迷宮サバイバル六日目(後半)
一瞬、楓くんが警戒していたが、ゆみちゃんの人当たりの良さで、すぐに馴染んだようだった。
それぞれの自己紹介もそこそこに、近況報告を始める。
「何で屍小鬼に追われていたの?」
「やばかったです」
微妙に噛み合わない感じの返事を貰う。
「うん、それはそうだけど、何故追われていたの?」
「壁が壊れてる出口っぽい場所を見つけたんですけど、そこに大きな蜘蛛と、今のやつの軍団が居たんです」
手振り身振りを加えて、彼女が話す。両腕をいっぱい広げた程の大きさの蜘蛛らしい。
ジェスチャーが大きすぎるので、手がクロに当たりかけて「ごめん」なんて謝っている。
蜘蛛は寄生生物の親玉だろうか。
「今のやつ、屍小鬼って言うんですか?あれが二十匹くらいいたかなぁ、見つかって慌てて逃げて来たんです」
朗報と凶報が同時に来たな。
出口らしき情報と、屍小鬼集団の存在。
「……」
言葉は発しないが、隣で明らかに動揺している楓くん。手をぎゅっと握って下を向いている。
「二十匹かぁ……どうするかなぁ」
戦うのは無謀だろう。
別の出口を探すか、見つからずに脱出する方法を考えるか。
「お兄さン」
心配そうに伺いを立ててくる彼に、返事をする。
「うん、なんとか回避する方向で考えよう」
「ハイ」
表情は暗いままだ、それもそうだろう。あんなものが集団化しているというのは、悪夢でしかない。
「あいつら一体何ですか?」
もっともな質問が飛び出した。
「これは推測ではあるんだけど、あのゴブリンみたいな生き物が寄生虫に操られて、あんな状態になっているようだね。頭の中に蜘蛛みたいなのが居たから」
「うわぁ……最悪」
想像しているのか、斜め上を向いたまま感想を述べている。
「今後の方針なんだけど」
「はい」
「ハイ」
「クロの体調もあるし、今日は建物から出て、外で……といっても中庭部分だけど。そこで野営しよう」
無理は禁物だ、サバイバルの鉄則である。
「わかりましタ」
「うん」
二人とも、二つ返事で同意してくれた。
「そして、脱出方法をゆっくり考えよう。なるべく危険の少ない方法を」
無言でこくりと頷く二人。
しばしの間を空けて、ゆみちゃんが口を開く。
「そういえばお兄さん」
「なに?」
「その髪、イメチェン?」
その髪とは、色が変わってしまったこの髪だろう。
「……後で説明するよ」
……
寝床の設営と、火起こしに分かれて作業を分担する。俺が火起こし、彼らが寝床の設営だ。
クロには休んでもらっている。
猫の手も借りたいが、犬の手は必要無いだろう。
人手が多いと作業は早い。思っていたよりも早く簡素な焚き火と、立派な木の枝と葉で出来たテントが完成した。
「結構早く出来たね」
「楓くんすごいよ!見た目より力もあるし」
「そんなコトないです」
どうやら共同作業で、すぐに彼らは打ち解けたようだった。信頼関係は重要だ、良い方向に進むだろう。
「でも、お兄さん大変でしたね」
そう言って、俺の銀色の髪を見る。
「楓くんから聞きました」
「……うん?」
どんな話を聞いたと言うのか。
実際のところ、何もかも推測の域を出ないので納得してくれたなら、それで良いのだが。
同情のような目は気になる。
(まぁ、いいか)
その晩は、アドの実に舌鼓を打ちつつ、積もる話に花を咲かせて更けて行ったのだった。
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