第10話 依頼遂行 前編


「ありがとう、アリシア!」


 ジーナがわたしの手を取って、ブンブンと激しく上下に振る。

 尋常じゃない喜び様だった。


 たぶんそれだけ、野盗達に手を焼いてきたのだろう。


「それで、ジーナ。野盗達の居所とかって、判ってたりするの?」


 わたしがそう尋ねると、ジーナはようやく落ち着きを取り戻し、手を離してから答える。


「この街から西に行った所に、小さな廃村があるの。そこが奴等の根城になっているらしいわ」

「じゃあ今からそこに行ってくるね」


 善は急げと言うし、わたしは今すぐ出発しようと席を立つ。

 だけどジーナに引き留められる。


「待って。ここから廃村まで、最低でも半日かかるわよ。それに……ほら」


 ジーナが窓の方を指差すので、そちらに目を向ける。


 外はすでに太陽が沈みかけていた。


「今日はもう遅いから、廃村に向かうのは明日にしない?」

「……そうだね、そうする」


 わたしは少し考え、ジーナの言う通りにする。


 前世での知識を活かせば、夜戦も出来なくはない。

 けれどよくよく考えたら今日わたしは、転生してから初めて超級魔法を放った。


 だから自分でも気付かない程度には、疲労しているかもしれない。

 野盗達を相手するには、万全の状態で挑みたい。


 それなら今わたしがすることは、身体をしっかり休めることだ。


 そうと決まり、わたしはお暇しようとした時、ジーナが尋ねてきた。


「ねえ、アリシア。今日泊まる宿ってもう決まってるの?」

「……? ううん、まだだけど……」


 わたしは首を横に振る。

 ジーナの質問の意図が分からなかった。


 だけどすぐにそれは分かった。


「それなら、ウチに泊まっていかない?」

「いいの?」

「ええ、もちろん」


 ジーナは笑顔で頷く。

 わたしは彼女の厚意に甘えることにする。


「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「分かったわ。部屋は使用人に準備させるわね」


 ジーナは使用人を呼びつけ、わたしが泊まる部屋を準備するよう指示を出す。


 そしてわたし達は夕食の用意が出来るまでの間、他愛もないお喋りに講じていた―――。




 ◇◇◇◇◇




 夕食をいただき、一日の汚れを洗い流した後、わたしはあてがわれた部屋に戻る。


 ふかふかのベッドの端に腰掛け、濡れた髪をタオルでよく拭きながら、あることについて思考を巡らす。


 今日の試し撃ちで、今世でも超級魔法を使えることは判った。


 そうすると気になってくるのが、わたしの得意属性と苦手属性だった。

 どちらの属性も、攻性魔法発動に必要な要素だった。


 この要素は中級、上級魔法の発動に密接に関わってくる。


 中級魔法は誰でも、苦手属性以外の属性を発動することが出来る。

 逆に上級魔法は、得意属性しか発動出来ない。

 ちなみに初級魔法は、苦手属性でも発動出来る。


 例えば、得意/苦手属性が『火/水』のヒトがいたとする。

 そのヒトは水属性以外の中級魔法が使え、上級魔法は火属性しか使えない、と言った具合だ。


 わたしの前世の得意/苦手属性は『雷/光』だったけど、今はどうだろう?


 そう疑問に思って、わたしはタオルをベッドの上に放りベランダに出る。夜風が心地良かった。


 確認するだけなら、そんなに時間はかからない。

 わたしは順番に各属性の中級、上級魔法を発動していく。


 その結果、前世と変わらないことが判った。


 確認も済んだのでベランダから部屋に戻り、部屋の明かりを消してからベッドに潜り込む。


 するとすぐに睡魔がやって来て、わたしは夢の世界へと旅立った―――。




 ◇◇◇◇◇




 翌日。

 わたしは、野盗達の根城とされている廃村に向かっていた。


 だけどその道中、武器商人の商隊が奴等に襲撃されている場面に出くわした。

 わたしは剣を鞘から引き抜き、その現場に向かう。


 わたしの接近に気付いた野盗のヒトが、こちらに剣を向ける。


「誰だ、キサ―――!」

「《メガサンダー》!」


 雷属性中級魔法を放ち、野盗の意識を奪う。

 そのヒトの近くにいた野盗を次の標的にして、今度は剣で斬り伏せる。


 そうして近くの野盗は剣で、遠くの野盗は魔法で、奴等が逃げる前に倒していった。

 だけど最後の一人だけ、意図的に逃がした。


 その野盗には追跡魔法を掛けたから、奴等の根城までの道のりを案内してくれるだろう。


 わたしが剣を鞘に納めると、商人らしきヒトが声を掛けてきた。


「野盗を撃退していただき、ありがとうございました」

「いえいえ、たまたま通りすがっただけですから」

「それで、何かお礼をしたいのですが……」


 商人はそう言うけど、通りすがったのは本当にたまたまだし、野盗達の撃退は領主であるジーナに依頼されていたから、お礼を受け取る気にはならなかった。


「お気持ちだけ受け取っておきます。それでは、わたしはこれで」


 そう言ってわたしは、さっき逃げた野盗の行方を追う。

 追跡魔法がしっかりと機能しているから、野盗を見失うというヘマはしなかった。


「あ! ちょっと!」


 後ろから商人の声がするけど、わたしはそれに構わずに野盗の後を追った―――。


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