田舎育ちの花 【村の外を何一つ知らない私が旅に出るまでと叶えるべき10の目的】

逃亡者S

花の村・ガーデン

第1話 私の住む場所

 私が住む村の一番高い所。石畳の階段をぐるっと回ってたどり着いた先には、オレンジ色の大きな花弁を持つ花が咲き乱れた場所があります。


 そこは、心地よい風が吹き、花のいい香りに包まれながら、きれいな眺めを堪能できる。村一番の絶景スポット。


 では早速、そこから私の住む村を見てみましょう。私は、落ちない様に取り付けられたであろう柵から顔を覗かせた。


 家がまばらに建てられています。

――住んでる人が少ないもんね。


 どの家の隣にも色とりどりの花が咲いています。

――もう見慣れちゃった。


 大人たちは花の手入れ、子供はその手伝い。もしくはその辺を駆け回ってる。

――遊ぶ場所なんてないもんね。


 …まあ、初めて見た人はどう思うかわかりませんが、この村に少なくとも10年とちょっと住んでいる私にとっては、こんな感想しか出てきません。


 ならばと思って、村を背にし、少し短い茶色の髪をなびかせながら、私は柵に沿って花畑をぐるっと半周。今度は村の外を見てみました。


 果てしなく広がる草原には細く伸びた一本道。道の脇にはもこもこした白い生き物やふさふさした白い生き物がのんびりと草を食べてます。かわいいな。

 そして右手側には、木がいっぱい生えてる場所。一言でいえば森があります。


 以上です。文字にして3行。絵を描くならば5色で表わせそうな景色。

 面白そうなものは村の外にも無いそうです。


「はぁ…」


 遂にため息が出てしまいました。どうやら私の退屈はどうやっても払われないようです。


 そのまま暫く外を眺めていると、階段を駆け上がる音が聞こえてきました。

 そして階段を登り切ったその音の主様が、息を切らしながら私に話しかけます。


「ぜぇ…ぜぇ…リリ、何ぼおっとしてるんだ。花は採り終わったのか?」

「あ、お兄ちゃん。んーん。今ここに着いたばっかりだし、今から始めるよ。」


 声の主様は私のお兄ちゃんでした。


「ところで、なんで走ってきたの?」

「ん?そりゃあ特訓だよ特訓。俺はいずれこの村を出て旅に出るんだ」


そう言ってお兄ちゃんは村の外を見ます。そして、大きく息を吸ったと思うとこちらに体を向け、興奮した様子で、


 「考えてみろよリリ、この果てしなく広がる草原の先に、沢山の人や町。それ以外の俺らの知らないものが沢山あるって考えるとワクワクしてこないか?」

「えー…見えないから何とも」

「なんだよ、じゃあ、この草原で運命の出会い?みたいなのして、悪い奴を倒しに行く――とか、森に住む巨大な魔物を倒して英雄になる――とか、そういうことは考えないのか?」


 いや、無いでしょう。そんな事。

 と、いうか3行5色の景色からそこまでの想像が出来るんですね。羨ましいです。


「まぁ、実際村をいつ出るかなんて想像つかないけどな。でも、いつか、絶対外に出るんだ」

「どうして?」

「退屈だからな。商人さん達が言うには外には沢山の楽しいことがあるらしいし」

「…そっか」


 お兄ちゃんは、私たちの村に来る商人の話をよく聞いていた。


商いの途中で出会った面白い人の事。 

遠くへ花を売りに行った時に見た珍しい景色の事。

村の外にある、素晴らしいこの世界の事。


 私は話半分くらいにしか聞いていなかったけど、話を聞いているお兄ちゃん目はキラキラしていました。そして、その後にはいつも、「俺も旅に出て、世界を見て回るんだー」って。


 でも、本当にそうなのかな。

 私は世界を何にも知らないから、商人さんが言ってることも全部嘘なんじゃないかって思っちゃう。

 

 キラキラな世界なんて無くて、魔物ばっかりの怖い場所だったら?田舎出身の居場所なんて無かったら?

 …退屈だったら?


 そんな思いをするくらいなら村から出ない方がいい。平和で自分が何事も無いならそれが一番いいに決まってる。

 そう自分に言い聞かせて――


「何またぼおっとしてるんだ、早く花を採って帰らないと母さんに怒られるぞー」

「…はーいっ。」


 私はこれからも、この退屈な場所での日常を過ごしていくんだ。



 



 






 

 

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