日常
けたたましい目覚ましの音で意識を現実へと引き戻される。いつもの如く自分で設定したはずだが、多少の苛立ちを覚えながら、手探りで目覚ましを止めた。
外では朝早くから出勤しているサラリーマンや、OLの足音や、朝の散歩をしている老人たちの他愛のない世間話がきこえてくる。
それにしても、この目覚ましの音はどうにかならないだろうか。最近は朝日のような光で起こしてくれる目覚ましもあるみたいだが、そんな物で起きるような人間では無いことは自覚している。
6年前までは実家で暮らしていたので、その時は毎日起こして貰っていた。
今は一人暮らしなので、自分自信の気合いで起きる他ない。
ベッドから出ないでもう少し眠っていたいという欲望を我慢して、起き上がって準備をするとしよう。
休み明けでだらけてしまった身体を叩き起して、布団から立ち上がり伸びをした。
今日は少しでも嫌な事が無いといいなと考えながら、コーヒーを淹れる。
私は自分自身の習慣を大事にしていて、朝起きたらすぐにシャワーを浴びて、コーヒーを飲みながら準備をするというのを習慣にしていた。
少しでもこの習慣が崩れてしまったら、その日一日中は憂鬱な気分で過ごすことになる。
ルーティンが崩れたら、自分が自分でいられなくなってしまうとまで考える程だ。それだけは絶対に避けたい。
準備と言っても、服を着替えて簡単な化粧をして髪の毛を後ろで纏めて、前髪を少し巻くだけで終わる。
世の中の女性は準備に1時間も2時間もかかると言うのだから、私は準備に時間がかからない方だろう。世の中の女性に感心しながら準備を終えた。
準備が終わったら荷物を纏めてスーツに着替え、会社へと向かう事になる。最近は資格の勉強も始めた為、荷物が増えている。
荷物が増えたせいで最近肩こりがひどい。
家から駅までは徒歩で3分くらいなので、いつも乗る時間の電車に丁度よく着くように家を出た。
駅へと向かう道では、いつも見慣れた景色が流れていた。
毎日のように電車に遅れそうになりながら走っている高校生、今日の仕事を確認しているのか、手帳を見ながら駅へと向かう会社員達。
この見慣れた光景を見ながら歩いていると、1日が始まった実感が起きる。
駅まで向かう途中に通る歩道橋の上から下に広がっている街並みを歩いてる人を見て、夏の終わりを感じた。
今までは半袖の服を着て、女の人は日傘をさしていたけれど、今は薄い上着を羽織っている人達が殆どだ。
二十歳を過ぎてからというもの、時間の流れが早く感じてきている。気づいたら1年が立っていた。
学生の頃なんかは1週間経つのも凄く遅く感じていたのに。
あの頃は毎日ゆったりとした時間が流れていた。心配事も今と比べたら少なかったなと思う。
学生の頃は学生の頃なりに、悩み事も心配事ももちろんあった。昔から今でも続いてる悩みもあるけれど。
それでも、毎日仕事に追われている今よりは好きなまま生きていた。
早く大人になりたいと思っていたけど、今は子供に戻れるなら子供に戻りたいなと思う。
そんな事考えてても仕方ない。今を生きるしかないのだから。
いつも通りの時間に駅に着き、いつも通りの電車に乗り、いつも通りの席に座る。
その習慣は今日は崩れてしまった。
何故かと言うと、いつもの席によく見知った人が座っていた。
双子の妹である香梨だ。
どうして香梨がここに居るのだろうか。小学生の時からの呪縛から逃げたくて離れた街で就職をしたのに。
頭が真っ白になり、動揺が隠せなくなる。
そんな私を知ってか知らずか分からないが、香梨は何も言葉を発さずにただ、したり顔でこちらを見ていた。
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