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だから蝉はやめときなよ、と瀬戸が囁く。
「俺が知る限り、蝉が執着した相手はこの20年で薫一人だけだ。その薫に裏切られた蝉が、これ以上誰かを愛するとは思えない。」
悟は黙ったまま瀬戸の着物の襟首を掴むようにしてその身体に縋った。
それはあなたも同じでしょう、と言いたかった。
薫に似ていると満足気にこの身を抱いたあなただって、これ以上誰かを愛するとは思えない。
けれどその言葉を口にするには、悟はあまりに寂しすぎて。
誰からも求められぬ身が疎ましかった。この肉はいくばくの金を生み出しさえするのに、肉以外を、悟自身を求める人は誰もいない。
サチの正しさが妙に腑に落ちた。
ここにあるのは俺の肉だけ。
そう割り切らなくては、割り切って心を凍らせなければ、この稼業はつらすぎる。
今必要なのは、縋った肉と縋られた肉だけ。そこになんの情も見出してはいけない。
悟は瀬戸にしがみついていた手をほどき、彼の着物の襟を開いて、広い肩から落とした。はじめは右、次は左。
着物を脱がされながら、瀬戸は面白がるような目で悟を見ていた。
その目でいい、と悟は思う。
薫を見たであろう、情のこもった視線なんか俺には向けないで。俺はただの男娼なんだから、どうか肉だけを求めて。
「はじめてだな。悟から求められるのは。」
瀬戸が低く笑って悟の手を目で追う。
悟は瀬戸の帯をほどいた後、自分の帯も解いて裸になった。
そこで、手が迷う。自分から男を求めたことのない青い少年には、それから先どうやって男を誘えばいいのかが分からない。
どうしよう、と瀬戸を見上げると、その両目には明らかに情欲の色があった。それを確かめて、悟はひどく安堵する。
早く押し倒してくれ、と、焦れるように男の唇を吸う。その動作とて、まだまだぎこちない。ただ、そのぎこちなさには男の欲望を刺激する初々しさが確かにあった。
瀬戸の腕が悟の両肩を掴み、そのまま畳に押し倒す。
やっとだ、と、悟は目を閉じて瀬戸の指が自分の身体を這い回る感触にじっと感じ入る。
性的興奮と快楽。
それ以外なんて求められても求めてもいけない。だって、悟はただの男娼だ。
「俺で気持ちよくなってください。」
早く早く、と、悟は瀬戸の脚に自分のそれを絡める。
早く体内に瀬戸の性器を収めてほしかった。それ以外に男を気持ちよくさせる技工なんて持ち合わせてないから。
それなのに、その晩の瀬戸は長かった。決定的な刺激を与えずに悟の身体をいじって彼を泣かせた。
「なんで。」
息も切れ切れに悟が問うと、瀬戸は彼の腰の薄い皮膚を舐めながら、きみが好きだよ、と言った。
ひどい嘘を付く、と悟は涙を流したのだが、それは快楽で目尻を染めていた涙に紛れて消えてしまった。
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