雪山サバイバル十四日目(前半)

ゆさり、と体が揺さぶられて目が覚めた。


どうやら、ゆみちゃんの仕業らしい。乱れた髪を手櫛でとかしながら、こちらを見て笑っている。


「おはよう」


「おはようございますっ!」


今日は元気なようだ。顔色も良いし、声にも暗い部分は無い。


幸いにも竜の襲撃も無く、平穏無事だったからだろう。


かくいう自分は同じベットで並んで眠らされて、精神的に動揺している。

いや、大人の余裕を見せるべしと思って、表面上は冷静を装っているんだが、昨晩からそわそわしている。


どうするのが正解だったんだ……?


まぁそんな事はいい、それより竜の巣の襲撃の計画だ。起き上がってベットの縁に座り、告げた。


「竜の巣の襲撃の計画を立てよう」


彼女はその言葉に、こう応える。


「あー先に、朝御飯とコーヒーにしません?」


「……はい!」


彼女と出会ってから、一番良い返事だったかも知れない。”はい!“って何だか、セリフが逆の気がするぞ。


しかし、まぁ先に英気を養うのが良いだろう。腹が減ってはなんとやらだ。



……



彼女の淹れるコーヒーは絶品だ。

山岳部はコーヒー好きが多かったらしい、確かにコレを飲めばそれも分かる気がする。


「それで……」


そう切り出し、真面目な顔をするゆみちゃん。


「うん、爆弾を仕掛けようと思う」


「ば、爆弾ですか!?」


「そう、一般的な金属片なんかで殺傷する爆弾じゃなくて、爆風と衝撃波で直接破壊するつもりだから、いわゆる爆弾とはちょっと違うんだけどね」


使えるのがガソリンだから、自然とそうなってしまう。


「物置にあった大きくて丈夫なビニール袋に、ガソリンを入れて、気化させて圧力を高めた状態にする。そこに松明の火を持って行って、ボンッという段取りだ。」


上手くいけば、即死に持っていけるだろう、即死を免れたとしても、酸素を急激に奪われた空気と衝撃で肺を破壊する。確実に倒す事ができるはずだ。


松明で起爆する以上、危険に晒されるが仕方ない。

幸い巣がクレーター状に窪んだ地形なので、爆風は上方に指向性を持ってくれる、外に居れば無事ですむ……と思う。


そうでなければ、派手な自殺になるだろう。

不安要素は掃いて捨てるほどあるが。


「上手くいくでしょうか?」


「わからない、でも上手くやるしかない」


最善を尽くそう。


「そうですね、頑張りましょう!」


彼女も切り替えてくれたようだ、その瞳には決意の炎が、灯っている。


「うん、道具を持って竜の巣に行こう。爆弾の作成は現地でやるから。」


「わかりましたっ!」



……



竜の巣はもぬけの殻だった。


実に好都合だ。

竜の居ぬ間に爆弾作りをする、死ぬほどびっくりするサプライズになるだろうな。


ビニール袋に、ガソリンを小分けに入れて行く。満タンにはせず、半分位で留めておく、こうしておく事で混合気体を増やす事ができる。


いたずらに、燃料の量を増やせば良いと言うものでもない。空気と気化燃料の割合と、圧力が重要なのだ。


「これで良いですか?」


そう言って最後の袋にガソリンを詰めて、チャックを閉めた。空気を通さないのが売りなのだろうか、割としっかりしたチャックだ。


「うん、良さそうだ。あとはダクトテープで補強しておこう」


二人で絶対に空気が漏れないように、テープでしっかり止めておいた。少し振ってみたが、大丈夫そうだ。


巣の中に侵入し、中央に5つのビニール袋を全て並べた。


気化したガソリンで圧力が高まり、膨張した袋に松明を投げ込む算段だ。

幸いにも竜の巣は温度が高い、十分気化するだろう。


「これで後は、竜が来るのを待つだけだ」


そう言う俺に、彼女は真面目な顔をして頷いた。


「あの、お兄さん……」


「ん?」


「いえ、あの、生き残りましょうね」


そうだ、必ず勝って、俺達が生き残る。


「うん、必ず」


少し離れた斜面に雪洞を作り、そこで息を潜めて待つ事にする。

竜の巣が一望出来る、絶好のポイントだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る