無人島サバイバル十日目(中)

「完成だー!」

「やった!」

「うぉぉぉー!」


完成したイカダの前で、各々が声を上げる。心地良い達成感である。


予想よりイカダの組み立てはスムーズに進んだ。

すでに体力は残されていなかったが、皆それぞれが生き残る為に力を合わせ、目的意識を持って取り組んだお陰だろう。

推進力を得る為のオールも作った。木の棒を繋ぎ合せただけの簡単なモノだが、自走できるのは大きいはずだ。


頑丈さだけを目指して組まれた木材と、浮力を得る為に大量に縛り付けられたペットボトルやプラスチック。一見するとゴミの塊のようだが、立派な俺たちの船だ。

試しに乗って見たが、四人でも十分な強度を感じる。

不安が無いと言えば嘘になるが、荒波にも耐えられる力をこの船からは感じ取れた。


「おい、タクヤ?」


荷物の積み込みを始めようとした時、ショウが異変に気が付いた。タクヤの顔色は真っ青で唇が青い、ぜぃぜぃと苦しそうに息をしていた。


「……」


「おい、大丈夫かよ」


タクヤは手のひらを開いてそちらに向け、無事であるとアピールをする。しかし明らかに大丈夫では無さそうだ。


「タク……うお!?」


ショウの視線の先を皆が追った。タクヤのふくらはぎは腫れ上がり、真っ赤になっていた。


「……だ、……だ……」


声を出すのも辛いのか、言葉にならない音をこぼす。大丈夫か?どうしよう。


「ちょっとどいてっ」


俺とショウがまごついていると、進み出たアヤカが、手早くタクヤをその場に寝かせた。足の下に上着を巻いた物を置いて、地面から2、30cmの高さに上げる。


「……」


脈拍を測っているのだろう。彼女はタクヤの手を取り、揃えた指を手首に当てている様子だ。

俺たち男二人は、手持ち無沙汰で立ちぼうけている。邪魔にならないように、ちょっと脇に寄って。


何か声をかけようかとも思ったが、台詞が思いつかない。「大丈夫そう?」か「手伝おう」か、どう言うのが適切だろう。

ふと隣を見ると、ショウもモジモジしていた。


「ちょっと落ち着いたみたい」


しばらくすると、立ちすくんでいた俺たちに声がかけられた。どうやら呼吸も安定してきているようだ。一息つくと、金縛りが解けたかのように言葉が出てきた。


「どうしたんだ?」


「さあ、大ムカデに噛まれたんじゃないの」


「そっか、もう大丈夫なんだよな?」


ショウが言ったが「そんなの私に分かるわけが無い」と切り捨てられていた。

しかし本当にムカデの毒だろうか。遭遇したのは昨日の話だが、毒ってそんなに遅効性なのか。


まぁ、考えても結論は出ない。


「とりあえず、今日はもうすぐ暗くなりそうだし、タクヤ君もこの感じだ。出航は明日以降にして、今日はここをキャンプ地にして休む事にしようか」


そう提案して、皆の顔を見る。

どうやら異論は無いようだ、朝から働き詰めである。俺たちも疲労困憊なのだ。


そう人間には、休息が必要だ。

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