第5話  ~追手~

「おーい、そこの山木兼隆に士官しに行く者~。」

私たちは、反射的に後ろを向いた。

黒江さんがクナイに手を伸ばすのを止める。

「君たちに割符を見せてもらうのを忘れていた!」

まずい。自分たちは割符を持っていない。

「小豆さん。るよ。」

そう告げるや否や、黒江さん改め小豆さんが、クナイを投げる。

たいして意味ないような気もしつつ、顔に布を巻き、弓を構える。

「芭蕉。退きながら行くぞ。」

彼女は冷淡に告げる。

自分らの目的は蛭ヶ小島に向かうことだし、ここで無用な血を流すのも野暮だ。

そう判断した私たちは、即座に走り出した。

矢をよけながら、適度にまきびし(砂利)をまいた。

殺傷能力は、草履をはいている奴らには皆無だが、とても滑る。

てな感じで足止めしながら、逃げて、よけて、逃げた。

「芭蕉、このままいくとまた関所だ。山を通ろう。」

「了。」

たった24文字の短い会話を交わした私たちは、すぐにわきにそれた。

そのまま静かにしていると、いつの間にか、

兵士たちは私たちに気づかないまま、行ってしまった。

軽く腹ごしらえをし、歩き出す。

さてと。私は以仁王の代わりになれるのか、少し心配だ。

まぁ今更なので、これ以上考えるのはやめにした。

この調子だと、あすには蛭ヶ小島につきそうだ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る