第4話 私と素敵な人

 次の日の朝。商人が私たちの村にやってくる日。

 私は今は納品票を見ながら、漏れがないか最後の確認をしています。


「ひーふーみー…うん大丈夫」


 商品の準備は万端。後は受け取りに来た商人さんに渡すだけ。


「どうも~受け取りに来ました~」


 ちょうどやってきた恰幅の良い商人のおじさん。良く周りから、「怪しい」「前科ありそう」「キノコ頭」って言われているのが悩みらしいけれど、やさしいおじさんです。


「あれ?お兄ちゃんは一緒じゃないんですか?」


 お兄ちゃんはよく、商人さんと話しながら家にやってくる。

 今日、家を早く出ていったのも商人さんに外の話を聞くためだと思ってたけど。


「ああ。今は集会所にいるんじゃないかな。皆集まっているし」

「みんな?」

「ああ、リリちゃんも行ってみるといい。きっと面白いものが見られるよ」


 _____________________________________


 商人さんに言われて村の中心部にある集会所…もとい空き地へとやってきました。いつもは、人もあんまりいなくて、おば様たちがよく井戸端会議してるので集会所って言われるだけで実際は無駄に広くて何もない場所…つまり空き地です。


 だけど、今日に限っては井戸端会議してるおば様も、「そんな事より仕事」がモットーのおじ様も、会議に興味なんて無いような子供も、一様に同じ方向を向いて楽しそうな視線を送っていました。

 私もみんなの真似をする。その先には。


「綺麗…」


 そう呟いてしまうほどの女性がいました。年は私より少し上に見えるけど、整った顔で、余裕のある大人の表情をして、金髪のひらひら髪をなびかせている。

 例えるなら、華やかなの花の中でも埋もれず圧倒的な存在感を示しているような。そんな人だった。

 皆の注目を集めていた素敵な人はその存在感で。


「魔物は私の魔術にひれ伏し、そして、アタシは言ってあげたの!『アタシの名前はカナリア・ウィンドリウム!未来永劫その名前を刻み込みなさい!』ってね!」


「わぁぁぁぁぁ!!」「姉ちゃんやるぅー!」「いいぞー!」


 開いた本を片手に、決めポーズをとりながら自身の武勇伝を話していました。綺麗を謎かっこいいで塗りつぶされた感じ。


「かっけぇー!」


 あ、お兄ちゃんだ。完全に夢中になってる。謎かっこいいね、あれ。

 昨日の夕方の面影は一切感じられないほど無邪気な顔をしてる。あんな顔見たら気まずさも吹き飛ぶってもんです。


「姉ちゃん!他にはないのか?もっと聞かせてくれよ。」

「ええ!では、続いてカナリアの武勇伝第2弾!それは私がある噂を聞いて――」

 

 カナリアさんは話し始めました。明らかに誇張してるだろって感じの武勇伝を得意げに。まぁ実際見たわけじゃないからそんなやじなんて誰も飛ばさなかったけど。


 でも、話を聞いているうちに、やじが飛ばなかったのはそうじゃないって思った。カナリアさんが話す武勇伝が本当に面白くて。それを話すカナリアさんが本当に楽しそうで。皆それに飲まれてしまったんだと思う。


 私もそうだし。あんなの聞いたら。


「外に出たくなっちゃう。」


 また零れちゃった。これはお兄ちゃんに聞かせられないな。私はこの熱狂に感謝しつつカナリアさんの話を聞き続けた。


 やがて、お昼ご飯の時間になって、カナリアさんの「続きはご飯の後でね。」という一言で一度解散になった。


そんな中、カナリアさんに近づく私の家族が1人。


「なぁ!もっと話してくれよ!」

「ん~?アタシ今からごはんなんだけどな~?」

「ごはん食べながらでいいからさ!」


 ちょっと困り顔のカナリアさんに詰め寄るお兄ちゃん、人に迷惑はかけちゃいけないって教わらなかったのでしょうか。

 私は2人に近寄って、お兄ちゃんをなだめに行きました。


「ちょっと!カナリアさん困ってるでしょ?また話してくれるって言ってくれたんだから。少しくらい我慢して?」

「リリ…そうだな、ゴメンナサイ」

 

わあ、すごい納得してない声。そんなあからさまな事しなくたって。そんな様子を見て、カナリアさんは笑いながら言いました。


「良いわよ。食べながら、3人で話しましょ?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る