雪山サバイバル七日目(中)

「きゃああああ!!」


ゆみちゃんの治療(保温?)も落ち着いた所で、今日の予定を決めようとしてるところに大声が響いた。


「ちょっと、狭いのに叫ぶのはやめて」


耳が潰れそうだ。


「これっ、こここの人」


指を指す先には、同居人の遺体さんが居た。今頃気がついたのか。


「ああ、彼は残念だけど……」


「……」


顔が引きつっている。


「ど、どうするんですか?」


どうするつもり、か。

実は今日、すぐに下山するならばイグルー内に放棄しようと思っていたんだが。

今日は結構時間を使ってしまったから、下山のために動き出すのはやめておいた方が良いだろう。


日照時間が短いので、日の出て早いうちに素早く行動した方が良さそうだし。


「うーん、考えていなかったけど」


首をぐるりと回す。


「とりあえず外に出しておくよ」


とりあえず、やるべき事は決まった。

遺体を外に担ぎ出すが。ずしりと腰にきた、死んだ人間ってこんなに重いのか。


遺体はイグルーのすぐ横に寝かせて埋めた。

万が一、獣などが寄ってこないように雪中に埋めたのだ。


しかしあの取り乱しようでは、彼女の着ているダウンが元は彼のものだった、というのは秘密にしておいた方が良さそうだろう。



……



「ちょっと出てくるから、ゆみちゃんはクロと一緒に居てね」


そう伝えて、外に出る。

今日の移動は諦めたが、周囲をもう少し探索してみたい。


「あれは付けないんですか?」


後ろから、そう言って呼び止められた。

彼女の指差した方向には、ゴーグルとピッケルがあった。ここの住人の装備品だ。


「そうだよな」


などと言いながら、拾い上げたピッケルの柄を持ちブンブン振り回した後、肩にかついだ。

まさかり担いだ金太郎のイメージだ。


「じゃあ行ってくる!」


「……」


意気揚々と出発しようという俺とは対照的に、ぽかんとした顔でこちらを眺める彼女。


「……何か違ったかな?」


「あはははははっ」


突然の大笑い。意味が分からずムッとしていると続けた。


「武器じゃないんだからー」


どうやらピッケルの使い方が想定と違ったらしい、斧のように振り回して獣を狩る道具だと思っていたのだが。

ギザギザの部分が攻撃力高そうなのに。


彼女が言うには、普段は上部のヘッドの部分を持って杖のように使うそうだ。斧のように振るって使う場面もあるが、今は必要ない。


後、靴の金属爪はしっかり固定されていないとのことで、付け直してくれた。

この爪はアイゼンと言う道具で、俺の予想通り滑り止めの効果があるそうだ。


「ありがとう、詳しいんだね」


正直に感謝を伝える。

すると少し照れた様子で、ぱたぱたと手を振って応えた。


「私、山ガールですから!行ってらっしゃい!」


そう言って、ゴーグルを手渡して送り出してくれた。



……



今日は天気が良く、視界は良好だ。

しかし周囲をぐるりと散策してみるも、特に何も見つからなかった。


まぁ想定内だ。


ところで、今俺がいるのは先日発見した例の縦穴の前なのだが。


これには理由がある。


実はあの時、飛び出て来たのは、あの白いナマズじゃないかと踏んでいる。この穴は大きさから考えて奴らの巣穴ではないだろうか。

もし上手く捕まえる事が出来たら、食料と燃料が得られる貴重なチャンスである。


試してみよう。


薪の為に所持していた30cmほどの枝の先に、ナイフで切り込みを入れる。

その先に白ナマズの脂肪を少し挟んで、松明を作った。


先に火を付けると、思った通りぽうと燃え出した。脂に着火しているので、少々の事では火は消えないだろう。


「よし」


第一段階クリアだ。松明は思った以上に良く燃えてくれている。


その松明を巣穴であろう穴に放り込み、間髪入れず穴を大きな石で塞いだ!


中で他の穴と繋がっていないのであれば、このまま待つだけで、穴の中は煙と一酸化炭素で満たされるだろう。


「……」


ばんっ!


しばらくすると石蓋に何かが内側からぶつかる音。


石蓋がズレないように、上から押さえつけて持ち堪える。手に伝わる衝撃から、力の強さを感じる。


その後も、ばんばんと数回石を叩くが、しばらくすると静かになった。


「……」


念の為、5分ほど経ってから石蓋を退けた。

俺の作戦通りならば、この巣穴を掘っていけばナマズが居るはずだ。

スコップでザクリザクリと、穴を広げていく。


「居たっ!」


そこには松明の煙で燻されたか、失神している白ナマズの姿があった。

ぐっと、すかさず引き摺り出す。これも、この間と同じくらいの大きさだ、1mくらいはあるだろう。


動かないように押さえつけて、ナイフを抜く。グゥッとこめかみの辺りをナイフで突き、トドメを刺した。


酸欠ですでに虫の息だったか、殆ど抵抗もなく息絶えた。


さあ、これは大収穫だ。

白ナマズの脂は燃料になるし、肉は食える。


晴々とした気持ちで、シェルターに戻って行くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る