雪山サバイバル十日目(前半)

入り口の小窓から射す光で、朝を迎えた事を知る。

どうやら、まだ生きているようだ。


昨日は固形物を何も食べられなかった、とにかく空腹が辛い。


他のメンバーも無事だろうか。

クロはまだ、足元で丸くなって眠っているようだが。


「お腹すきましたねー!」


ゆみちゃんも元気そうだ。大きな声で空腹を訴えた後、はっとして口をつぐんだ。

不平不満を訴えても意味が無いと思ったのか、同じ境遇の俺に遠慮したのか。


あっけらかんとした風に見えるが、あれでいて彼女は結構気を使うところがある。


「確かにね、腹減ったぁー!」


大きな声で返事をする。

声の大きさに驚いたのか、ぽかんとした後、あははっと笑ってもう一度言った。


「お腹すいたーっ!」


「腹減ったぁー!あーっ!」


「あはははははっ」


散々文句を言ってから、何が面白かったのか、二人で気がすむまで笑ったのだった。



騒ぎに起こされたのか、もそもそと動き出したクロを撫でながら、出発準備をする。

準備と言っても、コーヒーを淹れるのと、所持品のチェックくらいだが。


目覚めの一杯に砂糖たっぷりのコーヒーを飲んだ。コーヒーもこれで最後だ、口に入るものはもう何もない。


「さあ行こう!目標は煙の出る地点だ!」


「はいっ!」


ふるふるっ(クロが尻尾を振る音)


皆に見えないよう後ろを向き、下唇をぐっと噛んで気持ちを堪える。

煙の出る場所まで歩いても何もなかったら?明日も食料が見つからなければ?


命は無いだろう。


湧き出す不安を払って、努めて明るく。

一歩を踏み出した。



……



「なるほどな」


白い煙の発生源に近づいてみて、ようやく全貌が判明した。


湯だ。


おそらく温泉、雪に囲まれた、日本にもある普通の温泉に見える。


しかし、驚くべきはその規模。


向こう岸まで100m以上あるだろう、温泉というより、もはや湯でできた池と言った方が良い大きさだ。


湯の温度を確かめるため、手袋を取って手をつけてみる。


「これはっ!」


「どうしたんですか!?」


「すっげー気持ちいい!」


そう言って、両手を湯につける。ちょうどいい湯温だ、40度くらいだろうか。


「本当ですか?」


続いてゆみちゃんも手袋を外して手をつけた。


「おおーこれは、確かに気持ちいい」



ざぱんっ!


「うおっ」


水しぶきに慌てる、どうやらクロは温泉に飛び込んだようだ。

ばしゃばしゃと気持ち良さそうに泳いでいる。


あの毛皮、乾く時凍らないか心配だが。


手を温めながら辺りを見回すと、近くに家らしい建造物を見つけた。

同じ方向をゆみちゃんも見つめている、家というより山小屋だろうか。


殆ど木で出来ていて、ログハウスといった風情だ。

人間が作ったもののように見えるが、小鬼が住居を作っていた事もあったし、確認できるまでは気が抜けない。


ちらりと、ゆみちゃんの方に目をやる。


「行ってみましょう!人が住んで居なくても食べ物があるかも!」


確かに、この状況を打破するためには選択権はない。虎穴に入らずんばだ。



……



クロは温泉に置いてきた、目の届く範囲だし、しばらく遊んでいるようなので良いだろう。


階段下にゆみちゃんを待たせて、ログハウスの玄関まで進む。


コンコンとノックと共に声をかける。いつでもナイフを取り出せるように、ナイフカバーのボタンは開けたままだ。


「こんにちはー」


返事は無い。


「こんにちは、誰かいませんかー!」


少し大きな声で呼びかけながら、ぐっと扉に手をかける。

どうやら鍵はかかっていないようだ。


緊張しているのか、少し手に汗をかいているのを感じる。


「入りますよー」


意を決して扉を開けた。

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