第86話さよふけて 天の門渡る 月影に
題知らず
よみびとしらず
さよふけて 天の門渡る 月影に 飽かずも君を 逢ひ見つるかな
(恋歌三648)
夜は更けていき、大空では月がゆっくりと渡っておりました。
その月影に照らされて、ただひたすらに貴方と愛し合いましたね。
かなり、情の深い歌と感じ、少々意訳した。逢瀬の後の手紙かもしれない。
※「飽かずも」は、「一瞬も飽きることはなく」と解し、「ただひたすらに」と訳した。
尚、参考までに、専門家の訳をのせておく。
A氏:夜がふけてから夜空をわたる月の光のもとで、満足できるほどではないが、あなたに逢ったことよ。
B氏:夜が更けて、空を渡ってゆく月の光に照らされて、満ち足りることなくあなたに逢ったことだった。
C氏:夜がふけて、空を移って行く月の光で、長く堪能のできるまでも、君を逢い見たことであったよ。
私には、この三人の訳が、どうしても、情愛に満ちたものとは思えなかった。
言葉の使い方を含めて、こんな訳を読んだ現代の若い人は、古今和歌集に幻滅しか感じないと思った。
私の訳も不完全ではあるが、この三氏の訳が、あまりにも気持ちが悪かったことが、古今和歌集を自分なりに現代語訳したくなった原因の一つである。
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