第16話召喚

昼間の眠たくなるような陽気から、薄暗く陰気な逢魔時が近づいていた。


律がお堂に入ると肩に止まっていた燕はどこかへ飛び立った。

「妖は神聖な場所が苦手なんだ、陽の気が強すぎて姿を保てない。妖に追われたら寺のような神聖な場所に逃げ込むといいよ」


ここに来る前に用意していた塩水を使って律は本堂の床に陣を書いた。

陣は塩水で書いているため書いたそばから乾いて消えていく。

晴翔と大智には、どんな形の陣なのかは分からなかった。

しかし、律が陣を書き終えると今まで何もなかった床に、金色に光る陣が現れた。


「総督と晴翔はここに立って、陣の中にいれば霊から姿を隠すことができる総督は憑かれやすいから用心のためだ」律は大智と晴翔を陣の中心に誘導した。


大智は子供たちが心配で苦慮した。「何故私や颯真は憑かれやすいのだ?娘もいるんだがあの子も憑かれやすい体質だろうか?」

「心が弱いとか隙があるとかそういうことじゃないんだ、ただ波長が合うだけ。娘さんも憑かれやすい可能性はあるね」


「君に会わせるから憑かれやすい体質か視てやってもらえるかな」自分で対処できる颯真はいいが、目に入れても痛くないほど溺愛している箱入り娘を特に心配した。

「もちろんいいよ」晴翔の姪っ子はさぞかし可愛いだろうなと律は思った。


もう1つ陣を書く律に晴翔が訊いた。「その陣は何を意味するものなのだ」

「こっちは召喚の陣だ、招き猫にとり憑いている怨霊を呼び出すための物だよ」律が陣を書き終えると、今度は陣が赤く光った。


呼び出しの陣の中央に招き猫を4体置くと、念のため3匹の犬を待機させた。


それを見た晴翔が律を案じた。「君に危険が及ぶのか?」

「俺は大丈夫、総督と晴翔のために万が一に備えているだけだよ」


律は観音像に合掌して陣の外に座禅を組んで座ると、召喚の印を結んだ。


犬が現れた時の落雷を聞きつけた大勢の兵士が集まってきた。


律がそちらにさっと視線を走らせると、律のそばにいた犬たちが外に出て行き、皆を守るようにして立った。


大きな犬に驚き後退りする者もいたが、一緒に戦った第1大隊の面々は動かなかった。

犬が襲ってくることは絶対にないと確信していたからだ。律がそんなことを許すはずがない。


皆は瞬きするのも忘れ招き猫と律を凝視した。


我冀われこいねがはくは跡とどまりて招聘しょうへいこたえたまへ』


律が呪文を唱えると、突如招き猫から火が出てあっという間に天井まで勢いよく燃え上がった。

若い兵士たちは、その光景に驚き入った。


この数日散々不思議なものを見てきた晴翔もこれには仰天した。何故ならその炎は、天井についているのに不思議と天井は燃えなかったからだ。


次第に炎の勢いが落ち着いてきて、中から男が現れた。

「やぁ、虎、久しぶりだね。あれから100年以上経ったよ、そろそろ成仏できそう?」

「すみません。まだ憎しみが消えません……私また何かしましたか?」


晴翔は、この炎の中から現れた男が異象を起こした張本人で、人形師の虎だろうと判断した。

彼の目は落ちくぼみ瞳がせわしなく動いていて、どこか落ち着かない印象を与えた。


24歳くらいのその男は髪を頭頂部で一つにまとめている。おかしな髪型だと思ったが約100年以上前の人間なのだから不思議ではないだろう。服装も着物に似ているが少し違った。


