第11話 依頼遂行 後編


 逃がした野盗の後を追うようにして、わたしは森の中を駆け巡っていた。

 追跡魔法を仕掛けてなければ、見失っていたかもしれない。

 それくらい、木々が密集していた。


 しばらく突き進むと森を抜け、平原に出た。

 遠くに小さく何かがあるので、望遠魔法でその正体を確かめる。


 望遠魔法で見たところ、朽ち果てた民家が建ち並んでいた。

 あそこが野盗達が根城にしている廃村だろう。


 追跡魔法も確認してみると、廃村のある場所から反応があった。

 わたしはそちらに向かって駆け出して行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 廃村に着くなり、手厚い歓迎を受けた。

 わたしの回りを野盗達が囲み、逃げられないようにする。

 そして奴等は盗んだ武器を手に、次々とわたしに斬りかかってくる。


 わたしも剣を抜き応戦する。

 けれど野盗の数が多く、斬っても斬っても数が減らなかった。


 わたしは敵の数を一気に減らすために、魔法を放つ。


「《ギガサンダー》!」


 雷属性上級魔法が放射状に放たれ、敵の数を一気に減らす。

 仲間が一気に倒され浮き足立っている内に、残った敵を剣で斬り伏せていく。


 残りがあと僅かになったところで、どこかからわたしに向かって、目にも止まらぬ速さで槍が投擲されてきた。

 わたしはなんとか紙一重でそれをかわし、投擲された方向に目を向ける。


 そこには、只者ではない雰囲気を纏っている筋骨隆々の大男が立っていた。

 おそらく、あの大男が野盗達のリーダーだろう。


 その大男が、まだ生き残っている部下に向かって叫ぶ。


「何やってんだテメェら!! そんな小娘くらい、すぐに殺せねぇのか!!」

「で、ですけどお頭! このガキ、めちゃくちゃ強いんすよ! 俺達じゃ歯が立ちませんよ!!」


 生き残りの一人がリーダーにそう泣きつく。

 よく見るとそのヒトは、わたしが追跡魔法を仕掛けたヒトだった。


「ガタガタ言ってんじゃねぇ!! とっとと始末しろ!!」


 リーダーに檄を飛ばされ、生き残りの野盗達が震えながらわたしに刃を向ける。


 リーダーに逆らえない野盗達を見て、ほんの少しだけ気の毒に思ったけど、わたしはすぐに思考を切り替える。


 そして一番近くにいた野盗に斬りかかる。

 怯えきった敵はもう、脅威でも何でもなかった。


 最後の野盗を斬り伏せ、わたしはリーダーに剣を向ける。

 だけど彼は手下が全員倒されたにもかかわらず、へらへらと笑っていた。


「くっははは! アイツらの言う通り、アイツら程度じゃ歯が立たないらしいな!」

「ならどうするの?」


 わたしは一応尋ねる。

 この大男は野盗達のリーダーだから、この場で始末するつもりだった。

 もし逃走を試みようとしたら、すぐに斬りかかる。


「そうだな……俺の手でテメェを殺してやるよ」


 リーダーはそう言うと、わたしに向かって突進してきた。

 わたしは横に跳んでそれを回避する。


 リーダーは地面に転がっていた剣を拾い、わたしに向かって投げつけてくる。

 それを剣で弾くと、彼は戦斧を手にし振り下ろしてくる。


 脳天を割るようにして振り下ろされた一撃を、わたしは剣を横にして受け止める。

 身体強化魔法を掛けているから受け止められたとはいえ、その一撃は重かった。


 リーダーがニヤニヤしながら、わたしに言ってくる。


「確かに強ぇな、お前。どうだ、俺の女になる気はねぇか?」

「ない! 断る!!」


 わたしは彼の勧誘を断固拒否する。

 リーダーのような乱暴なだけのヒトは、はっきり言ってわたしの好みじゃない。


 わたしの好みは、『彼』のような―――。


 そんなことを考えていると、リーダーの言葉で現実に引き戻された。


「そうかよ……なら、死ねぇ!!」


 リーダーが戦斧にさらに力を込める。

 わたしは耐え切れなくなり、地面に片膝を付く。


 戦斧に押し込まれ、徐々にその刃がわたしの頭に迫ってくる。

 リーダーが勝利を確信したかのような笑みを浮かべる。


 ……死ぬよりはマシ!


 わたしはそう決断して、至近距離であの魔法を放つ。


「《ボルテクスバースト》!!」


 至近距離で雷属性超級魔法が発動して、お互いに雷撃が襲い掛かる。


 何の対策もしていない、する暇もなかったリーダーは白目を剥いてその場でくずおれた。

 確認するまでもなく、絶命していた。


 わたしは気休め程度に発動していた耐属性魔法で、なんとか倒れずに済んだ。

 だけどダメージがないわけではなく、しばらく立ち上がることが困難だった。


 なんとか歩けるまでに回復した頃合いに、わたしは依頼を完遂したことをジーナに伝えるために、街に戻って行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 街に戻って来れたのは、陽はとっくに沈み、月が浮かぶ夜になってからだった。


 本当だったら夕方頃に着いたハズだけど、《ボルテクスバースト》のダメージのせいで歩みが遅く、こんな時間になってしまった。


 ジーナのお屋敷に着くと、玄関の前でジーナが不安そうな面持ちで立っていた。

 わたしの姿を確認した彼女は駆け寄り、そして勢い良く抱き着いてきた。


 わたしはなんとかその場で踏み留まり、ジーナを抱き留める。

 わたしの胸に顔を埋めていた彼女は顔を上げ、涙目になりながら言ってくる。


「戻ってくるのが遅いわよ! アリシアが野盗達に捕まったんじゃないかって、すごく心配してたんだから!」

「え〜っと、ごめんね?」


 わたしはとりあえず謝っておく。

 ジーナにいらぬ心配をかけたことは、申し訳なく思う。


 ジーナは涙を拭い、笑いかける。


「いいよ。それにしても、今日は疲れたでしょ? 報告は後でいいから、ゆっくり休んでちょうだい」

「うん、分かった」


 ジーナの申し出は有り難かった。

 疲労がピークに達していて、一刻も早く休みたかった。


 わたしはジーナと共にお屋敷に入り、自室に向かう。

 そしてベッドに倒れ込むと、疲労のせいかすぐに睡魔がやって来て、わたしの意識はそこで途絶えた―――。


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