無人島サバイバル十日目(前半)
朝日と共に目が覚めた。今日は同居人に起こされる事も、ムカデに噛まれる事も無かったようで一安心だ。
静かに立ち上がり、服についた砂や汚れをぱっぱと手で払う。さあ今日も行動開始だ。
そう思って頭を上げると、視界にショウとアヤカがいた。立ち話でもしているのだろうか、まさか良からぬ事を企んでいるのでは無いだろうな。そう思って眺めていると、彼らはにわかにお互いの距離を詰め、キスをした。
「……」
二人は、ぼそぼそと何やら言葉を交わした後、離れてキャンプの方へ去っていった。
「ん?え?」
どういう人間関係なんだ。他人の色恋なんぞ知った事ではないが、そういう事もあるんだな。人間関係の相関図が欲しい。
後、俺もモテたい。
……
「よし、今日はイカダを組み立てよう」
「ああ」
「そうだな、組み立てよう」
細々とした朝食を済ませた俺たちは、今日の計画について話し合った。早朝、海の方を見に行ったタクヤによると今日も海面が上昇していたそうだ。
この分では、いつまでこのキャンプも陸地であるか分からない。やはり早急な脱出手段の確保が必要である。
「まずはイカダを組み立てる場所を選定しよう」
そう伝えると、ぽかんとした顔が並んだ。彼らの頭には「?」が浮かんでいるのだろう。想像力の欠如に頭が痛い。タクヤは理解しているような表情だが、説明する。
「ここで組み立てると、重くて水辺まで持っていくのが大変だから。海に近くて開けている場所を探して、そこで作業をしよう」
「ああ」
「そうだな、移動しよう」
うん、まぁ良いんだけど。楓くんの方が察しが良かったぞ。
「なら場所は良いところがある」
そう言ったのはタクヤだ。ナイフを手放してからは毒気が抜けたように大人しく、そして人一倍の働き者になっている。
海を見に行った時に、良さそうな場所を見つけていたようだ。
「わかった、じゃあ全員で荷物運びをしよう!」
それぞれが荷物を手に、引っ越しが始まった。
……
タクヤが見つけた場所は、出航するにはうってつけの場所であった。緩やかな緑の斜面の先に海面がある。元々はなだらかな丘だったのだろう。そう考えると、島が沈みつつあるという事実が現実味を帯びて来た。
ここまで水が来ていたのかと。
海面近くに二つ丸太を並べ、二条のレールを作った。この上でイカダを作成して、進水台の代用とする。
キャンプから物資の移動が終わる頃には、日は高くなっていた。皆、汗まみれの泥まみれだ。
「イカダの構造は昨日説明した通り。まずは井型にフレームを組み立てて、そこにいくらか乗船用スペースのために丸太を渡していく」
そう言って各自の顔を見ると、それぞれ頷いた。タクヤの顔色が悪いようだが、張り切り過ぎて疲れたか。
「気をつけて欲しいのは縛って繋げる時。ほどけないように、コレでもかと言うほどきっちり固定しよう。その上で浮きや木材同士は一個づつ縛り付けて欲しい、万一ほどけた時に全体がバラバラにならないようにね」
そう、海上では何の助けも得られないだろう。船の崩壊は即ち死を意味する。
全く自作のイカダで海に出るなんて自殺行為だが、沈みつつある島と共に沈むのは自殺だからな。
少しでも生き残る可能性がある方に賭ける他ない。
何もない水平線を見る。これからそこへ漕ぎだして行くことを想像すると、本当に辛い。
地獄になるのは目に見えている。
ちらりと目をやる。三人はあまりピンと来ていない様子であるが、脅かしても仕方ない。
やるしかないのだから。
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