時の流れは諸行無常、細かなことが変化するのは当然のこと、この黒岡軍もいつかは変わっていくのだと思うと寂しく感じた。


律はうなり声をあげた。「いっぱい人殺しちゃったよ」

「申し訳ありません……」


いいようのない悲傷に涙を浮かべるその男に皆が呆気にとられた。

これが桝谷家を死屍累々の状態に追い込んだものの正体なのかと。

どこからどう見ても無害な人形師で、祟りを起こすような、凶悪な人物にはまるで見えなかった。


律がため息をついた。「はぁ……でも今回は君のせいじゃないからあまり落ち込まないで、君の封印を解いた者のせいだから」

「律殿の封印を解ける者がいるのですか?」人形師は驚いて目を丸くした。


「俺と同じ番人だよ」

「いったいどうして番人が私を呼びだしたのですか?」

「いろいろあったんだあんまり深く聞かないでくれ、まぁ端的に言えば俺のせいだ」


「申し訳ありません、律殿に迷惑をかけてしまって」

「君は何も悪くないよ、ところで聞きたかったんだけどなんで招き猫にとり憑いちゃったんだ?」律が呆れたように言った。

「私にもわかりません、気がついたらここに入っていて……」虎は項垂れた。

律は少し考えこんでから言った。


「あと100年もすれば成仏できるだろうと思う、あと100年の辛抱だ100年なんてあっという間だよ、500年も番人やってる俺が言うんだから間違いない、そしたら成仏して来世を楽しめばいいさ」


「いと殿の魂はどうなったかご存じですか?」人形師が愛した女の最後は不憫だった。事情を知っている晴翔たちは人形師を気の毒に思った。


律は少しの間沈黙した。「――いとは命日に手を合わせてくれる人間がいなかったから、転生したいのか分からなかったけど俺が手を合わせた。一度生まれ変わったよ」

「律殿、ありがとうございます。良い人生でしたか?」逸る気持ちを抑えるように人形師が聞いた。


「俺にはいい人生に見えた。夫は真面目な商人で妻を大切に思っていた、子供を2人育てて、長男は家の後を継いで、次男は医師になった、最後は家族に看取られながら天界に昇ったからまた転生できる」


「それを聞いて安心しました、律殿、いつか……いと殿に会えると思いますか?」人形師は守ってあげることができなかった恋人を思い、涙ぐんだ。

「転生していればいつかは会えるさ、成仏した後は俺が手を合わせてやるよ」律は2人がいつか結ばれて幸せになれるよう祈った。


律が印を結ぶと人形師は慌てた。「なぜ…封印の印を結ぶのですか?チリチリして痛いのですが」


律は大笑いした。「見学者がいるんだ。派手なことしないと妖術使いは楽な仕事だなんて思われたら不味いだろう?これ以上中途半端な妖術使いが増えたら厄介だ。チリチリするくらい耐えろ」

律は封印の印を結びなおした。


『我祈る魂ここに入らせ給へ清浄なりて迎う』


律が呪文を唱えると、また炎が上がった。

天高く上がった炎が徐々に小さくなり消えた。そこに男の姿は無かった。


晴翔は判然としなくて律に訊いた。「印を結ぶ必要はないのか?」

「普通は印を結ぶよ、だけど俺は番人だからただ命令すればいいだ。でも、どうやって怨霊を召喚したり封印したりするのか見たいかなと思って一応一通りやってみたんだ」得意げに話す律が招き猫に命令した。「出てこい」

招き猫から男が現れた。「なぜまた……呼びだしたのですか?」

「ごめん、ちょっと面白くてもういいよ、戻れ」招き猫の主が消えた。


得意げな律を可愛いと思った晴翔は、律を冷ややかな目で見つめ、呆れてため息をついた。そういえば、最初に〈黒岡〉に来たときも、店主を言いくるめて護符を売りつけていたんだった、彼は平気で人を騙すそして全く悪びれない。


しかし、確かに召喚の術や封印の術を兵士たちが見れたのは、良いことだったので咎めないことにした。


「もしかして陣も必要ないのか?」こめかみはピクピクしていたが声は冷静だった。

「それは絶対必要だよ、総督は憑かれやすいから下界から変な奴が飛び出してきてくっついちゃったら大変だ。要するに、陣や印は人間が使う者、俺は人間じゃないから必要ないんだ」


自分たちにも妖術を使うことができるかもしれないと期待して見ていた兵士たちは、命令するだけで怨霊を操る事ができるほどの実力を持っていると知り、畏怖の念を抱いたと同時に誰もが彼から学びたいと思った。


