七瀬 汐梨

「いつからこうなってしまったのかな」

唯一の趣味である小説読みながら、ため息混じりに七瀬汐梨は1人呟いた。


いつも暇さえあれば読んでいる小説の中の主人公達はどんなに苦しい事が起きても、悲しい事が起きても、最後はハッピーエンドを迎える事が出来る。


勿論、物語の中で色んな葛藤があって、それなりの努力をして初めて乗り越えていることは分かっている。それと自分自身の努力が足りないことも。

それでも羨ましく思ってしまうのが人間の性なのだから仕方ない。


主人公達を妬ましく思ってしまう1番の要因がその人には信頼出来る人達に囲まれて協力して壁を乗り越えていける環境がある事だ。


当の私は信頼と言う言葉や、信じるという感情が何より嫌いだ。

結局、信じるということは理想や期待の押し付けだとしか思わない。だから人を信頼しないし、信用もしない。私は理想を、期待を人に押し付けるようなことはしたくない。


それでもふと寂しくなる事もある。一人暮らしをしている家の中で、何が楽しくて生きてるのだろうと、生きる意味を見失うことなんてしょっちゅうだ。

だからこそ主人公達を妬んでしまうのだ。


そんな事をずっと考えてても仕方ない。そう頭に言い聞かせて、再び本に目を落とした。

どのくらい読書を続けていたか分からないが、ふと時間を確かめようと机に置いていたスマホを覗いたら、時刻は23:30を指していた。

明日も仕事があるから早く寝ないと。

読みかけの本を閉じて机に置いて、電気を消してベッドに入った。


一人暮らしを初めてから、寝る時は必ず動画サイトで絵本の読み聞かせを流しながら眠りに着くのが日課だ。

毎日聞いている優しい声が心地よい眠気を誘う。

明日は少し早く起きて今日の本の続きを読もう。

そう考えながら汐梨は眠りについた。


*******


汐梨は夢を見ていた。

自分が小説に出てくる主人公達みたいに、仲間達と困難を乗り越えて最後はハッピーエンドになるようなそんな夢。


そこに出てくる仲間達は私の内面も全部分かった上で、それでも私の事を受け入れてくれる。

時には意見のすれ違いで喧嘩する事もあるけれど、ちゃんと話し合って解決できる。喧嘩する前より仲が深まる事もある。


仲間達と一緒の目的を持って、一緒の夢も見て。同じ壁に当たって、協力して乗り越えて行けるようなそんな自分。


周りからどう思われているか過度に心配をする必要も無い。自分が自分らしく生きていけるこんな世界。


なんていい世界なのだろう。


自分は今まで、どのような選択をしていたらこんな世界に行けたのかな。

どこで選択を間違ってしまったのかな。

考えても考えても、後悔しか出てこない。


ずっとこの夢の世界に閉じこもっていれたらいいのに。

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