第30話 二十五日目(中)

「はぁっ…はぁっ…」


荷物を持ったまま、長距離を走る事はできない。


「ふぅーっふぅーっ…」


どうやら、楓くんの体力も限界のようだ。

立ち止まる。

辺りは、もう薄暗くなってきている。


遠くから、足跡と例の声が聞こえる。

しかも確実に近づいている、どうやら追跡して来ているようだ。


声の方を見ると、ゆらゆら、といくつかの光が見える。


(あれは…火?)


どうやら、松明を持って歩いているようだ。

これなら向こうの位置が、手に取るようにわかる、狙撃できるかも知れない。


手で合図して、楓くんとクロを茂みに隠れるよう指示する。


銃を構えて、スコープを覗く。

姿を確認できたのが三匹。が、まだ少し遠い。もう少し引きつけよう。


ボルトハンドルを前後させ、薬室に弾丸を送り込んだ。その後、下部の弾倉を開けて、もう一発放り込んでおく。

これで三発まで発射できる。


まだ、こちらの位置は知られていないようだ。全く無警戒に、歩いてくる。

先頭の小鬼の胸の中心に照準を合わせて…。


ぐぐっ

引き金を引く。


ドォンッ!!


パッと赤いモノが広がり、後ろに倒れた。

思った以上に反動が強い、しっかり構えていないと、銃が跳ね上がってしまいそうだ。


ガチャチャ!


ボルトハンドルを操作して、排莢、次の弾丸を薬室に送り込んだ。


もう一度、スコープを覗く。


隣の小鬼が、どうしたとばかりに倒れた者の方に駆け寄る。今度はその背中に照準を合わせて、もう一度引き金を引いた。


ドォンッ!!


手応えはあった。

先に倒れている者に、折り重なるように倒れた。


残る一匹は…!?

狙撃に集中して、見失ってしまった。

見回して探しながら、排莢、次弾の準備を行う。


(どこだ、どこに行った!)


「お兄さん、あっち!」


指した方向を見ると、何かを察知したのか、低い姿勢でこちらに走り寄ってくる小鬼の姿が見えた。


左手側から、斜めに駆けてくる!


そちらに銃口を向けて、スコープを覗くが、草木が邪魔ですぐに視界から消える。

狙いが定まらない。


これでは、当たらない。

引きつけて、確実に当てられる瞬間を待つ。


(まだだ…)


「近づいて来てるよ!」


(まだ…)


ザッ


その距離10mほどか。

遮蔽物が無くなり、体が見えた!

ぐっと引き金を引く。


ドォンッ!!


当たった、と思った次の瞬間。どさり、と地面に転がった。


(やった……)


「すごいっ!お兄さん!」


楓くんが走り寄って来た、にこりと笑顔で答える。


「でも、まだ五匹は居る」


震える手で、弾倉に弾を詰めていく。薬室に一発、弾倉に二発。射撃準備は万全だ。



「●○◇■!」


「●▲△◇□!!」


遠くから、叫ぶような声が聞こえる、何かを話しているようだ。


遠くで松明の光が揺れている、まだ距離はあるだろう、小鬼の姿は見えていない。しかし5つの光で周囲を囲まれてしまった。


銃声で位置がわかってしまったのだろう、逃げ道はなさそうだ。


「クロ、楓くんを頼む」


そう言ってクロの頭を撫でてやる。理解したのか、理解していないのかは分からないが、尻尾を振って返事をしてくれた。


「楓くんは、茂みに隠れてて欲しい。」


何か言いかけたが、飲み込んで、コクリと頷いた。一緒に居るよりはマシだろう。


(距離を詰められる前に此方から仕掛けよう)


そう決意して、動き出した。

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