雪山サバイバル八日目(中)
「……」
「……い!」
何処からか声が聞こえる。
目の前が真っ暗だ。比喩ではなく、本当に暗闇だ。上も下もわからない。
(雪に埋もれてしまったのか)
滑落したところまでは覚えているが、どうして雪の中にいるんだろうか。とにかく脱出しなければ。
抜け出すべく足と手を動かそうとしてみるが、全く動かない。
固まった雪に埋もれてしまって身動きが取れないようだ。
「ぉ……おーい!」
声は出るらしい、彼女に届いただろうか。
「はぁっ……はぁっ……」
体が潰されているからか、埋もれてしまっているからか。
声を上げるだけで息が切れる。
(まずい…このままでは窒息するんじゃないか)
不安感が胸をよぎる。
「おーい!!」
もう一度、肺の中の息を振り絞って声を上げた。
ぼこり
その時、頭上の雪が退かされて、光が射した。隙間からゆみちゃんとクロの顔が覗いている。
「大丈夫ですか!?」
肩で息をしたゆみちゃんが、そう尋ねる。
どうやら助かったようだ。
首を縦に振り、無事を伝えた。
……
身体をチェックしてみたが特に目立った外傷は見当たらない。
どうやら打ち身や擦り傷程度で済んだらしい。
手足も動くようだ。
「大丈夫ですか?」
もぞもぞしていると、顔を覗き込んできた。どうやら心配してくれているようだ。
「ああ、目立った怪我も無いみたいだし。助かったよ、ありがとう」
「あぁ、よかった!」
ゆみちゃんが言うには、先頭を歩いて居た俺は、雪庇を踏み抜いて滑落。
そのまま滑って、この柔らかい雪溜まりに突っ込んで行ったという事だ。
雪の上にできた足跡ならぬ滑り跡を見ると、結構な距離を滑り落ちたらしい。自分ではほんのわずかな時間にしか感じられなかったが。
装備品の確認もする。
ピッケルを失ったが、後の装備は無事だったようだ。特に破損もなく、揃っているのは幸運と言えるだろう。
「ところでゆみちゃんは、どうやってここまで降りて来たの?」
わりと崖のような急斜面もあったが。回り道があったんだろうか。疑問を口にする。
「崖はロープで降下してきましたよ」
「ロープで!?」
「大変でしたよー!練習はした事あったんですけど、本番は初めてで!」
「すごいな、映画みたいだ」
いやぁーなんて照れているが、どうやら彼女の認識を変えないといけないようだ。
南高校登山部恐るべし。
……
改めて、周囲を観察する。
すると、すぐそばに黒色の車が乗り捨てられている。この世界に不似合いな人工物だ。
「車……?」
近付いて観察する事にした。
ミニバンのようだ、タイヤも雪に適応しているとは思えないし、わだちも無い。
自走してここまで来た、というよりは、この状態で突然ここに現れたと考える方が良いだろう。
「ドアが無いですよ?」
そうだ、気になるのはドアが無いのだ。
運転席側、助手席側の両方のドアが無くなっている。
ドアの根元の部分には、強い力がかかって壊れたような痕が残っている。
「ちょっと待ってて、中を見てくる」
そう言って、ゆみちゃんとクロに待っているように合図する。
「気をつけて下さい」
そう言って、壊れたドアから中へ入る。
運転席には誰も居ない。
車内は傷だらけだ、シートが破れて中身がはみ出している部分もある。何者かがドアを破り、車内を破壊したと考えるのが妥当だろうか。
(ハンドルに何かついている?)
ゴーグルを外して、確認する。
どうやら血痕のようなモノがハンドルに付着しているようだ。
後部座席を確認する。
そこには、バケツや水道のホース、デッキブラシなど掃除用具が積まれている。
特に使えそうなものはなさそうだ。
血痕も気になる、なにか危険なものが潜んでいるかもしれない。
早くここを離れた方が良いだろう。
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