第6話 私と解決策

「はぁ…」


 高台の花畑へ逃げた私は、退屈な村の外を見ながら、いつも以上に深く息を吸って、大きなため息をついていた。


 今頃村の皆も旅の話を聞いているんだと思うと余計に気が滅入ります。


 当たり前だけど、村の外を見ていても何も感じることは無い。目の前にはイメージなんていらない現実の風景が広がっているけども面白くはない。いつも通りの青く染まった空、黄緑の草原に一筋の茶色道。深い緑色の木が密集した森。目をつむってても鮮明な絵が描けそうなほど見てきた景色です。


 ふと、楽しそうに話していたお兄ちゃんを思い出す。いったいどんな景色が見えたら私はあんなに楽しそうに夢を話せるんだろう。


「すぅー…はぁー…はぁ。」

「あら、本当にため息してる。」

「ひゅいいいい⁉」


 突然、視界の左側から話しかけるカナリアさん。階段を上る足音所か気配すら感じなかったのにどこから現れたの?


「ふーん…とってもいい場所ね!ここ!咲いているお花のおかげかしら?なんだか元気が出るし、いい匂いもするし、さわやかな風が気持ちよくて、とっても素敵な景色も見られる。」


 カナリアさんは、左手で本を抱えながら、きれいな金髪と身にまとったひらひらの服とスカートを揺らして外を眺め、涼しげな表情でそう言いました。


「どうしてここにいるんですか?」

「そりゃあ…リリちゃんが気になったし。旅人はそういうのに敏感なの。」


 私の笑顔では、旅人っていうのはごまかせないみたいです。

 それでもちゃんと「用事がある」って言ったはず。どうしてここに来れたんでしょう?


「君のお兄ちゃん…タカサ君が『用事なんて無いっすよきっと。きっと家に帰る振りしてあそこの高台にいったんすよー。あいつ良くそこでため息ばっかしてますから』って言ってたから。大正解だったわね。」


私が聞く前に、全部答えてくれました。


「でもでもっ、ごはんの後は村の皆さんにお話しするはずじゃ?」

「そうなんだけどねー、つい気になっちゃって。皆にはごめんねって言って飛んできちゃった♪」


どうやら私のせいで話を止めてやってきた模様。ん?もしかして、話が止まったという事は皆さんをがっかりさせてしまったのでは?私のせいで皆が楽しくなくなっちゃった?


 それはだめです!そう思った私はあわてて立ち上がる。


「それじゃ急いで戻りましょう!私もカナリアさんの話聞きます!聞きたいです!」

「んー?や~だ♪」


 いたずらっぽく笑いながら答えを返された。


「そ、そんな事…どうしてですか!」

「リリちゃんがさっき逃げちゃった理由がわからないと気分が乗らなーい」

「そんな…理由なんて言ってもしょうがないですよ」

「言わないと私も動かないよ~?」


…ほんとに動かないんだろうな。先ほどからずっと変わらない表情を横目でちらっと見てから、私は出そうになったため息を飲み込んで話し始めます。


「素敵な話をキラキラして聞けない自分が嫌になって…」

「え!?もしかして私の話つまらなかった?」


 カナリアさんの予想だにしなかった言葉に驚いて動揺した表情を見ないまま、私は話し続けます。


「そうじゃなくてですね…実感がわかなかったっていうか…さめちゃったっていうか…」

「じゃあ、私の話し方がまずかった!?」

「そうじゃないですって!カナリアさんは素敵な話をしてくれました!」


 自分の事なのになかなか伝わらない。それがむずがゆい気持ちになってつい声を荒げてしまう。


「私…想像力っていうのが乏しいみたいで…いろんな話を聞いても、最初はワクワクするんですけど、直ぐにそれが無くなっちゃうんです。例えるんだったら楽しい夢を見てたはずなのに起きたら覚えてなくて。何が楽しかったんだっけなーってなる感じです。」

「ふーん…?」

「えっと…えっと…つまり、実際に見てないものとか、知らないものに対してあんまり実感がわかないっていうか…旅の話を聞いてもここの景色しか知らないから、どうにもわからないというか…」

 

 なかなか言葉が出なくて、言葉が長くなってしまう。うーん、どういえばいいのかな。って考えてながら出た言葉だけど、その言葉にカナリアさんは、納得した様子で笑います。


「わかったわ!思ったより簡単な話で助かったわ♪」

「え?」

「外にもね、そういう人は結構いるものよ。リアリストってやつ?そういう人にはね」



「実際に見せるのが一番なのよ。」


 そう言って、左手に持っていた豪華な装飾の本を開く。

 瞬間。私の足元から風が舞い上がった。とても、とても強い風。砂と風圧に耐えきれなかった草が千切れて舞う。


「えっ!?ええ!?」


 スカートを抑えながらあわあわする私。その肩に、ゆっくりとカナリアさんの空いていた右手が置かれる。


「さあ!飛ぶわよ!一瞬だから私じゃなくてちゃんと前を向いてなさい!」

「ちょっと!いきなりですか!?支えもなしに!?」

「大丈夫大丈夫♪ちゃんと、どこかにいかない様にその辺は調節するわよ」

「重要なとこはそこじゃないです~!心の準備がまだ…」

「そんなの待ってらんないわ…よっ!」

「うわああああああああぁぁぁぁぁ⁉⁉……」


 私の心を置き去りにして、体と意識だけが空高く舞い上がった。





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