第12話 十二日目

パラパラパラパラ…


「へぷしっ」

寒さで目が覚めた。

焚き火は消えてしまったようだ、奥の方はわずかにくすぶっている。体調はどうだろう?喉は乾いているし空腹だが、何とか動けそうだ。


差掛け小屋から外を覗くと雨が降っていた。

焚き火が完全に消えてしまわないように、雨が当たらないよう小屋の近くに寄せ薪を組み直して空気を送り込んだ。


メラメラメラ


火が大きくなり一安心だ、これくらいの雨なら火が消える事はないだろう。


次に雨水を水筒に集める事にする。大きい葉を集めて漏斗のような形を作る。葉で受けた雨水が伝って中央に集まる形だ。

この装置を3つ作り、中央の茎のしたに持っているペットボトルと水筒を置いて雨水が貯まるように設置した。


新鮮な水が手に入る事を期待しながら、雨に当たらないよう差掛け小屋に避難した。

焚き火で濡れた衣服と体を乾かす。


濡れたままでいると体力を奪われるし、風邪をひいてしまうのは間違いないだろう。

雨が降っている間は迂闊に歩き回ることはできない。



(俺以外にも人間がいるのかな、それとも火を使う獣までいるのだろうか。)

昨日の焚き火の後について考えたが、答えは出ない。どちらにせよ危害を加えてくるようなモノでないことを祈るばかりだ。


「少し休もう。」


焚き火が消えないように注意しながら、しばらく横になった。



……



目が覚めると雨は上がっていた。

連日林の中を歩き回っていたせいで疲労が溜まっていたようだ。空腹を忘れるほど、ぐっすり眠れた。


溜まった雨水を確認する。満タンとまではいかなかったが、半分くらいは溜まったようだ。

火はあるが、煮沸するための容器がないのでそのまま飲んだ。生き返った思いだった。


今日はこのキャンプに帰って来れるようにして、周りを探索してみよう。

理由は二つある、再び小屋を作るのは労力がかかる事、もう一つは、移動先で焚き火を起こすだろうが、種火を持っていったとしても雨上がりで湿った薪しか手に入らない場合、うまく焚き火を起こせるか心配だからだ。


キャンプ付近を、いつでも帰って来れるよう木に目印をつけながら探索する。

どれくらい歩き回っただろうか。


チロチロチロ…

ザアザアザアザア…


藪を抜けた先に沢を見つけた。

雨が降ったあとだが、濁ってはいない。


太陽の光を反射して水面がきらきら輝いている、時折魚らしきものも見える。

何か釣れそうだ。


近くを探して小さな蜘蛛のような虫を見つけた、こいつを餌にしよう。

…針が大きすぎるが仕方ない。

(釣れてくれよー)


グッ


ほどなくしてアタリが来た!

逃がす訳にはにはいかない、手先に神経を集中させる。


「釣れた!」


何の種類かは分からないが、魚だ。

20cmほどの大きさだろうか、初めての釣果に心が躍る。


その後も立て続けに釣れた、十匹ほど釣ったところで満足してキャンプに帰ることにする。

あとで焼いて食べよう、沢で内臓だけ取り出しておくことにした。



……



今日は魚を食べられる!

ワクワクしながら手頃な枝を串にしたものを魚に刺していく。

口の方から入れた串をジグザグに刺していく、塩がないのが残念だが焚き火で炙って焼いて食べよう。


魚が焼けるいい匂いだ。

ポタポタと油か水分なのか分からないが、魚から滲み出して落ちていく。

こんなに美味しそうな食べ物がこの世にあったのか。


もういいかな?

「いただきます!」

背中の身にかぶりつく、パリパリの皮の中にホクホクの身だ。噛みしめると口の中でじゅわっと魚のエキスが広がる!


「美味いっ!」


今日は最高のディナーだ。

どんどん食べ進めていると、真っ黒な子犬が寄って来た。正確には犬ではなさそうだ頭に小さなツノが生えている。


足を怪我しているのか、よたよた歩いて隣まで来て、そのまま魚を食べている俺の顔をじっと見つめる。

その瞳は…


(か、可愛い!)


もうたまらない、食べ残した焼き魚の頭を与えることにした。

「ほらっ」


ぱっと跳びのき一瞬警戒したが、匂いを嗅いですぐに食べた。


もくもく


小さなお客さんと心ゆくまで川の幸を楽しんだ。空腹が満たされ横になっていると、知らぬ間に寝てしまった。

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