第7話 確認
ギルドマスターさんに変わって、最初に受付した職員のヒトがわたしに何かを差し出してくる。
わたしはそれを受け取りつつ、尋ねる。
「これは?」
「そちらは冒険者カードになります。冒険者ランクやジョブ、討伐した魔物の情報などが記されています。再発行は出来ませんので、無くさないようにしてください」
職員のヒトの説明を聞きながら、わたしはカードを眺める。
カードにはわたしの名前と剣士というジョブ、あと冒険者ランクを示すBという文字が記されていた。
ジョブが剣士なのは、『勇者』ということを隠すためだろう。
そう思っていると、カードの裏面にある備考欄に何か書かれていることに気付いた。
そこには、『この者『勇者』なり。アイシャ皇帝承認済み』と記されていた。
なるほど。
ちゃんとわたしが『勇者』であることも、アイシャの名前で保証されていた。
これで偽者対策もバッチリということなのかも。
わたしがカードを魔法袋にしまうと、職員のヒトが尋ねてきた。
「本日からクエストを受けることも出来ますけど、如何なさいますか?」
「う〜ん……クエストを見てから決めます」
「そうですか。クエストは受付横にあるクエストボードに貼り出されておりますので、そこからお選びください。それと、クエストは自分と同じランクかそれ以下のクエストしか受けられないので、その点だけご注意を」
「分かりました、ありがとうございます」
わたしはお礼を言ってから、受付から離れクエストボードに向かう。
クエストボードには、色々な種類のクエストが貼り出されていた。
種類が多過ぎてどれを選べば分からないので、わたしは詳しいヒトに尋ねる。
「シルフィさん。どのクエストを受けたらいいですか?」
「そうですねぇ……これなんてどうですか?」
隣にいたシルフィさんが、クエストボードから一枚の紙を剥がす。
その紙には、ホーンウルフの群れの討伐と書かれていた。難易度はCランクの様だった。
ホーンウルフとは、額から一本の角を生やしている狼型の魔物だった。
この魔物の特徴は、動物の狼と同じように群れで行動することだ。
わたしは今の自分の実力をイマイチ把握していないので、このクエストは試金石に丁度良い気がする。
わたしはこのクエストを受けることにした―――。
◇◇◇◇◇
わたしはホーンウルフが棲息している森に向かっていた。
そしてこのクエストをクリアしたら、そのまま次の街に向かうことにしている。
ギルド職員のヒトに確認したところ、受けたクエストの報告は、他の街にもあるギルドでも出来るらしい。
あと、わたしの保護者役として、シルフィさんも付いてきていた。
索敵魔法で周囲の様子を確かめつつ隣を歩くシルフィさんに、わたしは質問する。
「シルフィさん。質問してもいいですか?」
「ええ、いいわよ」
わたしと二人きりだから、シルフィさんはくだけた口調で肯定する。
彼女の言葉に甘えて、わたしはとある場所の名前を言う。
「ええ。確かにその場所は北大陸にあるけど……それがどうかしたの?」
シルフィさんが首を傾げる。
わたしが言った場所は、『魔王』とはとても深い関わりがある場所だった。
「昔読んだ本に、その場所は『魔王』に所縁がある地だと書かれていたんです。だからそこなら、『魔王』の居場所を探す手掛かりがあるかもって思いまして」
前世が『魔王』だったからその場所を知っていた、とは言えないので、本を読んで知ったということにした。
わたしの言葉に納得したように、シルフィさんは頷く。
「なるほど……ならひとまず、その場所を目指すのが当面の目標ね。……っと、反応があったわ」
そう言うとシルフィさんは立ち止まり、周囲を警戒する。わたしも立ち止まる。
するとほどなくして、わたし達の進行方向にホーンウルフの群れが現れた。
数は十匹ほどだった。
すると何故か、シルフィさんがわたしの後ろに下がった。
「これはアリシアさんのクエストだから、一人で戦ってみて。危なくなったら助けるから、安心して?」
「分かりました」
わたしは頷き、鞘から剣を抜く。
お父さんがわたしのために打ってくれただけあって、すごく手に馴染んだ。
わたしが剣を構えると同時に、三匹のホーンウルフが襲い掛かってくる。
わたしはまず、前面の突進してきた個体を斬り伏せ、右側からきた個体には剣を突き刺す。
刺した場所がたまたま心臓のある場所だったらしく、その個体はすぐに動かなくなった。
そして左側からきた個体には、攻性魔法を放って迎撃する。
「《サンダー》!」
前世でわたしの得意属性だった雷属性、その初級魔法を喰らい、三匹目は倒れた。
わたしはすぐに残りの個体がいる方を向き、前世では使えたとある魔法が使えるかどうか、試しに発動してみる。
「《ボルテクスバースト》!」
雷属性超級魔法を唱えると、きちんと発動した。
そしてその雷撃を喰らい、残りのホーンウルフ達はなすすべなく次々と地面に倒れ伏した。
魔法の腕は、前世とあまり変わらないみたいだった。
わたしは剣を鞘に納めシルフィさんの方を振り向くと、彼女は目を見開いていた。
「えっと……アリシアさん。貴女、超級魔法が使えたの……?」
シルフィさんが信じられないモノを見た、というような感じでわたしに尋ねてくる。
「いや〜、使えるかどうか分からなかったんですけどね。発動出来て良かったです」
「……今後は、使えるかどうかも分からない魔法は使わないように。いいわね?」
小さい子供にするように、シルフィさんがわたしに注意してきた。
……確かに、結構博打だったかもしれない。
わたしは素直に謝る。
「はい……ごめんなさい」
「うん、よろしい」
わたしの返答に満足したのか、シルフィさんは笑顔を浮かべながら頷く。
けれどすぐに真剣な表情になる。
「それにしても……本当にすごいわね、超級魔法……」
シルフィさんは、超級魔法の餌食になったホーンウルフ達の場所に目を向け、そう呟く。
彼女は以前にも超級魔法を見た、そんな口振りだった。
好奇心を抑え切れずに、わたしはシルフィさんに質問した。
「シルフィさん。わたし以外の超級魔法を見たことがあるんですか?」
「ええ。『氷炎の魔剣士』が使っていたのを、前に見たわ」
「『氷炎の魔剣士』……?」
わたしが聞き返すと、シルフィさんは頷く。
「そうよ。わたし達Sランク冒険者の中で、最強と目されている冒険者よ」
「そんなヒトがいるんですねぇ……」
わたしがそう言うと、シルフィさんは微笑を浮かべる。
「世界を巡っていれば、アリシアさんもいつか会えると思うわ」
……まさかシルフィさんのこの言葉が現実になるとは、この時のわたしは夢にも思っていなかった―――。
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