無人島サバイバル五日目(前半)
相変わらずの体調だが、空腹と渇きに慣れてきたのか、動く事に支障はなさそうだ。
「あぁー……痒い」
焚き火の煙で少しは蚊が居なくなってくれると思ったが、そうも上手くはいかなかったようだ。小さな虫は対策を打ちにくい分、巨大生物より厄介かもしれない。
日中さらに虫に刺されないように、顔と手の露出している部分に土を塗っておいた。
気休めかもしれないが、虫刺され防止になる。
さて今日の目標は大きく二つだ。
一つは森林内の探索して、水を探す事。
もう一つはもう一度、潮溜まりを探索して食料を得る事だ。火を得る事が出来たので、貝や、その他の生き物も食材として消費出来るはずである。
鍋なんかがあれば、海水を蒸留して真水を作り出す事も可能かもしれないが……。無いものねだりをしても仕方ない、環境を利用していくしか無いだろう。
焚き火の熱を保存するために、灰を被せておく。これで炎は消えるが、熱は内部に残る。
これを元に火を起こすのは容易だ。
準備はできた、さぁ行こう、生きる為には行動あるのみだ!
岩場から集まった僅かな水を飲んで、動き始めた。
しばらく森を探索すると、あるものが目についた。
動物の足跡だ。
それは、俺の足の裏よりも一回り大きい。
楕円形のくぼみの上部に、指らしい小さな丸が……1、2、3、4つ。指の跡には、よく見えないが爪跡のようなものもくっついているようだ。
痕跡でどんな生き物なのかまでは予測できないが、大きな生物が居るのだろうか。
警戒しながら、ゆっくり足跡に近づく。
同じような足跡が、3つほど残されている。全てまだ比較的新しいもののようだが……。姿の見えない捕食者を想像すると、背筋がひやりとした。
「ん?」
ぬる、ぬるり。
ゆっくりと足裏が沈み、俺の足跡も残る。かなり地面が柔らかい、そうぬかるんでいる。これは思わぬ発見だ。
この辺り、地表に水溜りは見えないが、少し掘ると水が手に入るかもしれない。
「やってみる価値はありそうだ」
貝殻のスコップで、どろりとした地面を掘る。しばらく観察していると、掘った穴の周りからじわりと茶色い水が染み出してきた。
成功だ!
夢中で穴を広げる。泥まみれになりながら、必死で手を動かした。
すると泥水が数センチのかさまで来たので、しばらくそのままにして待つ。
大きなゴミや泥は、沈殿する筈だ。
じっと待ったが、どう見ても澄んだ水にはならない。まぁ少しはマシになっただろうか。
上澄みの部分をペットボトルに詰める事が出来た。上澄みと言っても、茶色い泥水なのだが。
そのまま飲むのは危険なので、あとで濾過と煮沸消毒をして飲む事にしよう。
これは大きな収穫だ。
潮の時間もあるので、森の探索もそこそこに意気揚々と潮溜まりに向かう事にした。
……
潮溜まりでは、貝を拾い集める事にした。これらは逃げないので捕獲しやすい。20ほどの小さな巻貝を拾い集める事が出来た。
これは後で煮て食べる事にしよう。
また10Lのポリタンクが漂着していた。見た目は汚いが十分仕事はできそうだ。それに貝を煮るのに海水が欲しかったところだ、いくらか汲んで帰ることに決めた。
しかし。
先日のビニールもそうだが、人工物が漂着しているのはどういう事だろう。もしや俺の知る地球に帰ってきた、とでも言うのか……。
じっと海の向こうを見る。
しかしそこには陸地も、船や飛行機も何も無い。青い海と、空が広がっているだけだ。
この海の向こうに何があるのか、確認するすべは無い。
ざざんざざん、と波の音だけが響いていた。
ええい。考えて居ても仕方ない、食料採集に戻ろう。小さな貝なんていくつ食べれば満腹になると言うのか。できれば魚が欲しい!
足場の悪いとがった岩場を、ふらふらと歩きながら大小いくつかの潮溜まりを根気強く探していく。
その時、ざばっと小さなそこから茶色い塊が飛び出した!
「何っ!?」
俺のすぐ横を通り過ぎて、それは大きな潮溜まりに飛び込んだ。何事も無かったかのように、すいっと泳いでいく。
魚か?魚が飛んで潮溜まりを移動するのか?
いや、違う。良く観察すると、サンショウウオのようなのっぺりした生き物がすいっと泳いでいる。
何だあれは。
大きさは50cmほどか、上手く捕まえる事が出来れば食べられるかもしれない。急いで後を追いかける。
しかしデザインに似合わないスピードでぐんと加速して、何処かに消えてしまった。ざばざばと水に入って探してみるも、何処にも見つからない。
「……」
じっと水面に目を凝らすが、どうしても見つからないのだ。あいつらは本当に隠れるのが上手い。
しばらく、そのサンショウウオもどきや他の魚も探していたが、収穫は無かった。潮が満ちるまで居るわけにもいかないので引き上げる事にする。
「はぁ……ん?」
帰り道、鳥の死骸を見つけた。鳩くらいの大きさの茶色い鳥だ。
胸から出血がある。どうやら他の鳥にでも傷つけられて落ちたのだろう。
鮮やかなその色からみると、死後そんなに時間は経っていないと見える。
つまり新鮮だ。
……この死骸、食べられないだろうか。
立ち止まって、しばらく考える。既に死んでいる生き物を食べるのはリスクが高い。
しかし。
肉が手に入ればという淡い期待から、この死骸も持って帰る事にした。
……
森の中を歩く。
既に日は沈みかけている。潮溜まりでゆっくりしすぎたか。それともポリタンクに汲んだ海水のせいで足取りが重いからか。
早く寝床に帰ろう。
その時、大きな木の根元に大きな糞が落ちているのを見つけた。両手に乗り切らないほどの大きさだ。随分良いものを食べていると見える。
そのサイズから大型の動物を連想させるが、肉食動物なのだろうか。食性を確認するために、ほぐして内容物を調べる事にした。
離れて居ても臭う。こんもりと盛られたう○こなぞ触れたくもないが、危険予測のためだ。
「……っ」
予想以上に最悪だった。
繊維が少なく肉食が予測される。それだけならまだしも、人毛のような毛が糞に混ざっていた。
そう。
一見、ヒトの髪の毛ようだが……まさか。
ぐるりと嫌な予感が頭を過ぎる。
いや、これが人毛と決まった訳では無いが、この島に肉食性の大型の生物が居るのは間違いないだろう。
立ち上がって、辺りを見回すが動物の気配は無い。しかし、こうなると薮や暗がりに何かが潜んでいるのでは無いか、と不安になる。
シェルターへ急ごう、日が暮れる前に。
そう考えて足早にその場を離れた。
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