よっつめの話 「 ミルクティー 」


 ミルクティーは、温めたミルクと、湯で煮出した紅茶を使う、と聞いた時、私はちょっと驚いた。ミルクティーとは、てっきり、ミルクだけを使って煮出した紅茶のことだと思っていたのだ。

 お湯を使ったら、せっかくの牛乳の味が薄れて味が変になったりしないんだろうか、と思う。けれど、牛乳だけでは、肝心の茶葉が開きにくいのかもしれない。

 でも、やっぱり、私としては、ミルクの濃い風味が欲しいのと、お湯の雑味がいらないのとで、結局、牛乳だけを使って紅茶を煮出す。ちなみに、それを、紅茶に詳しい友人に話してみたところ、「それはミルクティーじゃなくてチャイではないだろうか」と言われた。確かに。

 けれど、そう言われても、やっぱり、自分の思う「ミルクティー」とは、お湯を使わず、温めた牛乳だけを使って作ったものなので、自分にとってのミルクティーとは、そういうものなのだと定義している。友人の言っていた「チャイ」についても少し調べてみたところ、現地であるインドではお茶、及び、お茶を使った飲み物全般を指す、という記述を見つけたので、私の作る「ミルクティー」も、あながち間違ってはいないのかもしれない。

 というわけで、私は、今夜も夜更かしをして、自分なりのミルクティーをれる。というか、むしろ、これを飲むために夜更かしをしていると言っても過言ではない。とは言っても、翌日の仕事に響かず、無理のない範囲で、だ。楽しみというものは、節度を守るからこそ、正しく楽しめるのだ。

 私は、今夜もミルクティーを淹れる。

 本当に紅茶に詳しい人たちに見られたら、口やかましく言われるのだろうという気はしているし、実際、例の、紅茶についての知識が豊富で紅茶を愛している友人には、「君の好きな飲み方をすればいいとは思うけれど」と前置きをされてから、あきれた様子で説教をされたのだが、まあ、結局のところ、自分の好きな作り方で好きなように作ったものの方が、自分好みの味になるのだという持論をかかげて、私はその説教を終わらせた。これから先、もっと私好みに、おいしく淹れられるミルクティーの作り方が発見されない限りは、おそらくこの作り方でミルクティーを作り続けるだろう。もちろん、自分以外の誰かに淹れるのであればもうちょっと気を遣うだろうけれど、今夜これを飲むのは私一人だけなのだし、私が私自身のためにだけ淹れるものなのだから誰も文句は言わないだろう。

 というわけで、私は、大きく丸いティーポットに、ミルクパンで温めた牛乳をたっぷり注いで、そこにティーバッグを沈めて、ゆっくりと待つ。茶葉がほどよく開き、紅茶の成分が牛乳に出てきてくれるまで、ゆっくりと待つ。ときどきはティーポットを揺らして、茶葉から成分が出てくるのを助けてみたりして。いや、実際に助けることができているのかは知らないけれど、好きな作家が、そんな風に、ティーポットを小刻みに揺らしながら紅茶を淹れていたという話を聞いたことがあるので、少し真似をしてみる。

 そうして私は、うとうとと、ほんの少しの間だけ微睡まどろみながら、抽出が終わるまで待っている。ティーポットはテーブルの上で待ってくれている。そうして、抽出が終わったころ、目を覚まして、大好きな「ミルクティー」を楽しむのだ。

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