさん。朝の約束通り…お願いできますか?」
今朝、私は「風を教えてほしい」と、カナリアさんに尋ねた。そう聞いた時のカナリアさんは不意を突かれたような表情をしていましたが、「まぁ、いいわ」と快く承諾してくれました。
「まぁ約束だものね。良いわよ。行きましょう?♪」
いつもの本を手に持ったまま立ち上がるカナリアさん。
そして、私はカナリアさんと共に外の草原に行こうとしたのですが、
「なんだ?リリ、おまえカナリアさんを独り占めか?」
お兄ちゃんが横からそう声をかけてくる。「こっちはもう予約済みだもん」と私は答えを返すけど、お兄ちゃんはそう簡単にそう簡単に引き下がらないだろうな。
「まぁ…。別にいいか」
あれ?思ったより素直にお兄ちゃんは引き下がりました。
「今日は俺が用事を思い出したんだ」
そう言ってお兄ちゃんは修行でもするのか広場の方へと走っていきました。
「…へんなの」
いつもと違う様子のお兄ちゃんの後姿を見て、私はそう呟いた。
――――――――――
「うん。ここならちょうどいいかな?」
村を出て10分くらい歩いた時に、カナリアさんは足を止めて、草原の真ん中で言いました。
私もそれに合わせて足を止める。そして、カナリアさんは数歩前に進んで、私の方へと向いて、私に向けて質問する。
「さて、まず私が使った…魔法がどんなものか知ってる?」
「わかりません。」
「即答ね…本当に何にも知らないの?」
「はい、あんなの始めて見ました。もしかしたら商人さんが話してたのかもしれないですけど」
「それなのに魔法を覚えようと?もしかしたら自分は使えないかもとか思わなかったの?」
「思いましたけど、とりあえず聞いてからにしようと思って」
「…あなた、リアリストの割にとりあえずやってみようの精神なのね…珍しいわ…」
そう言ったカナリアさんは私に近づいて、私の頭に手を置く。
「急にどうしたんですか?」
上目づかいで、カナリアさんに尋ねる。
カナリアさんは置いた手をそのままに話し始めます。
「魔法はね、だれでも使えるの。今からあなたも使えるようになるわ。」
言い終わった瞬間。カナリアさんの触れている場所から、何かふわりとしたものが入ってきたかと思うと、その何かが体を巡っていきました。そして、巡った場所から自分が変わっていくような、新しくなっていくような…そんな感覚がしました。
その感覚が全身を巡ってしばらくすると、その不思議な感覚はピタリと止まる。
「はい!これであなたも魔法を使えるようになったわ♪」
私の頭から手を放したカナリアさんは、いつもより楽しそうにそう言いました。
さっきは不思議な経験をしたものの、別に体に変わったところは見られない。これで本当に魔法が使えるようになったのかな?
そう思いながら体をくねらせて全身を見回しながら私は尋ねました。
「えっと…それでどうやったら使えるんですか?」
「イメージよ」
「え」
全身を見るのをやめて、顔をカナリアさんに向ける。
何か私が一番苦手な単語が聞こえたような気がします。
「だから、イメージよ。イメージすれば何でもできるわ。あ、もちろん風に関したことだけよ?」
どうやら聞き間違いとかじゃなかったそうです。
「とりあえず何でもいいからやってみせなさいな♪」
軽い口調でそういうカナリアさん。その言い方から、「それくらいできるでしょ?」という言葉が後に続きそうな気がしたので、私は申し訳なさそうに答えました。
「えっと…できません」
「・・・・・えええええええええ!?な?なな?なんで?」
一瞬放心した後、私の短い人生であまり聞いたことない程の声量で驚くカナリアさん。
とりあえず、私が風を吹かせられない理由を話しました。
「だって…私、私が風を吹かせるのを見たことがありませんし…」
それを聞いたカナリアさんは大きなため息をついてこう言いました。
「これはとっても前途多難ね…」
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