晴翔はもう1つ聞かなければならないことに気づいた。

「もしかして、颯真に施した儀式も必要なかったなんてことはないよな?」今度こそ晴翔の眉がピクピクと動いた。


晴翔の表情に律は慌てた。「あ、あれも必要な儀式だよ、俺は人間の心を操るなんてことはできないから、あの時は俺の霊力を全力で送ったんだ」

「それならいいが、今後しなくてもいいことをするときは事前に教えてくれ」

「分かったよ、俺が悪かった」晴翔に叱られた律はわざとらしく悄気て見せた。


呆れかえる晴翔と面白がっている律のやり取りを見ていておかしくなった大智は忍び笑いをした。

鬼をも震え上がらせると恐れられている男がこうも手玉にとられるとは愉快だと思った。

「招き猫を保管しておいて大丈夫なのだろうか?祟りを起こすのではないか」


「怨念を鎮めるために毎日経を唱えていれば大丈夫だ。無理やり地獄に送ることもできるけど――〈込田〉にいた手鏡にとり憑いた奴みたいにね、だけど地獄は一度入ると出られる保証がない、なるべく自ら成仏して欲しいんだ」


晴翔は律の優しさが嬉しかった。「このお堂は毎日兵士たちが経を唱えるから丁度いい。ここで保管しよう。その方が管理しやすいしな」


大智が律に聞いた。「ところで、君が使う妖術は我々にも使える物なのかな?」

「妖術は資質が必要だけど、黒岡軍の兵士たちは若い頃から精神修行をしているから、霊力に差はあるだろうけど、全員鍛錬すれば使えるようになるよ」律は招き猫をお堂の隅に並べて置いた。


「我々は異象の対処方を知らない、しかし、異象に悩まされている民も少なくはないそこで頼みがある、この黒岡に残って指導してはもらえないだろうか?」


そういうのは、つい最近激しい後悔を残したため気が進まなかったが、晴翔と一緒にいられる口実ができるなら願ったり叶ったりだと思い、了承することにした。

「ここが気に入ったし、いいよ引き受ける」


「あとそれから、電信盤の材料が届いた。備品庫にあるからいつでも君の都合のいい時にとりかかって欲しい」

「ちょっと呪文を唱えるだけだからすぐにできるよ」


お堂から出ると、燕が律の肩に戻ってきた。


律が異象の指導をすると聞いて大喜びした若い兵士たちが、律にわらわらと近づいてきて感嘆の声を上げた。


颯真の目は期待に満ちていた。「律さん、炎は何故天井を焼かなかったのですか?」

「炎に見えるけどあれは炎じゃなくて霊力の光りだよ、だから全然熱くなくてむしろ冷たい、その人の霊力によって色の濃さが変わるんだ。今度霊力を放つ方法を教えるから何色の光が出せるか見てみよう」


