雪山サバイバル八日目(後半)
車があった位置より、少し離れた斜面に、野営する事に決めた。
あれだけ車が破壊されているところを見ると、もう少し距離を取った方が安心ではある。
しかし現在の時刻と、雪洞を掘るのに適した斜面が近場に見当たらないところを考えると、ここにシェルターを作るしか無いだろう。
日が高いうちに準備をしなければ、日が暮れてから作業を行うのは困難だからだ。
ゆみちゃんにも確認するが、同意見であるようだ。クロは聞いても返事は返って来なかった。
……
考えていたよりも随分早く。30分ほどでシェルターは完成した。
今回は二人がかりで作業が出来たこと、また前回の経験によりスムーズに作業出来たことが良かったのだろう。
あまり大きくはせず、二人と一匹がギリギリ横になれる程度の大きさに留めた。
また今回は彼女の提案により、壁面に棚を作って、そこでナマズランプを灯せるように設計した。
これによって、照明も確保され快適度が上昇した。
アイデアを褒めると、先輩に教えて貰ったとの事だった。登山部ではわりとメジャーな設備なのだろうか。
「完成だ!」
「やったあー!」
早速、中に入って具合を確かめてみる。
「いいね、外と比べてかなり暖かい」
「雪には断熱性があるらしいですよ、外が氷点下でも、雪洞の中は0度付近だったり。」
雪が殆ど降らない地域に住んで居た俺には、ピンと来ない話だが、ゆみちゃんは雪には慣れているようだった。
「雪が暖かいって不思議だなぁ」
「不思議ですね」
……
「そういえば、ゆみちゃんは富士山にも登った事あるの?」
夕食に餅を食べながら、雑談に花を咲かせるのだった。
「ありますよ!お父さんとご来光を見に行ったんです、綺麗だったなぁ」
クロを撫でながら答える。
家族の事を思い出したのか、一瞬遠くを見るような目をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「そういえば富士山って日本で一番高い山って有名だけど、二番目に高い山ってあんまり知らないよね」
「北岳ですよ?二番目に高い山」
「!」
富士山は有名だけど、二番目は知らないあるある、みたいな反応を期待してたのだが。
すぱっと出て来た、有名なのだろうか。
「みんな知ってますよ」
「そ、そうなんだ」
「山登りってやった事ないから、あんまり詳しくなくて」
「楽しいですよぉー!」
本当に好きなんだろうことは、表情から読み取れる。
「へぇ、日本に戻れたら、俺も登山やってみようかなぁ」
山中で遭難中に、帰って登山をしようなんて話が出るとは思わなかった。
「良いですね、是非やりましょう!」
その後も、登った山の事や、何が良かったなんて事が次から次へと湧き出てきて夜は更けていった。
……
ぐらりと地面が揺れる感覚で目が覚めた。まだ真夜中のようだが。
ぐら、ぐら。
と一定の間隔で大地が、揺れる。
(地震か?)
それにしては様子がおかしい。まるで巨大な何かが行進しているような。
ぱっとゆみちゃんと目が合う。
この不可解な現象に、彼女も目が覚めたようだ。
口元に指をやり、無言でコクリと頷いた、物音を立てるのは良くない気がする。
入り口に拳大の大きさに開けた覗き穴から、外を伺う。幸いにも今日は月明かりで、よく見えるようだ。
二人並んで、じっと目を凝らす。
そこには、巨大な生物が存在していた。
「……っ」
「嘘……」
この小窓からは身体の一部しか見えないが、恐ろしく大きな頭部に緑の瞳。
口から覗かせる牙は、図鑑で見た肉食恐竜を連想させる。
巨大な顎は一飲みで人間を呑み込んでしまいそうな大きさだ。
ごくりと息を呑み、様子をうかがう。
左右に首を振って何かを探しているような素振りを見せたあと、それは離れていった。
「……」
「……はぁー」
「怖っ!」
確かに恐ろしい、あんなものまでいるとは。十中八九、車を破壊したのもあの生き物だろう。
あの大きさであれば、易々と車を破壊する事ができそうだ。
「どうしよう?」
彼女が、どうすべきか聞いている。今出来ることは限られている。
指示を伺うというよりは確認の為だろう。
「とりあえず、夜が明けるまでは動けない、今は此処でじっと待機。ただ、すぐに逃げられるように荷物だけはまとめておこう。」
彼女は何か言おうとしたようだが、ぐっと呑み込んで、首を縦に振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます