迷宮サバイバル八日目(中)
決意を口にする。
「田中さん、実は仲間がまだ建物に居るんです。俺はあいつを助けに行きたい」
「うん、んー……」
田中さんは歯切れの悪い返答を返す。
それもそうだろう、彼等から迷宮の恐ろしさは聞いたはずだ。そこへ戻って行くというのだからマトモな神経だとは思えない。
「皆で行くと奴らに見つかる危険が増すから。俺、一人で行こうと思います」
「……」
続ける俺の言葉に、向き直って真っ直ぐこちらを見る。
「仲間が見つかっても見つからなくても必ず夕暮れまでに戻ります。もしも、戻らなかったら……置いて行って下さい」
彼は殆ど睨むように、じっと目を見つめてくる。プレッシャーを感じ視線を外したくなるが、ぐっと堪える。
しばらくこちらを見た後、彼が口を開く。
「あぁ、わかったよ。兄ちゃんを信じる」
「ありがとうございます!」
「私も、私も行きます!」
そこで入ってくるゆみちゃん、タイミングを伺っていたようだ。田中さんと話しているところをジーっと眺めていたのだ。
「お兄さん一人じゃ、ここから迷宮までの道はわからないでしょう?私は寝たまま運ばれた訳じゃないから覚えてるから!」
「うん、じゃあそうしよう」
二つ返事で許可をする。
着いてくるなと言っても無駄だろう。わりとガンコな所あるんだよなこの子は。
「わしと、楓はここで待ってるからな。時間通りに必ず帰ってこいよ」
「待ってますカラ!」
ぐっと気持ちを込めて頷く。
「必ず」
田中さんが、肩の銃を下ろしてこちらに差し出す。
「持って行くか?」
「いえ、キャンプが襲われないとも限らないし、俺たちは見つからないようにするつもりですから。田中さんが持っていた方が良いと思います」
不安で、銃の心強さを借りたい気持ちもあるが、合理的に判断するならば、田中さんが持っていた方が良いだろう。
ゆみちゃんも金属製の剣をまだ持っているようだし、万一の時はそれを使おう。
「そうか。まぁとりあえず、腹に何か入れてから行きな」
「はい、そうします!」
……
「気をつけてな、姉ちゃんもな」
「はい!」
「行ってきます」
彼等に手を振って、キャンプを後にした。
道無き道を、藪を掻き分けながら進んで行く。
彼女の案内で20分程歩いただろうか、見覚えのある外壁が見えてきた。出来れば二度と見たくはなかったな。
背の高い木の後ろに隠れながら、その外観を眺め、突入するかどうかを考える。
まだ中にクロがいるのか、もう脱出している可能性もある。
ここからは慎重に行動しなければ、命取りになるだろう。
「お兄さん?」
「うん、ちょっと様子を伺おう。中にクロが居るかどうかもわからないし、それに彼の方から脱出してくるかも」
そこに腰を下ろすように伝え、低い姿勢のまま、俺たちが出てきた入り口を見つめる。
入り口というよりは、ただの壁に開いた穴なのだが。
しばらく観察していると、中から声が聞こえて来た。
「○○△▲!!」
聞き覚えのある、意味不明な言語は。
「小鬼……」
そう呟き、彼女と顔を見合わせた。
様々な考えが頭をよぎる。
クロは中にいるのか?もう離れるべきでは?何のために小鬼はここに?
「お兄さん、クロを助けに行かないとっ」
「待って、まだ中にいるかも分からない」
「でもっ、あいつらに見つかったらクロが殺されちゃう!
最悪の展開は、クロが中にいて既に死んでいる。もしくは今まさに殺されつつあるか。
果たしてその場合、俺たちが突入して何か事態は好転するのか。
どうするべきか、俺達がみんな生き残るために最善の手は。
「お兄さんっ!」
「ちょっと待ってって!」
「……っ」
納得がいかないと言った顔で、こちらを見つめる彼女。今にも飛び出して行きかねない。
「焦る気持ちはわかる、でも待って。衝動だけで動いちゃダメだ。みんなで生き残る為に」
「……はい」
木陰よりじっと様子を伺う。
「○○◾️!」
「◻︎◻︎△▲!!」
その時、パッと青白い光が入り口の穴から漏れ出した。ばっと顔を見合わせる。
「クロの光だっ!」
「そして、彼は生きている」
じっと、目を見据えて、言葉を待つ彼女。
ここまで来たんだ、覚悟を決めるしかないだろう。命をかけてでも仲間を助けて、みんなで帰る。
「小鬼と、他の生き物に見つからないように突入する。そしてクロを助けるんだ」
「うん」
「でも、無理はしないで。自分の命を最優先に考えて行動すること」
「わかりました」
二人の視線が入り口に向かう。
「良し、行こう!」
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