第29話 二十五日目(前半)
バサバサバサッ……
鳥が羽ばたく音で、目が覚めた。辺りはまだ薄暗い。
ゴゴゴゴゴゴ…
地震だ、しかし大した大きさではない。
鳥たちは地震が起こる前に飛び立っていたようだが。やはり彼らには、前兆みたいなものを感じる事ができるんだろうか。
野生の動物の力には驚かされるばかりだ。
しかし、それに比べて……
クロはまだ隣で寝ている。
お前の野生力はどうなっているんだ?
そう思って、じっと見ていると目を覚ました。
どうしたの?というようなとぼけた顔をしたのだった。
(可愛い!)
それは良いとして。さあ、出発しよう。
……
かさりと藪を掻き分けると、少し開けた場所に、明らかに自然ではない建造物を発見した。
(ついに見つけたぞっ……!)
小鬼の集落に違いない。
日暮れにはまだ早い時間だ。昨日の経験から、自分の体力の限界を把握する事ができた。
休憩を取りながら効率良く歩くことができたらしい。予定よりもかなり早い到着だ。
楓くんも、まだ連れて来られていないだろう。
近付かず、草木に隠れて遠巻きに監視する。距離は100mいや200mくらいだろうか、距離感がわからないが、かなり遠くから確認していく。
円錐形のテントのような建物が3つ、やつらの住居だろう。それらの中心に石で囲った焚き火があった。
焚き火を囲んで小鬼が何かをしている。
物見やぐらのような高い建造物があるが、今は誰も登ってはいないようだ。
その隣には木で出来た檻のようなものがある、ここに捕らえた人間を入れるのだろう。今は何も入ってはいない。
小鬼は……全部で8匹。
内大柄な個体一匹が、動物の頭骨のようなものを頭に被っている、こいつがボスだろうか。
十分観察した後、見つからないようにその場を離れた。
スコープは4倍に拡大してくれるそうだ。
双眼鏡の代わりに使いながら、観察をすることができた。
おおよその地形と、やつらの数を確認した。
もう少し戻って、この集落に戻ってくるはずの誘拐犯を待ち伏せしよう。
小鬼がいつも通っているのか、踏み固められて、けもの道のようになっている。
方向から考えても、必ずここを通るだろう。
見通しも割とよく、100mほど向こうまで視界が通っている。
ここで、待つことに決めた。
茂みにしゃがんで隠れると、クロもそれを見て理解したのか、隣に来て同じように茂みに伏せて隠れた。
「えらいな」
頭を撫でてやる。そして、目線を道の先に戻した。
(さあ来い……)
銃に弾を込める。
ボルトハンドルを起こして後ろに引き、薬室にサボット弾を一発送り込んだ。
その後ハンドルを押し、倒した。これで引き金を引けば弾が発射されるはずだ。
さらに下部の弾倉を開き、そちらにも二発の弾丸を装填する。
これで薬室に一発、弾倉に二発、ボルトを操作するだけで、三発撃つ事ができる。
いつでも発射できるように段取りできたところで、安全装置をかけて待つ事にした。
……
それから小一時間は待っただろうか。
(来たっ!)
木々の間から二匹の小鬼が姿を現した、楓くんも一緒だ。
蔓のような植物を上半身に巻き付けられて、自分の足で歩かされている。
そして、そこから出た蔓の一端を一人の小鬼が握っている。犬の散歩に使うリードのように逃げられないようにしているのだろう。
かなり疲弊している様子で、顔色も表情も優れない。
怒りで、飛び出してしまいそうになるのを我慢して、スコープを覗いた。
楓くんに弾が当たらないように離れて、完全に身体がこちらを向くタイミングを待つ。
映画のように伏せながら狙えたら、体を隠しながら撃てるんだろうななどと考えたが。
外したら終わりなので、田中さんに唯一教えて貰った、立って構えるやり方で狙う。
銃を両手で保持し、右肩と胸の間にピッタリ銃床の後ろの部分をくっつけるやり方だ。
少し前傾姿勢になって、頰にも銃をしっかりつける。
そして、その時が来た。
綱をもった小鬼の身体がこちらを向いた、肩に怪我をしている方だ。ナイフによる負傷だろう。
幸い、まだこちらには気づいていない。
狙いは、胸の真ん中だ。
(頭に当てようなんて考えるな、身体の真ん中を狙えって、言ってたからな)
「はぁーはぁー…」
息が邪魔だ、息を止める。
ぴたりと照準が定まった瞬間、引き金を引いた。コトンと引き金が落ちる感覚。
その刹那
ドォンッ!!
銃から出た轟音が、林の静寂を破った。
銃口から飛び出したサボットスラグ弾は、直後、プラスチックの部品を脱落させた。
残る弾頭は獲物を確実に絶命させる為に回転を与えられ、一直線に小鬼に向かって飛翔する。
ひゅうっと弾頭が獲物に吸い込まれた。
どこに当たったのかはわからないが、直撃したのだろう、転倒する。
ドサッ
それを見た隣にいた小鬼が、こちらの姿に気がついた。
「●○◇■ッー!!」
何が起こったのかは、理解してはいないだろうが、棍棒を片手に真っ直ぐ突っ込んでくる。
慌ててボルトを操作して廃莢、次弾を装填する。ボルトが固い!
少しもたつきながらも、射撃準備が整った!
まだ距離は50m以上はある、大丈夫だ。
(落ち着け…)
そう念じながら、急いで構える。
しかし、真っ直ぐ向かって来ているとはいえ、動いていて狙いが定まらない!
次弾を発射する。
ドォン!!
再び空を切り裂いて飛ぶ弾丸は、があんという音とともに、やつの横の木に当たった。
(ああああっ……やばいやばいやばい!)
もう一度ボルトを操作して、廃莢、装填する。
弾倉にある最後の弾だ、外せない。
震える手で、銃口を向ける。
もうかなり近くまで、駆けてきている!
「■□○△▲!!」
(思ったより速いっ!?)
素早く銃口を向け、引き金を引く。
…ドォンッ!!
どさり。
音を立て崩れ落ちた。
どうやら頭に直撃したらしい、「ぎゃっ」とも鳴かずに倒れた。
近づいて確認せずともわかる。
即死だろう、銃という武器の威力に恐ろしいものを感じる。
だが、今はそんな事を気にしている場合ではない、楓くんは無事なのか?
下ろしていたリュックを背負い、駆け寄った。。今まで隣で大人しくしていたクロも、立ち上がり一緒に走る。
見たところ、大きな怪我は無いようだ、ほっと胸を撫で下ろす。
「お兄さん!助けに来てくれたんですね」
憔悴しきっていた顔に、元気が戻る。
動揺は有るようだが、良く気丈に振る舞っている。
「ああ、大丈夫?怪我は無い?」
「はい、大丈夫デス!」
そんな受け答えをしながら、上半身に巻き付けられた蔓をナイフを使って取る。
「ありがとうございます」
そう言って、笑顔を見せた。
その時、遠くからあの声が聞こえて来た。
それと複数人が駆ける足音、銃声を聞いて駆けつけたのだろうか?
ボルトを操作して、撃った弾を廃莢し弾倉に二発の弾丸を籠めた。
ボルトをもう一度引かない限り、薬室に弾丸が入ることはないので、このまま持ち歩いても安全だ。
ここで戦うわけにはいかない。
万が一、複数体が同時に走り込んで来た場合、全てを止める事は難しいだろう。
今は、この場所を離れるべきだ。
「逃げよう!」
そう叫ぶと、楓くんの手を取り走り出した。
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