第8話 出会いと別れ


 ホーンウルフから素材を剥ぎ取ってから、わたし達は次の街に向けて再び歩き出した。


 魔物から取れる素材はギルドが買い取ってくれて、クエストの報酬とは別に冒険者の貴重な収入源になる、とシルフィさんが説明してくれた。


 そしてシルフィさんと他愛もないお喋りをしている内に、帝都の北に位置する街にたどり着いた。

 ちなみにわたしの生まれ故郷は、帝都の南にある。


 わたし達はそのままこの街にあるギルドに向かい、クエストの報告とホーンウルフの素材の買い取りをしてもらった。


 クエストクリアの報酬と買い取り金額分のお金を魔法袋にしっかりとしまって、ギルドを出る。

 ギルドの入口前で、シルフィさんがわたしの方を向く。


「アリシアさんが十分戦えることも分かったし、私はここでお別れするわ」

「え? 急過ぎませんか?」


 てっきりずっとわたしに付いてくるものだと勝手に思っていたけど、どうやら違うようだ。


 シルフィさんは首を横に振り、告げる。


「いいえ、急じゃないわ。本当は帝都で別れるつもりだったけど、アリシアさんが本当に戦えるかどうか心配で……」


 この街まで付いてきたのは、シルフィさんなりにわたしのことを心配しての行動だったらしい。


「そうですか……それなら、引き留めるのも悪いですね。ここまで一緒に来てくれて、ありがとうございました!」


 わたしは勢いよく頭を下げ、シルフィさんにお礼を述べる。


「いいえ、こちらこそ。私は今すぐこの街を出発するけど、またどこかで会えたらいいわね」

「はい! またどこかで!」


 わたしがそう言うと、シルフィさんが手を差し出してきたので、その手を握り返す。


「『勇者』としての務め、頑張ってね」

「はい!」


 シルフィさんはわたしから手を離すと、街の外に向かって行った。


 十メートルほど歩いたところでシルフィさんは振り返り、わたしに小さく手を振ってきた。

 わたしは彼女に大きく手を振り返す。


 それを見たシルフィさんは微笑を浮かべ、そして再び歩いて行った。


 こうしてわたしはシルフィさんと別れて、一人での行動を開始した―――。




 ◇◇◇◇◇




 わたしはこれからのことを考えつつ、街中をぶらぶらと歩き始める。


 一人での行動を始めたと言っても、当面の目標は北大陸に渡るための船代を稼ぐことだろう。


 この街に来るまでにシルフィさんに聞いた話だと、今わたしがいる東大陸から北大陸に渡るには、今回わたしが受けたクエストの報酬の約十倍掛かるらしい。


「ねぇ」


 だけど船代だけでなく、旅費のことも考えるとさらにお金が必要になる。


「ちょっと」


 旅費の方は、素材買い取りの金額で出来るだけ賄うとして……。

 やっぱり船代の方が問題だった。


「ねえってば!」


 今回はCランクのクエストを受けたから報酬は少ないけど、わたしと同じランクのBランクのクエストなら、もう少し報酬がいいかもしれない。


「聞いてるの!?」


 それなら早速クエストを受けに、ギルドに戻ろう。


 そう思い踵を返したその時、わたしの目の前に見ず知らずの女の子が立っていた。

 突然のことで、わたしは思わず大声を上げる。


「うわぁ!?」

「やっっっとアタシに気付いたわね」


 わたしより頭一つ分背が低い女の子は、ぷんすこと怒りの表情を浮かべながら腕を組む。

 そうすると、彼女のある一部分が強調された。


 ……わたしより小さいのに大きいとか、なんでこんなに不公平な世界なの!?


 わたしがそんなことを思っているとは露知らず、目の前の女の子がわたしに言ってくる。


「さっきからずっと呼び掛けてたのに、全然気付かないなんてね」

「えっと……ごめんなさい?」


 わたしはとりあえず謝っておく。

 さっきから聞こえていた誰かを呼び止める声は、わたしに向けて発せられていたようだ。


 わたしの謝罪に満足したのか、女の子は笑みを浮かべる。


「うん、よろしい♪」

「それで、なんでわたしに声を掛けてきたの?」


 わたしが質問すると、女の子は律儀に答えてくれた。


「貴女冒険者でしょう? ギルドから出てきたのを見たから、間違いないわよね?」

「えっと……うん。そうだけど……」


 わたしが頷くと、女の子は突然わたしの腕を掴んできた。


「貴女に頼みたいことがあるの、付いてきて」


 女の子はわたしの意見を聞かずに、強引に引っ張っていく。


 わたしの腕を掴む手は見た目に似合わず力強く、振りほどけないと悟ったわたしは彼女に尋ねる。


「ちょっ、まっ……!? 付いてくって、どこに!?」


 すると女の子は振り返り、ニカッと笑顔を浮かべながら答える。


「アタシの家よ」


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