追放される回避タンク! ~魔物のヘイトをとってた俺がいなくなって大変だろうけど知ったことか! 俺は俺の伝説を作るのさ!

どくどく

ヘイト型回避タンクのドミニク、追放される

「ドミニク、お前をこのパーティから追放する!」


 俺はパーティリーダーのフォルカーにそう宣告された。魔法と剣のエキスパートである勇者のフォルカーと、賢者のルカ、そして弓使いのバーバラ。パーティ全員がそろったところでの宣告だ。


「な!? どうしてだ!」


 突然の事に問い直す俺。何かの聞き違いじゃないのか? そう思ったがフォルカーの態度と視線が間違いではないことを示していた。見ればルカもバーバラも同じように俺を見ている。


「冗談はやめろよ。ははぁ、これはあれか。サプライズってやつか? 一旦下げて上げるとか基本だもんな。俺の活躍を考えればそんなこと言うわけないし。

 戦闘時に俺が魔物のヘイトを集めているっていうのはみんな分かってるだろ? フォルカーもバーバラもそのおかげで攻撃に専念できるし、ルカも回復の魔力を温存できているはずだせ」


 自分で言うのもなんだが、俺は優秀な回避タンクだ。モンスターを【挑発プロボック】してこちらに攻撃するように仕向け、それを回避する。それをフォルカーやバーバラが攻撃して打破する。これが俺たちパーティの戦術だ。


「あ、もしかしてあれか? 俺が攻撃に貢献していないとかそういうの? そんな子供みたいな理由はやめてくれよ。俺の【挑発プロボック】は最高レベルで、挑発されている奴らは回避力が下がってるんだ。攻撃力がその分上がってるけどな。

 うはぁ。そんなのも気づいてなかったの? 俺がいなくなったらお前たち回避力が下がってない奴ら相手に襲われるんだよ? 一気にパーティ壊滅するよ? ざまあみろとか言われるよ? よく考えよ? な?」


 俺はおどけたように肩をすくめて説得する。このパーティの戦術のキモは俺の【挑発プロボック】と言っても過言ではない。ヘイトを集め、そこを叩く。火力一点特化なフォルカーが攻撃を当てられるのはそのおかげだ。


「このままだと『どうして攻撃が当たらないんだ!?』『こんなザコたちに苦戦するなんてありえない!』『くそ、ドミニクがいなくなってからこんな事ばかりだ!』『せっかくBランクに昇格したのに!』『ひぃ、助けてぇ!』……ってな感じになるぜ」


 俺が抜けたこのパーティの末路を三人の声マネまでして説明する。この後無様に俺に『戻ってきてくれ!』と泣きつこうとするあたりをやろうとしたところで、フォルカーからストップがかかった。


「お前が戦闘時にヘイトを集めてくれていることには感謝しているし、その重要性は十分に理解している」

「え? じゃあなんで?」

「その……アンタの【挑発プロボック】が気に入らないからよ」


 心底うんざりした声をあげるルカ。は? 回避力をあげる【蝶の舞踏バタフライダンス】同様にスキルを極めた【挑発プロボック】が気に入らない?


「おいおいおいおいおいおいおいぃぃぃぃぃ。どういうことだよぉぉぉぉ? 俺の【挑発プロボック】は最高レベルだぜぇ? それが気に入らないなんて……はっ、この慢心がダメだというのか。それに気づく俺、賢い」


 指をぐるぐる動かしながらルカに近づき、低音から高音にあげて問いかける。そして己の慢心に気づき、顎に手を当てた。確かに『最高』と言うのは成長を止めること。ここで慢心せず、さらに上を目指せという事か。いいとこに気づくぜ、俺。


「違う。その【挑発プロボック】がダメだと言っているんだ。戦闘時の重要性を認めたうえで」

「はぁぁぁぁぁ? どーいうことぉ? 理解できねぇぜ!」

「端的に言って……ウザイ」


 いつも言葉少なめなバーバラが、心底嫌そうにそう言った。


「おいおい。三文字で片付けるのはやめてくれよ。コミュニケーションは大事だぜ。何がどうダメなのか説明してくれないと納得できないぜ。ま、俺は一を聞いて十を知る男。いわば天才。アイアムジーニアス! さあ、どういうことか詳しく説明してくれ。プリーズ!」


 動作と言葉少なめなバーバラの前に立ち、身振り手振りを交えて説明を求める俺。大事なのは相互理解。戦争は摩擦から始まるのだ。それをできるだけ減らせば解決策も見つかる。そう、俺達はわかり合えるんだ。その努力を怠ってはいけない。


「いや、そういう所だから」


 頭を抱えるようにフォルカーが告げる。どういうところだってばよ?