それを聞いて全員一瞬喜んだが、自分の霊力が強くなかったらどうしようかと心配になった。


颯真は『番人は孤独』と言っていた律に自分たちは仲間だと思って欲しかった。「律さん、一緒に軍部の食堂で夕飯を食べましょう」

「大佐が良いっていうならいいよ」思いがけない誘いに律は嬉しくなった。


晴翔に視線が集まる。若者たちの目は『お願い』と言っているようだった。

「構わない、君も一緒に食堂で食べるといい」


前回来たときは部外者だったため、食堂に入るのは初めてだった。


夕食は白米、焼き鶏の甘酢たれかけ、大根と烏賊の煮物、茶碗蒸し、あら汁、香物だった。


律はあら汁をすすった。「晴翔もいつも一緒に食べるのか?」

「家族も同然だからな、食卓も一緒だ」


これからはいつもこうなのかと思うと律の心は温かくなった。

娼館にいた頃はみんなで膳を並べていた。喧嘩や罵りあいが絶えなかったが、それでも家族のいない男の子たちにとっては楽しいひと時だった。


嬉しそうにしている律を見て晴翔が言った「どうかしたのか?」

「こんなに大勢で食卓を囲むのは初めてだ、長い間ずっと紬と俺だけだったからちょっと嬉しい」


燕も嬉しかったのだろうチュピチュピと鳴いた。


今まで何故律があまり食事をとらないのか不思議に思っていたが、たった今腑に落ちた。「君は食事をとる必要があるのか?」

「食べる必要ないよちょっと味見したいだけなんだ、味覚はあるんだから美味いなって思いたいだろ?ここの食い物はどれも美味いな」律は鶏肉に舌鼓を打った。


「〈黒岡〉の鶏は国1番の美味さだから期待していいぞ、海が近いから魚も新鮮な物が食べられる。夏の烏賊は刺身で食べると美味いんだ、今度烏賊の刺身を出す飯屋に連れて行ってやるからな」


賑やかな声が食堂を満たした。あちらこちらで笑い声が起こる。


「ここは良いところだね、俺気に入ったよ」律は出された料理を全てたいらげた。それほどここの食事が気に入った。

晴翔が微笑んだ。「それはよかった、私もここが気に入っている」


食堂を出た晴翔と律が、肩を並べて晴翔の屋敷に向かう後ろ姿を見て伊織は不思議に思った。

律に用意された宿舎は反対方向だからまだ2人でやることがあるのだろうか?そう思った伊織は、晴翔と律が手をつないでいることに気づいてしまった。


隣に立つ伊織が顔を真っ赤にして立ち尽くしているので不思議に思い、伊織の視線の先を追った颯真も伊織と同じものを見た。

「あれってそういう事なのかな?2人はいつのまにかそういう関係になっていたってこと?これって見ちゃいけなかったんじゃないか?」


思い返せばこの数日、晴翔と律の距離は日を追うごとに近づいていったような気がする。それは単に友情からなのかと思っていたがまるで見当違いだったと伊織は気づいた。

「颯真、このことは2人が打ち明けてくれるまで気づかなかったふりをしよう」

「それが良い、気づかなかったふりだ、そうしよう」伊織の提案に颯真も同意して身を翻し自分たちが行くべき場所へ無言で向かった。


自室に戻った晴翔は軍服を脱ぎ着物に着替えた。

寝転んで酒を呑む律を自分の足に座らせ、後ろから律の腰を抱いた。

「君は亡くなった時16歳だった、でも今の君は伊織より少し上くらいに見えるのはどうしてだ?」

「死んだときの怨念の強さで悪魔は姿を変えるんだ、だから俺も生きていた時の姿は今とまるで違う、髪もこの国の大勢の人と同じで黒かった、可愛い男の子だったんだよ」


何の罪もない少年が殺されてしまった。どれほど悔しかっただろうかと思うと晴翔は律を殺した犯人に激しい怒りを覚えた。

「君を殺した奴を殺してやりたい気分だ。そいつはどうなった?」


「あいつは結局心中に失敗して助かったよ。最初は呪い殺してやろうかと思ったんだけど、死んで楽になったこともあったし忘れることにした。それでよかったんだ。もしあの時あいつを呪い殺していたら満足して成仏しちゃっていた。そしたら俺は今ここにいないし、晴翔にも会えてなかったってことだろう?」


成仏できなかったということは、忘れようと思っていても恨みを消せなかったということだ、もし前任者の番人に出会っていなかったらどうなっていたのだろうか、招き猫にとり憑いた人形師のようになっていただろうか?それとも優しい律は魂が消えることを選んだだろうか?


