迷宮サバイバル七日目(中ノニ)

口が渇く。

三者とも無言で水筒の水を飲み干して、出口を目指して歩いていく。


未だに砂埃が舞う中の行軍、視界は1メートル先がやっとだ。

殆ど手探りに近く、ゆっくり。しかし確実に歩を進める。


「……っと」


足下に転がる屍小鬼の死体に足が取られた。

それは頭部が半分以上失われていた。おそらく頭上から落石が直撃したのだろう。


「……」


消耗からか、慣れなのか、このようなものを見ても誰も声も上げない。


立ち込める砂煙、辺りで未だに燃え続ける炎と黒煙。

そして足下には転がる死体と血。


まるで地獄が、この世に現れたかのようだ。

渇いた風が、目と喉を焼いていく。


「はぁっ、はぁっ」


楓くんの息が荒く、よく見えないが顔色も悪い。

出口まで保つだろうか。


カラン


金属が硬いものと接触する音。


ばっ!と音の方向に向き直り、身構える。

そこにはゆみちゃん、しか見えない。


「あっ、ごめんなさい。コレを拾ったから」


声を潜めて釈明する。その手には、鞘に収まった一振りの剣。

奴らのモノか、木箱に入っていたのか。どちらにせよ、身を守るのに武器を持つのは良いだろう。


黙って頷いて、再び進み始める。



……



ぶわっと風が吹き込んだ、緑の匂いがほのかに感じられる、森の風だ。

その強さに、出口が近い事を知る。


しかし、吹き飛ばされた砂煙が晴れると、それは近くて遠い存在だと思い知らされた。


現れたのは鉄兜を被り、金属棒を握りしめた個体だ。今までのものより少し大きい、俺と同じくらいの大きさがあるだろうか。


俺たちはそれぞれの武器を構え、迎撃の体勢を取る。


鉄兜がぐるりと首を回して辺りを見回す。

ぐっと身体に力が入ったのが見えた。


奴は大きく口を開け……


「○○●▲△ッーーー!!」


咆哮する。

そして、そのまま放たれた矢のように真っ直ぐ駆けて来た!


気迫に抑え込まれそうになったが持ち堪え、ぐっと踏み込み槍を突き出す。


こちらはリーチで勝る。


先に突き立てられると確信があったが、奴はそれを半身になって回避し、あろうことかその手の武器で打ち払った!


伸び切った木槍は、ばきりと音を立てて中程で折れる。


「うぉ!」


そのまま懐に飛び込まれた!

その瞬間、どんっと背中に突き抜ける衝撃、腹に肘を入れられ身体がくの字に折れ曲がる。


「かっはっ……」


肺の空気が絞り出されるような感覚。


カァーン!


隙を狙ってフルスイングしたフライパンが、大きな音を立てて受け流される。

ぐらりと一方的に態勢を崩された楓くんが、サッカーボールでも蹴るかのようにどんと蹴り込まれた。


がらがらがらと無造作に転がり、木箱にぶつかる。


「はぁぁぁーっ!」


横合いからゆみちゃんが飛び出した!


ブォン!


抜刀した抜き身のそれが空を切る音。彼女の渾身の一刀は、ばっと後ろに飛び退いたヤツに回避された。


刃が威嚇になっているのか、鉄兜はずずっと間合いを取り、警戒しながら様子を伺っている。


「ーーーはぁっ……はぁ」


呼吸が整える時間が得られた事に感謝しながら体を起こす。折れた槍を捨て、ナイフを鞘から抜いて構えた。


「○▲△……」


何だこいつは。

こいつは、今までのやつと違う。動きが恐ろしく俊敏で、技術がある。


「はぁー、はぁー、ふぅぅー」


隣の彼女と、呼吸が重なった。

しかし負ける訳にはいかない、俺は、俺達は生き残る。

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