サバイバルの終わり
身体が焼ける、まるでドロドロに溶けたマグマに浸かっているみたいだ。
「……さ……ら」
耳の奥から聞こえる、声がする。なんだ、お前まだ居たのか。
「……さよならだ」
「何が?」
「いや、それだけだ」
そうか、そうなるか。
「そうか、またな」
「……ああ、また」
……
ジリジリと焼け付くような日差しに焦がされて、目が覚めた。
「こ、……くは」
カラカラに乾燥した喉は、言葉をうまく発する事が出来なかった。頭をあげるとアヤカが座っていた。かなり衰弱しているようだ。
日に焼けてボロボロになっている。
「あぁ……気がついた?」
「あ、おはよう」
そう言うと、ペットボトルに入った水を手渡してくれた。急いで飲むと、むせかけたので、気をつけてゆっくり流し込んだ。
「お兄さん、丸一日以上寝てたよ」
そうなのか、通りでアヤカも消耗しているわけだ。他の者はどうしただろう。
首を回して居ると、声がかけられた。
「おい、元気じゃないか」
そう言ったのはタクヤだ、両手両足が真っ赤に腫れ上がっている。仰向けに寝たまま話を続ける。
「ショウは昨日の晩、死んだよ」
「……そう、か」
「どうやら、あの大ムカデ足にも毒があるらしい、傷の部分からどんどん腫れていくんだ。俺も多分、もうだめだ」
「大丈夫、大丈夫だから」
アヤカが寄り添い、そうやって励ます。
「自分でわかってるから。なぁ兄さん、アヤカを、アヤカを頼むよ……俺はただアヤカが」
「わかった」
短く返事をする。自分の身体を確かめてみるが、各所が痛むものの、まだしっかり動くようだ。立ち上がると、そのままにされているショウの遺体に手を合わせる。
「……」
そしておもむろに、死体の服を剥いでいく。ごめんなと言いながら。
「ちょっ!」
突然の行為にアヤカが動揺した。
「あぁ、彼の衣服の布を使わせて貰おう」
日焼けは火傷だ。太陽光でこれ以上、被害を受けない為に防御する手段が要る。
「そんな……」
「生きている者が、生き残る事を考えろ。日光を遮る物のない海の上で、何もしなければ焼けて死ぬだけだ。日除けを作ろう」
「……」
無言を同意だとみなして、全ての衣服を剥いだ後、ショウの遺体は海に流した。俺を含む全員が、無言でそれを見つめ祈りを捧げた。
ナイフで適当な形に布を切り開き、枝に引っ掛けて日除けを作った。各人それを日傘がわりに所持する事にした。
食料と水はしばらくは持つだろうが、なにせ動力がオール一本しかないイカダである。気ままに流されて、どこか陸地に辿り着くまで耐えなければならない。
……
数えて漂流三日目になるか。
タクヤが死んだ。
「俺の死体を食べてくれ」と言われたが、それは出来ない。道義的にもそうだが、毒があるかもしれない。
冷静に分析する俺は、人間の心を失ってしまったのだろうか。衣類はまた剥いで、日除けを大きくした。
……
漂流四日目。この頃から殆ど会話はしなくなった。無言でイカダの上に座っているか、寝ているだけだ。ひたすらに耐える。
食べる物は、もうない。
……
漂流六日目
アヤカは飢えと漂流の事実で、少し変化してきている。目が見えないと言ったり、パスタの匂いがすると言ってみたり。
……
漂流七日目
気が狂いそうだ、飲み水も切れた。
一面水だらけなのに水が飲めない。頭がおかしくなる。アヤカは殆どの時間を寝て過ごしている。
……
今は何日目だろう。アヤカは殆ど動かないが、声をかけると、偶に返事をする。
薄暗くなるころ、ピカピカ、と点滅する光を見つけた。
はじめは何なのかわからなかったが、船だと察すると、全ての力を振り絞って立ち上がった。
「ぉ……ぃ……おー……」
日除けに使っていた布を旗代わりに、大きく振るう。声も張っているつもりだが、うまく発声出来ない!
アヤカも、と思ったが。彼女は寝たまま動けないようだ。起きているのか眠っているのかわからない表情をしている。
ピカピカと点滅する光は、遠ざかっていく。
「だめか」と思った時、ぐるんと大きく周り、こちらへ近づいて来た。その光を見た時、俺は「サバイバル生活の終わり」を予感した。
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