第8話 私と朝
「ら~ららら~♪」
私の朝の日課。それは庭の花に水を上げること。高台に咲いている大きな花弁が6方向にしなった花じゃなくて、私の家で育ててるのは薔薇の花。花弁が繋がっていて、巻きついたような花。とても強い香りで、町でもいろんな人が好む人気の花らしいのは、自分の事じゃないけど、ちょっと私の自慢だったりする。
「おはよう。朝早いのね。」
「あ、カナリアさん。おはようございます。」
私は、手に持ったじょうろを両手に持ったまま、丁寧にお辞儀をして挨拶を返す。
カナリアさんは、しばらくの間、私の家に住むことになった。地面に下ろしてもらった時、「私、そういえば今日止まる場所無いの♪」って言われたときは流石にびっくりしましたけど。
まあ、飛ばせてもらったお礼もかねて、私のほうから、カナリアさんを誘って、泊めることにしました。「だから、少しの間泊めてくれないかしら?」なんて、カナリアさんは口に出さなかったけど、そういう要求が含まれてるのが伝わってきましたし。
その後、家に帰ってから、カナリアさんをしばらく家に泊めていいかを尋ねると、お兄ちゃんは喜んでいたし、お母さんも歓迎ムードでした。
商人さんが次に来るのは、大体1週間後。それまで私とずっといてくれんだと思うと思わず笑みがこぼれてしまう。
「今日も、皆さんとお話しするんですか?」
私は尋ねます。
「ええ、そのつもりよ。まだまだ話したいことはたくさんあるし、あなたも来るでしょ?」
「はい!もちろんです!」
昨日の事で夢を持てた私は、旅の話をもっと楽しく聞けるという確信がある。その証拠に、いつもは楽しくて、「ずっと続けばいいのにな」って思っている朝の日課の時間も「早くすぎないかな」と思ってる。
「それにしても、ここのお花も素敵ね!甘くてとってもいい香り!きっとリリちゃんが丹精込めて世話してるおかげね!」
「えへへ…ありがとうございます。」
自分の事じゃないけれど、やっぱり、育てている花の事を褒められるといつも嬉しく思います。
そんな顔の私を見つめるカナリアさん。すると突然何か思い出したような表情をして、私に尋ねました。
「そういえば思ったんだけど…あそこの高台に咲いていた花。あれは誰が育てているの?」
「誰も育ててないですよ?」
「え?」
驚いた表情をするカナリアさん。そりゃあ誰も手の加えないままあんなにきれいな花畑が咲き誇るのは、なかなか信じられた事じゃないと思います。
私は指を立てて得意げに説明します。
「あそこに咲いている花は、だれも育てていません。いつの間にか育っているんです。しかも、年中咲いてます。だから村のみんなは、定期的にあの花を摘んで、花束とか最近だと、バーバリウムっていうものを作ったりするんです。」
と、ここまでは事実の話。そして次に私は、この村の人たちならだれもが知ってるお話を話し始めます。
「それで、あの花は、この村の始まりらしくて、それを見つけて広めた人が『ここに村を作ろう。』と、言いだしたって聞きました。」
誰かから聞いたかも覚えてないけど。まぁ聞いた話なので信じてませんし、確かめる術もないですけど。
「そうなの?ふーん…そんな歴史のある不思議な花だったのね…」
「そう。フシギバナなんです。」
「あら、フシギバナっていうのね。変な名前。」
「あっ…ごめんなさい。そうじゃないです。嘘つきました。」
ちょっと嘘をつかれてショックでガビーンな顔をするカナリアさん。ごめんなさい。そんなつもりはなかったんです。
「…なので私たちが育てている花は全部脇役になっちゃうんですよね…」
そう、私は呟いた。そういう経緯があったから、この村の主役は全部あの花にとられちゃってる。だから、この村のお花は全部その引き立て役なのです。「ちょっと悲しいな。」そう思っていてもどうしようもないことでした。
「ううん…そんなことないわ。あなたが育てた花だもの。あなたにとっては一番の主役。でしょ?」
「カナリアさん…ありがとうございます。」
私は、その言葉にほんの少しだけ、救われたような気がしました。
「そうだ、カナリアさんに言いたかったことがあるんです。」
「ん?なあに?」
私は昨日から思っていたことを口にする。夢を見せてもらった時、私が初めて見たものは外の光景と、もう一つ。
「今日の午前のお話が終わったら…」
私が感動して、欲しいと思ったもの。
「私に、風を教えてくれませんか?」
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