第4話 ~蛭ヶ小島に向けて~

蛭ヶ小島があるのは今で言う静岡県。

それに対して、今僕らがいるのは、愛知県の端っこ。

現代の日本では大した距離ではないが、この時代は徒歩なので、車に比べればカタツムリの歩みだ。

どうしたことかと悩んでいると、目の前を、馬借ばしゃくが通った。

馬借とは、現代で言う、タクシーのような存在である。

読んで字のごとく、馬を貸し、目的地まで連れて行ってくれるというもの。

蛭ヶ小島まで連れて行ってほしいと頼むと、

「ダメダメ。あの辺には源氏の棟梁がいるんだぞ。

 下手に近づくと兵士にやられるさ。」

と体よく断られた。

と、そこで、1両小判を差し出すと、

「あ~、いや、え~と、わ、私もあの辺に仕事があったな~ぁ。

 せ、せっかくだし、駿河国するがのくにまでなら、送ってもいいかな~ぁ?」

と手のひらを返した。

本当に手のひらクルックルだ。

ということで、馬に乗せてもらい、駿河国を目指した。

          * * *

駿河国で馬借と別れ、関所を通ろうとすると、

「おぬし、どこへ行くのだ?」

「蛭ヶ小島に…」

そう言いかけたところで、黒江さんに制止された。

「検非違使の山木やまき兼隆かねたかのもとに士官しに行くのです。」

山木兼隆と言えば、みなもとの頼朝よりともを攻めようとしている勢力…

黒江さんは、もしや勘違いをしているのでは…

「ところで今、お前さんが『蛭ヶ小島』といった気がしたのは私の思い違いかな?」

それを聞いた瞬間、今自分が置かれている状況を理解した。

ここは平氏側の関所。

自分たちが蛭ヶ小島に向かうと知れば、源氏側として即座に殺されるだろう。

それを回避するならば、平氏側としてふるまわなければいけない。

武装をしている以上、平民の振りをするのは難しいだろう。

黒江さんはそれをわかったうえで、

平氏側の検非違使、山木兼隆の味方のようにふるまったのだ。

それと同時に、考えなしだった自分が恥ずかしくなった。

自分のミスは自分でフォローする。

「それは…山木兼隆様のもとで、

 蛭ヶ小島にいる頼朝めを討伐しようと言いたかったのです。」

その対応によって、兵士は素直に通してくれた…らよかったんだけれども…

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