「例えばこの前の戦い。オーガを【挑発プロボック】した時だ。あの時どうやったか覚えてるか?」

「へいへい兄弟ブラザー。忘れるわけないじゃないか。雄たけびを上げるオーガの前に颯爽と現れた俺は、おもむろオーガにわかるようにこう言ったのさ。『やーい、お前の母ちゃんでべそー。俺の●●●より小さいヤツで◎んだざこ×××!』ってな」


 おおっと、この作品がR18じゃないのが惜しまれるぜ。芸術的な煽りと【挑発プロボック】の内容に三人はなぜかため息をついてるけどな。


「湖で遭遇した水ヘビでの戦いは?」

「あいつらは言葉が通じないからな。タンバリンを手にして服を脱ぎ、腰を振りながら歌ってやったな。時々下着をずらして男の象徴を見せ相手を委縮させてやったぜ」


「ゴブリンの群れに囲まれた時は?」

「集団意識が高い奴らは簡単だぜ。『へっへっへ、お前たちの子供を捕まえて殺さずに(ピー)してやるぜ。泣こうが叫ぼうが許すもんか。人間の残虐性舐めるなよ』って言ってやったらもうガクガク震えてたな!」


「墓場の亡霊騎士戦」

「事前調査で戦争に負けて死んだのはわかってたからな。『お前が守ろうとした村は焼いた。村人全員奴隷にしてやった』とか言ったら一発で怒り狂ったぜ」


「ゴーレム戦」

「精神構造がないけど忠誠心高かったからな。『主はすでに死んでる』とか『後追い自殺できない不忠野郎』とか言ったら効果てきめんだったぜ」


「……山賊の戦いは……」

「真面目に働く気もない社会のクズ野郎とか、世間からはみ出たゴミとか、弱い相手にしか喧嘩を売れないチキン野郎とか言ったら顔真っ赤にしてたな。傑作だぜ、あーっはっは!」

「彼らが大飢饉で山賊になるしか生きる術がなかった事を知っててそれか」

「ああ、そこをつついてもよかったかもな。お前たちは天から山賊になるように運命づけられたんだ、ってな。ヨシ、次はそのネタで行くか!」


 名案だとばかりに指を鳴らす俺。それをゴミクズを見るような目で見る三人。あれ、ウケ悪いな?


「…………そういう所が我慢できないんだ」

「ホワイ!? 効果的な【挑発プロボック】じゃないか!」

「効果的だからって我慢できるわけじゃないの。このゲス!」

「アンタの声はもう聴きたくない」

「何とか我慢するようにしてきたが……もうモラル的に限界なんだ」


 極めに極めた俺の【挑発プロボック】。その有用性を理解しながら耐えられない。三人の表情はそう語っていた。


「ふ、いいだろう。大人しく追放されてやろうじゃないか。お前たちはいつかこのことを後悔するだろう。そして世間からフォルカーざまあと評価されるのだ!

 そして俺はこの極めに極めた【挑発プロボック】のおかげで成り上がる。そんなサクセスストーリーが待ってるのさ! だって俺主人公だもんね! そう言う運命って言うか話の流れだしな!」


 こうして俺、ドミニクはパーティから追放された。


 ――その後、俺はこの究極至高絶頂怒涛な【挑発プロボック】を使うことで様々なトラブルや事件に巻き込まれるわけだが、まあそれも主人公の義務だし仕方ないね!


 おおっと、そこの読者アンタ。せっかくなんで応援と星を入れてくれ! あと感想やレビューをしてくれてもいいんだぜ★ 遠慮なんかしなくてもいいさ。ちょっとの手間で英雄的ラノベ主人公になるドミニク様の門出を祝えるんだ。安いもんだろ?

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