晴翔はこの出会いが必然のように思えた。

「運命ならきっとどこかで出会えていたんじゃないか」


律は運命という言葉の響きに気持ちが昂り、彼の深いところが熱くなった。

「晴翔は、俺たちが結ばれるべくして結ばれたって思ってるんだ、それって愛だよね」

晴翔は律の頭に軽く口づけた。「うん、愛してる」


律は、晴翔の膝の上で向きを変えると晴翔の首に腕を巻き付けて晴翔の唇を吸った。

律は晴翔の口から発せられた、『愛』って言葉の響きがとても甘くて、愛おしくて、心にすっかり馴染んで染みわたると至高の幸せを感じた。


晴翔の唇が、律の首へと降りていく。

「俺も愛してるよ」


晴翔の唇の動きに合わせて律の吐息が乱れる。

身体を味わい尽くすかのように這いまわる唇に律は翻弄された。晴翔が胸に歯を立てると甘い声を上げた。


律の開かれた体に晴翔はゆっくりと入った。

2人はこれ以上ないまでにピッタリと重なり合った。


ゆっくりと揺蕩う動きに焦れったさを感じたが、晴翔が律の体を気遣ってくれていると分かっていた。

この男はとんでもなく優しいそのことが律の心を蕩けさせた。


律は晴翔を押して体勢を入れかえると晴翔の上にまたがり、思いのまま動いて、自分を昂らせた。

晴翔が呻くと律の心は躍り晴翔を負かしてやろうという気持ちが湧いてきた。

律の腹の底で晴翔への愛がどんどん膨らむ、眉間にしわを寄せたこの厳めしい男が自分を愛しているその事実に溺れた。


愛おしさでいっぱいになった律が晴翔の唇を捉えると、律の横暴に耐えていた晴翔が反撃した。

下から律を激しく高みへと押し上げる、律は上気した。

晴翔が律の腰を抱く手に力を込めると、2人は同時に昇り詰めた。


長い間律の中に入ったまま朦朧とし肩で息をしていたが、落ち着いてくると晴翔は汗だくになった律の首や肩にそっと口づけた。

「ハハハ、くすぐったいよ」

晴翔は律の中から抜き出て、横にゴロンと寝転がると律を抱き寄せた。


律は晴翔の腕の中で、もう二度と起き上がれないのではないかというほどに疲れていた。

――それもいい、永遠にこのまま晴翔の腕に抱かれていよう。そう思うと、心がうららかに踊った。


晴翔が律の髪を触ると汗で濡れそぼった髪から雫が落ちた。


初めて会った時、風になびく長い髪がキラキラと光って晴翔は目を奪われた。

あの時、律に見つめられてドクンと心臓が跳ね、顔にこそ出さなかったが動揺していた。律の瞳の中に彼の欲望を刺激させる何かを見た気がしたのだ。

それが何を意味するのか理解ができなかった。

今はあれが何だったのか、はっきりと分かる。あの瞬間自分は、恋に落ちたのだ。初めての恋だった。


這いあがれないほど深く深く落ちてしまった。落ちた場所はとんでもなく甘美で、這い上がりたいとは思わなかった。むしろ望んで落ちたのだ、こんな幸せを一度味わってしまったら二度と手放せない。


うとうとし始めた律に言った。「私と一緒に異象部を立ち上げないか?異象を専門に取り扱えるものを育てて各地の異象を調査させ対処する。そうすれば異象に悩まされる人を多く救える」

「いいよ。まともに術を使える人間はほとんどいないから、俺たちの仕事が楽になる、丁度いいかもね。でも一生いっせいは怒るだろうな『人間の分際で』とか言って、青筋立てちゃってさ。一生ってやつは妖術を使う人間を毛嫌いしてるからな、あいつと出くわしたら逃げた方がいいよ。きっと雷を落とされる」律はクスクス笑った。


晴翔は汗だくで行為の後が残る体を見た。「なあ、このままだと2人とも風を引いてしまいそうだ、風呂で温まってから寝よう」

律はうなり声で答えた。眠たそうな律を抱え上げ風呂に連れて行った。


熱い湯に浸かると、晴翔は強張った筋肉が緩むのを感じた。


この数日の疲労が一気に押し寄せてきたようで瞼が重たくなった。

「ああ、だめだ、俺も眠くなってきた」

返事をしない律は湯に浸かりながら晴翔の腕の中ですやすや眠っていた。

「おい、律、起きろ、布団までがんばれ、ここで寝たらだめだ」

律はまたうなり声で答えた。


体を拭いてやり浴衣に着替えさせてから、自分も浴衣に着替えると律を抱きかかえ布団に運び、一緒に布団に入った。

律を抱き寄せて頭頂部に優しく口づけると晴翔は深い眠りに落ちた。

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