第106話かずかずに おもひおもはず とひがたみ

藤原敏行朝臣の、業平の朝臣の家なりける女をあひしりて、ふみつかはせりけることばに、「いままうで、あめのふりけるをなむ見わづらむ侍る」といへりけるをききて、かの女にかはりてよめりける   在原業平朝臣


かずかずに おもひおもはず とひがたみ 身をしる雨は ふりぞまされる

                          (恋歌四705)


藤原敏行朝臣が、在原業平の家にいた女性と懇意になり、送って来た手紙の言葉の中に、

「今すぐに伺いたいと思います。ただし、雨が降っておりますので、少々難儀しております」

とあったことを知り、その女性に代わって、在原業平朝臣が詠んだ。


私のことを、ご親切にも、思ってくれておられるのか。あるいは、それほどでもないのか、お聞きするのも難しいことではありますが、私の身の程度(あなた様の私への思いの程度)を知らせるべく、邪魔立てをするべく、雨降りの程度も、増しているようです。


藤原敏行は、雨降りなので、「行きたいけれど難しい」の手紙。

それに対して業平は、「あなたの思いが薄いから、邪魔な雨も降り増す」と、しっぺ返しをしている。

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