無人島サバイバル九日目(中)

「え?何?」


剃り込みチビが問い返す。


「いや、昨日な。人影を見たんだ。丁度茶髪のー」


「ケンジが生きているって事か?」


体を乗り出して迫る彼を手で制し、それはわからないが、と続ける。


「俺が見たのは向こうの方角だった」


そう指を指したのは、昨日ケンジの殺害現場と、その先に死体を見つけた方向だ。


「マジか……!あいつ等にも知らせて!」


今にも飛び出しそうな彼の肩をぐっと抑えて、低く小さな声で続ける。


「待て、熊が居るかもしれない。見つからないように一人で行く方が良い」


「一人で……?」


「あぁ、知っているか?クマは人間の匂いを辿って来るんだ、まとまっていると匂いが強くなるんだよ。狙われる」


何もかも嘘だけどな。

しかし、俺の役者振りが良かったのか、真に受けている。そうか、と一人納得したようであった。


「どうすれば良い?」


「とにかく仲間が帰って来たら、相談してみたらどうだ?」


「あぁ、そうだよな!ありがとうな兄さん」


いや、と微笑んで火の番に戻る。もう少し薪も補充した方が良いだろう。



……



しばらくすると、大荷物で血相を変えた二人組がキャンプに戻って来た。タクヤとショウだ、昨日より海面が上がっていると騒いでいる。どうやらもう一人の俺の言う事は正しかったようだ。


「イカダを作って海に出るしかない」


そう言って二人が地面に荷物を下ろす、水に浮きそうなものを海岸で拾って来たらしい。ポリタンクに発砲スチロールにプラスチックの浮きのようなもの。確かにイカダにこれらをくっつければ、ある程度の浮力は得られそうではある。


「この島を出よう。イカダを作るんだ」


タクヤがそう仕切り始めたところに、剃り込みチビが口を挟む。


「俺は、ちょっとケンジを探して来る」


即座にタクヤがぎょろりと睨みつける。


「おいおいおい、何言ってんだ。ケンジは昨日死んだって言ってただろう!」


「俺一人で行く、迷惑はかけない」


「だから、それが!迷惑なんだよ!協力して作業しないと間に合わないだろうが!」


「人影を見たって言ってんだよ!」


その言葉に、一瞬ぎょっとした表情を見せるタクヤ。


「いいか、俺は行く。ケンジを見捨てられない」


「はぁ!?生きている人間と、死んだ人間、どっちが大切なんだよ!」


「ケンジは生きているかもしれないだろうが!」


手元の枝を折りヒートアップする。

タクヤはチッと舌打ちを隠そうともせず、忌々しい表情を浮かべる。


「どう思うみんな?今考えるのは脱出、これだけだろう?」


埒があかないと、仲間を募るが、話を聞いていたショウが助け舟を出したのは剃り込みチビに対してだった。


「いや……シンヤがそこまで言うんだ、もう行かせてやったら良いじゃないか」


そして、ここでやっと知った剃り込みチビの名前。シンヤと言うんだな、心の中でバカにした呼び方をしててごめんな。


「……アヤカは?」


「うん……私はどっちでも」


もう見ているだけでわかる、タクヤはイライラの絶頂である。思い通りにいかないのが気に入らないんだろう、ストレスを溜めるタイプの人間だ。


「どうしても行くのか?」


「ああ」


決心が固いシンヤに、彼はついに折れた。


「そうか、ならそうしたら良い!俺たちは一旦、周辺からイカダの材料になりそうなものを集めよう。個人行動だ、それで良いか!?」


遠くに居る人間にまで聞こえるような大声で、そう告げる。俺を含め、全ての人間が静かに頷いた。


「そうだな、脱出の為にイカダを作っておくと言うのは賛成だ、早速材料を探してこよう」


わざとらしくそう言って、俺は彼らの前から姿を消した。その後に続いて、彼らもバラバラに行動を開始したようである。さあ、ここからが正念場だ。

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