雪山サバイバル一日目
ゴゴゴゴゴ……
最近良くある、いつもの地震で目が覚める。何度もある上に被害が特にないので、慣れてしまっている。
防災の視点から言うと、良くは無いが。
「んー……寒っ!」
恐ろしいほどの寒さだ、昨日まではそんなに気にならなかったのだが。
布団から出るのも辛かったが、ごそごそと這い出る。
ごろん、と横にいたクロが転がって行く。
クロは真っ黒な仔犬だったのが、最近グングン育っていて、もう芝犬位の大きさがある。
頭に3cm程の角が生えているのがチャームポイントだ。
「あっごめん」
すぐに謝るが、転がりながらもまだ寝ているうちの弟分は、全く聞いていないようだ。
窓がやけに白い、真っ白だ。ばたばたと窓を叩く風音が聞こえている。曇っているのか、窓を開けてみる。
ガガッ……ッガ
固くて、開かない。
「どうしたんだろう」
気をとりなおして、身だしなみを整える。
電気も水道も使えなくなって久しいが、洗面所の鏡の前で、髭を剃る位はできる。
さっぱりした俺は、改めて外を確認してみることにする。ぱたぱたとクロも寝床から出てきたようだ。
玄関を開けて外に出ると。
そこは、一面の銀世界だった。
草木一本生えていない、なだらかで真っ白な斜面に、我が家がぽつんと存在している。
さらに正面には白い山がそびえ立っていた。
つまりここは、雪山の山中だ。
「はあぁー!?」
思わず声が出てしまった。突然の出来事に、驚きが隠せない。
このところ何度も災難に見舞われて、理不尽な出来事に耐性がついて来たと思っていたが。
さすがに、この状況は予想外だ。
寒さに震えながら、家の周囲をぐるりと見て回る。だめだ、四方とも白い山に囲まれている。
ばさっばさっ
音に振り向くと、クロが雪を掻き分けて走り回っていた。すごい喜びようだ。
しばらく見ていると、ひっくり返ってお腹を見せてゴロゴロ転がりだした。尻尾は全力でブンブンしている。
楽しそうで何よりだ。
ふぉおっと風が吹いている。
とにかく、寒い。もはや寒いというより痛い。
防寒をしなければ、命に関わるだろう。
いそいそと家の中に戻った俺は、家にある衣類で、考えうる最大限の厚着をする事にした。
温さが売りのインナーの上下、セーターの上にダウンジャケットを来て、ニットの帽子も被った。この上からダウンのフードを被れば二重に暖かいだろう。
さらに手袋も着用し、かなりの重装備になった。
これならいけそうだ。
意を決して、もう一度外に出る。
フォォオ……
まだ寒いが、これならなんとか動くことができる。少し歩いて、辺りを探索しよう。
情報収集だ。
ばさっ
雪の中からクロが飛び出してきた、どうやら一緒に行くらしい。
「よし、行こうか」
ギュッ、ギュッと、雪に足跡を残しながら歩いて行く。
ギュッ…ズボッ
ギュッ…ズボッ
あれから10分も経っていないが。
意気揚々と出発したものの、雪に足が埋まって前に進めない。一歩一歩が重労働だ。
「きっつい……」
靴の中にまで雪が入ってビショビショだ、足の感覚がなくなって来た。
後ろを振り返ると、家はまだすぐそこにある。
「だめだこの雪じゃ、これ以上は進めない」
とりあえず家に戻る事にした。
……
しかし風は凌げるとはいえ、暖房器具が動かない家の中には、火の気が無く凍える。
暖をとるためにも、食事をするためにも、火を起こしておく方が良いだろう。家の前で準備に取り掛かる。
流石に雪の上に直接焚き火は難しそうだ。
雪を足で踏み固めて平らにし、その上に丸太を何本か敷き詰めて台にした。
さらにその上に細い木を組んで、ティッシュペーパーを火口にメタルマッチで火をつける。
チッ…チッ……
「くそっ」
風のせいか、中々火がつかない。
三度目の正直でやっと火がついた、焚き火の炎が安定したのを見てホッする。
とにかく喉が渇いたので、水を飲もうと思った時に、ある事を思いついた。
水も重要な資源だ、鍋に雪を入れて白湯を作るのはどうだろうか。ぱっぱと近くにあった雪を鍋に詰めて、火にかける。
ふつふつ
思った通りだ。綺麗な湯が沸いたので、少し冷ましてから飲んでみた。
「美味いっ」
ただの湯だが、冷えた体を体の芯から温めてくれる。最高だ!
食事も、干し肉を鍋で茹でて、塩なんかで味を整えてスープ風にして食べた。
大満足のお食事とはいかないが、暖かい食事は心と体を満たしてくれた。
当然、クロの分も用意してやった。猫舌と言うことは無いだろうが、火傷しないよう冷ましてからだが。
特に干し肉は大好物で、ものすごい勢いで完食してくれた。
……
何故こんな事に?考えても答えは出ないのだが、考えずにはいられない。
火の気のない部屋の中で眠るのは辛かった。目一杯布団をかぶるが、どんどん気温が下がっていくようだ。
「明日、目が覚めたら平地に戻ってないかなぁ…」
などと考えているうち、俺の雪山サバイバル一日目は過ぎていったのだった。
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