第2話 私と夢
花をいくつか採取した私たちは、家に帰り、花束を作り始めました。
まず、あの高台から採ってきた、まだ蕾の花を真ん中に置きます。
お母さん曰く、蕾でも花瓶に活けていれば勝手に花が咲くらしい。花って強い。
次に、スラっとした葉っぱでそのお花を囲います。メインのお花さんを支える柱のような感じです。
横に幅を出すためにスラっとした美人さんのお花を置いて、蕾の上に
白いほわほわがたくさんついた花を置いて…その周りを家で育てている花で囲って…手元になるにつれて、段々と短い花を重ねたら茎をしっかりと括って…完成です。
「ふぅ…」
ため息を零すほど集中するようなことには見えないだろうけど、花の置く位置で全体のバランスだとか、彩りだとかが変わることを考えておかなくちゃいけない。
まぁ、そんなことをちゃんと頭の中で整理しながら.やっていたのは始めのころだけなんだけど。なんで息が零れちゃうんだろう。
「タカサ、あんたこんな忙しいのに手伝いもしないで何してるの?」
「何でもいいだろ。それに、仕事の手伝いなら、ちゃんとリリを呼びに行ってきたじゃん。」
「うちは売り物を作るのが仕事だ。人を呼ぶ事じゃないんだよ。分かったら表の作業場でリリを手伝ってきな。」
「はーい」
扉の奥から、お母さんとお兄ちゃんのいつものやり取りが聞こえる。お母さんはこれで少しでも仕事が進むとか思っているんだろうけど、実際は違う。
「リリ、なんか手伝うことあるか?」
「ないよ」
「だよなー」
お兄ちゃんは不器用だし、売り物になる花束を作るなんてことできない。
うちの家は主に花束や鉢植えとかを村に来る商人さんに渡して、村の外に売っている。だから主な仕事は私が今やってる花束づくり。
店にはたまに人が来るくらいだし、店番は私で十分なのです。
つまり、花を採るだとかそういう事以外の仕事は不器用な人は出来ないわけで。
「手伝える事なんてないよなー。」
そう言ってお兄ちゃんは手を首の後ろに回して壁によりかかります。
「これでも嫌なんだぜ。誰かが働いてるのに暇してるはさ。俺でもできる花摘みだってリリが行っちまうしさ」
「だってあそこに行くの気に入ってるし」
「それは俺もだ。お前はあそこでため息ついてばっかじゃねえか」
「それは…そうだけど。でも好きだもん。」
「ほんとか?」
「ほんと、風が気持ちいいし、良いにおいするし」
「村の外が見えるしな。」
「それは別に」
と、適当に会話しながらも私は手を動かして花束を作っていた。しばらくすると話の話題もなくなり、沈黙が訪れる。しかしそれも数秒の事、じっとしてられないお兄ちゃんは壁から離れて、外へと歩き出しました。
「どこ行くの?商人さんが来るのは明日でしょ?」
「修行。毎日やらないと腕が鈍るしな。」
そう言って店先に立てかけてあった木刀を持って家から村へと駆け出していった。
その音に気付いたのかお母さんが様子を見にやってきた。
「タカサは?」
「どっか行った。修行だって」
「はぁ…まぁ、元気なのはいいんだけどねぇ…これで明日の納品が終わらなかったらどうすんだい。帰ったらまた説教だね」
お兄ちゃんは別に嫌で手伝わなかったわけじゃない。それを知っていた私。かわいそうだから、少しお母さんの説得してみようか。
「まぁ私がいるから仕事は大丈夫だよ。それにお兄ちゃんを止めなかった私も悪いしさ、怒るのは勘弁して上げて?」
「…じゃあ代わりにあんたに説教しようかね。」
ええっ。それは予想外なんですけど。
私はその言葉にぎょっとし、今まで止まることのなかった手を初めて止めてしまいました。
お母さんは少し笑って話し始めます。
「タカサは元気で、自由で、外に出るって夢ばっか言ってるけどさ。それが子供って感じがするんだ。もう大人になった私にとってはそれが羨ましいというか。」
「羨ましい?お母さんも外に出たいの?」
私が訪ねると、お母さんは誰もいない外を見ながら腕を軽く組んで、少し考えてる様子を見せた。
「出たかったんだっけな。大人になって夢が変わるっていうのかな。大人になるとそういう子供みたいな夢がみれなくなるんだよ。」
「ふうん。そういうもんなんだ。」
私は妙に納得した。私もそういう夢はみれないし、自分が思ってるより大人なのかも。
そして、お母さんは首を私に向け、いよいよ私への説教を始めた。
「アンタは素直すぎる。もっとキラキラした夢は無いのかい?」
「あるよ。私はこのまま家を継いでいくんだ。結構楽しいから。それでいい」
「ふうん。『それでいい』ねぇ。じゃあそれは夢じゃないね。」
私はムッとした。サラッと言った言葉ではあるけれど、流石に夢を夢じゃないって言われるのは心外だ。
「どうしてよ」
「お兄ちゃんを見ればわかるだろ?あれが夢だよ。」
「‥‥‥」
言い返せなかった。あれが夢だというのなら私は持っていないから。あれが夢じゃなくても夢じゃない根拠が思いつかなかったから。何も言えない。
悔しそうな私をしばらく見た後お母さんが口を開く。
「まぁ、まだいいけどね。でも損だよ、それは。夢は人の原動力にもなる。持ってると生きるのが楽しくなるんだ。皆に笑われるとか、どうせかなわないとか、今で十分とか関係ない。そういうもんなんだから。」
まぁ、ホントに家を継ぐのが夢なら私は大歓迎だよ。と最後に言ってお母さんは戻っていった。
残された私は、頭の中で増えた考え事を整理しながら、同じく目の前に残された仕事を淡々とこなしていった。
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