無人島サバイバル九日目(後半)

イカダの設計としてはこうだ。

腕の太さ程の木を、3mの長さに切り出して、ツタで縛り正方形の枠組みを作る。その四隅にペットボトルや発泡スチロールなどの浮力が得られるモノを縛り付ける。


その骨組みを土台として、いくつか木材を渡して人が乗る部分を作れば完成である。


もし夏休みの工作で作るのであれば、ペットボトルの収集から組み立てまで1カ月はかかるトコロであるが、俺たちには時間がない。

一日二日で仕上げなければ、いつこの島が沈むとも分からないし、巨大ムカデに襲われないとも限らない。兎にも角にも迅速な完成が求められる。


それを彼らにも説明し、分担協力することで作業の効率化を図る事にする。伐採と木材収集は俺が、タクヤとショウは海辺で漂着物の回収作業を。アヤカは森林内でツタなどの収拾と、俺の作業の補助を受け持つ。


「じゃあ、日暮れにはキャンプに集合するようにしよう。暗闇では作業する事は出来ないし、危険の方が大きい」


「わかった」


返事を返したのはショウだけだが、残りの二人も理解はしたのだろう、黙って頷いていた。


「なら、また後で」


そう告げると、皆それぞれの持ち場に消えて行った。



……



ノコギリでも斧でもなく、ナイフで木を伐ろうと考えると、少し頭を使わなくてはいけないだろう。

ナイフの刃をノコギリのように引いても切れないし、当然漫画のように横薙ぎでスパッと切れる訳も無い。

鋼で出来た刃物を用いても、生木というのは割と硬いのだ。下手をすると道具を壊してしまう恐れもある。


「これが良いかな」


しばらく歩いて、めぼしい大きさと太さの木を見つけた。真っ直ぐなそれの、切断する部分を見定める。左手で上部を握って押さえつけながら、右手のナイフを斜めに振り下ろした。


カッ!


木の皮を剥ぐように、少しだけナイフが斜めに食い込んだ。再び振り上げて、角度を付けて振り下ろす。


カッ!


何度も繰り返す。


カッカッカッカッ!


リズミカルに刃を振るう度、木の皮や木片がぱらぱらと削ぎ取られ、少しづつ溝が深くなっていく。半分程削り取った後、ナイフを仕舞い、両手で木をしっかりと握る。


「ふんぬっー!」


全体重をかけて、みしりとへし折った。これでようやく1箇所切断である。倒れた木の細かい枝葉をうちはらって丸太にした。さらにこれを3m間隔に切断して、長さの揃った材木とするのだ。ついでに出た木屑は拾っておく。乾かして、焚きつけに使う事ができるだろう。


「あー……日没までに間に合うかなぁ」


想像以上の重労働に弱気が口をつく。下を向いて作業していると、汗が目に入った。



……



夕暮れには、およそ十五本あまりの材木が揃っていた。我ながら半日で良くここまで頑張ったと言える。運ぶのはアヤカにも手伝って貰ったが、切るのは俺一人で作業したのだから。


また他の者も、大金星だった。

漂流していたペットボトルと浮きなどを掻き集めてくれたのもそうだが、決死の覚悟でキャンピングカーに搭載していた物資の一部を引き揚げてくれたのだ。


つまりは食料。

大きな袋入りのビスケットのような物と、缶詰のスープをいくつかだ。聞けばタクヤが汚名返上の為にと、命がけで泳いで取りに行ったそうだ。ありがとうタクヤ、ナイフは返さないけどな。


夜は手元が暗く、月明かりで作業する訳にもいかない。組み立ては、明日始める段取りとした。

手に入れた食料は計画的に分割し、本日分は分配して食べる。ビスケットは口の中の水分を全て奪い尽くすようであったが、空腹も手伝って美味しく頂けた。


彼らは俺の指示に対して、良く従ってくれている。腹では何を考えているのかは分からないが、目的を共にしている間はついて来てくれると信じたい。


「あぁー……」


でも何だろう。一人の時と違って肉体的には楽だが、どうも神経を使っていけない。

俺ってこんなに人付き合いが苦手だったかなぁ。


彼らと少し離れた寝床で一人。枝葉の間から星を見上げ、そんな事を考えていたのだった。

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