無人島サバイバル五日目(後半)

シェルターに着くなり、荷物を降ろし焚き火を再び付ける。被せてあった灰を退けて、木屑をくっつけて酸素を送り込んでやるだけだ。それで簡単に再び焚き火を復活させる事が出来た。


それは逆に山火事になる恐れもあるという事だ、焚き火を二度と使わない場合はしっかり土に埋めるか、水をかけて消化すべきだろう。逃げ場のない無人島で山火事なんて、笑い話にもなりはしない。


ここで生き残る為には火が必要だ、その灯りは暗闇を払い、獣を退ける。どこかに潜んでいるだろう生物が炎を恐れるのならば、の話だが。


万が一、それを恐れずに近づいて来るようであればお手上げだが……そうならば仕方無い。杖代わりの流木で打ち据えて、今日の晩御飯が一品増えるだけだ。そんな強気な事を考えてはいるが、内心は推して知るべしだけどな。


「ふぅ」


ため息一つ。


頭を切り替えて、昼間に汲んだ水が真水かどうかを確認しよう。その一滴を舌に乗せた。


ぽとり。


うん完全な泥水だが、塩味は無い。海水では無いようなので煮沸すれば飲めそうだ。アンダーシャツを脱いで、ペットボトルの口に詰める。


そのまま注ぎ出せば、大きなゴミは濾過できる。それを貝殻の器に注ぎ、煮沸する事にした。しかし本当にこの大きな二枚貝の貝殻は万能だ。


スコップの代わりにも、鍋の代わりにもなるし、ギザギザの部分で木の表面を削る事もできた。一押しの万能アイテムとなっている。

そんな貝殻にシャツで濾過した泥水を注ぎ、金網の上で火にかけた。


さて、湯を沸かしながら鳥の死体を毟る事にする。適切な道具が無いので何をするにも時間がかかる。時間はすぐに過ぎてしまうので、並行して作業していかないとな。


ぱちぱち。

むしり、むしり。


日本に居た時は、鳥を毟る時が来るなんて全く予想もしていなかった。はじめは少し抵抗もあった作業だが、今となれば慣れたものだ。

心配していたが虫も湧いていないし、持った感じ、肉もしっかりしている。拾った鳥だが、結構期待できるんじゃ無いだろうか。


ぱちぱち。

むしり、むしり。


しんと静まり返った森の中。

焚き火の灯りに照らされて、誰も彼もがオレンジ色に染まりながらの作業。

無心になって手を動かしていると、ふと幸せを感じる。不思議だ。


今までもそうだ、無人島なり、雪山なり、死ぬ気のサバイバル生活。クソ喰らえという気持ちが支配的なのだが……そう、ふっとした瞬間。

自然の中での、単純なこんな作業が「なんか良いなぁ」と感じる事がある。


服も髪の毛もボロボロの姿で、泥水を沸かしながら鳩みたいな鳥の羽根を毟って、幸せを感じるって。客観的にみたら変人だな。


「ふっ」


頭が変になったのか。いや、そもそも幸せって、なんだろうな。



こぽこぽこぽ


ぼやっと作業を続けていると、湯が沸いたようだ。シャツをミトンがわりに手に巻いて、それを手に取った。

お待ちかねの白湯だ。いや、白とは言い難い薄っすら茶色をしているのだが。

一体何を濾過したんだろうな。


フゥフゥと息を吹きかけ、冷ましながら喉に流し込む。


ごくり。


「……なるほど」


そうきたか、見た目通りの泥味だ。全く持って泥水。だが、今はそれでもありがたい。安全に飲める飲料水と言うのが重要で、色や味などは二の次なのだ。


ほっと一息。


毟ったハトもどきは、細かい産毛も焚き火で炙って丸鳥に仕上げてしまった。ナイフが無いので、貝殻や手近な石を駆使して解体していく。


心臓と肝臓と、砂肝は判別できたので取り出して置いておく。実はこの鳥の捌き方は田中さんから教わったのだが、一人でも上手くいって良かった。ナイフがなくてもなんとかなるものだ、見た目は不恰好だが何とか形にはなった。


訳の分からない臓器は焚き火に焚べた。魚の餌にでもと一瞬考えたが、どうも生肉を置いていると獣を呼ぶ気がしたからだ。

ではここで解体するなという話だが。日が暮れてしまったので仕方ない、今日食べたいからな。


ざっと海水で洗って金網の上で焼いてみる、潮溜まりでとった貝も一緒にだ。見事な焼き鳥と壷焼きの出来上がり、今日のレストランは豪華だな。

香ばしい匂いも漂って来て、ぐぐっと期待が高まった。


さあ。

まずはモモ肉から……匂いは、大丈夫。


ぱくり。

もごもご。


「うん」


美味しい!香ばしい焼き鳥だ。もっと臭いかと思ったが、十二分にイケる。野生の臭みはあるが、全然大丈夫むしろ好き。

わりと硬いけど、食べ応えがあって良いな。


次はムネ……。


ぱくり。

もごもご。


これも美味しい!こっちの方がたんぱくだな、俺はモモの方が好みかも。しかしこれはこれで味がある。ぽん酢なんかが合いそうな感じだな。


さて、問題のホルモンはどうだろうか。


ぱくり。


「ぶっ!」


肝臓をいってみたが、これはダメだ!腐った血の塊を噛み締めたような……。なんとも言えない生臭さが口中に広がり、鼻に抜ける。

脳が全力で否定してくるソレを吐き出した。


後の部分は全て美味しく頂く事ができた、ひょっとしたら肝臓だと思っていたのは、全く別のダメな部位だったのかもしれない。

異世界の鳥だし、苦渋袋とかあるのかも。



「ふぅー」


貝も磯の味と言った感じで美味しかった。小さすぎて食べ応えはあまりなかったが。久しぶりに満足のいく夕飯だ。



食事を終えると、瞼が重くなる。


いそいそとシェルターの奥に潜り込み寝支度をする。眠れる時に眠っておくのもサバイバル技術のうちだ、何て考えながら目を閉じた。


あぁ今日はお腹いっぱいで、良く眠れそうだ。考えるべき事は沢山あるが、もう今日は良いだろう。


また明日。

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