第14話 カモの家族

 二人の男は弾かれたように振り向き、身構えた。


「はぁ? なんだテメェは」


「人の家でなに暴れてんだって言ってんだ。聞こえなかったか、マヌケ野郎」


「なんだと、テメェ!」


 男たちが殺到してきた。

 健吾は逃げた。男たちが追いかけるのを諦めない程度の距離とスピードを維持しながら。

 森村の家の前で騒ぎを起こしたくなかった。二人の男を家から引き離してから話を聞きたかった。

 人影のない小さな公園があった。健吾は公園に入り走るのをやめた。二人の男もセイセイと息を切らせて追いついてきた。


「…テ、テメェ…ふざけんなよ…」


「済まない。マヌケ野郎は言い過ぎだった。申し訳なかった」


 健吾は少し頭を下げてそう言った。

 妙な成り行きに二人の男は顔を見合わせた。気勢をそがれたようだった。


「なんなんだよ、お前」


「俺は森村の知り合いだ。ちょっと気になることがあって家に行ってみたら、あんたらが乱暴をしてるんで、つい」


「森村の知り合い?!」


 男たちの顔に一瞬にして嘲笑が浮かんだ。


「へぇ、森村の知り合いなのか、あんた。アイツにはあんま関わらない方がいいと思うけどな。てか、もう関わっちまったけどね、ヒヒッ」


「森村が何をした」


「知り合いならさぁ、あんたからも森村に言ってやって欲しいんだよ」


「…なにをだ」


「逃げ回ってねぇで金を返せって。あんた、森村の居所、知ってんじゃねぇの?」


「金? あんたらに金を借りてるってことか?」


「そう。最初の二、三回返済したっきり全然返してくれないのよ、あんたのお友達は。ヒドイだろ? 俺たちも商売だからさぁ、困ってんのよ」


 ――闇金か。


 健吾は眉をひそめた。なぜそんなところから金を借りた? 金に困っていたのか? あんなに幸せそうに見えていたのに。


「このままだと俺たちが上司に『厳しく』怒られちゃうわけ。わかる? 『厳しく』って。だからさぁ、旦那が返してくれないなら奥様に働いてもらって、それで返してくれって言いに来たわけよ。だってしょうがねぇだろ? 旦那が雲隠れしてんじゃさぁ」


「奥様に働いてもらって…」


「もうさぁ、効率のいいはこっちで用意してんのよ。そこで二、三年も一生懸命働けばね、借金が返せるんだよ。もうそれしかねぇだろ? ねぇ、お兄さん。知り合いとしてどう思うよ?」


 男たちはニタニタと笑いながら健吾の顔を覗き込んだ。


「借金って、いくらなんだ」


「五百万とちょっと」


 どうせ法外な金利が上乗せされているのだろう。弁護士である森村がそれを知らないはずがない。それでも正攻法で立ち向かわないのにはそれができない何かが森村の側にあるのだろう。

 森村は太った鴨だ。コイツらは骨の髄までしゃぶり尽くそうとするに違いない。そしてそれは妻である佐藤美穂も一緒だ。


「俺をあんたらの上司に会わせてくれ」


「へ? いきなりなに言ってんの、あんた」


「俺があんたの上司にを着けるって言ってる」


「はぁ?! を着けるだと? て、てめぇ、ふざけたことヌかしてんじゃねぇぞ、コラァ。ナメんなよ」


「俺が金を払うって言ってんだよ。だったら文句ねぇだろ? ごちゃごちゃ言ってねぇで早く連れてけよ。なぁ、兄さん方」


(つづく)

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