孫一 さっさと終わらそうとするのに足止めをする妻がいる

 西園寺家の話が終われば今度は棺と戦争だ。

 と、騒ぐウチの嫁…白座千代。


『今度も戦争だ!』をリピートし続ける妻に驚きを禁じ得ない。

 戦争出来る程の規模でもあるまいに。


 そして学んだ事がある。千代に任せるとこじれる。

 だから俺は言う、家長だからな。


「千代、俺が棺と話してくるから何もするな。以上」


 案の定、千代は絶望的な顔をする。

 正直、千代をなだめる方に労力を使う事の方が多いんだよなぁ…


「グックゥ…孫一…それはお役御免って事?…ですか?」


「まぁ…不知火を解散するに越した事はないけど…何か警備隊的なのしたいんだろ?だからとりあえず子供2人、孫代ましろ千一ちかの警備をしてくれよ」


 何か考えが行ったり来たりしているようで、百面相の様に…喜怒哀楽の顔をする千代。

 高校の時、世間的には澄まし顔か、微笑みしかしないクールビューティみたいなキャラだったのにな。


「2人には定満家が最高の警備を…それに私もいつも一緒にいます…マゴ君はそうやってウル◯ラ警備隊みたいなの作って私が全身タイツで銀のマスク被った巨人になれないからって馬鹿にして!それに!1人で何とかしようとするのはマゴ君の悪い所だよ!自分の命 軽く見て!犠牲にして!残されたものの悲しみが分からないの!?」


 違うよ、何の話だよ。

 サラッと俺の秘密の性癖、ウ◯トラヒロインリョナをバラすなよ。

 それに俺は、死にたくないし死なないよ?

 お前が行った所で謎の揉め事を発生させるか、何かウンコが漏れたみたいな話にしかならないだろ?


「いや、お前の評判がより強くウンコ漏らし妻になるだろ?」


「今日は言わしてもらう!マゴ君いつもそう!自分で勝手に決めて!自分の世界観で犠牲になる人の気持ちも考えてっ!?私達の気持ち何て何も考えてない!皆…マゴ君が大好きなんだよぉ…」


 無視したぞ…何の話してんだ…そして、それはお前だよ…


「良く分かったよ、とにかく何もするな。じゃあ、また夜な。マシロ、千代を抑えつけろ」


「えぇ…俺だって学校の準備あるのにぃ…分かったよ。ほら母さん、父さん仕事だから。忙しいからね」


『マシロ!離しなさい!』とか千代が叫んでいるが、小学校低学年の割に大人びたマシロに抑えつけてもらう。

 一時期、仕事は危険とか訳の分からない事を言い出した時に手伝ってもらってから、マシロに頼むと押さえつけてくれる。

 我が子ながら出来た息子である。


 外に出てまずは…西園寺の叔母さんに電話する。


「もしもし?叔母さん?いや~御無沙汰してます。棺の住所か、電話番号教えて貰って良いですか?」


『はいで?来栖川?棺?何で?』

 

「いや、電話して、話し合いしようかと思って。もう何年も会ってないし、顔もみたいし…みたいな?」


『孫一君なら…いやいやいやいや、今…棺の国と抗争中でしょ?トップが…ま、まま、孫一君が行っちゃだめでしょ?』


 何で知らない間に抗争中なんだよ…

 説明が面倒くせぇから嘘つこう。


「これは秘密の交渉なんです。住所は言い過ぎました、電話だけでいいんでお願いします!不知火として動いているので…」


「んん…んー…分かったわ…真の主である孫一君の指示には逆らえないわ…」


「あざっす、恩にきます!叔母さん相変わらず優しくて俺は好きですよ!」


「あら?可愛いこと言うわね♥」


 よし、チョロい。叔母さんは長く子供が居なくて、しかも快活な男の子が好きと聞いた。

 元気に好意を示すとメッチャ嬉しそうにする。


 そんなこんなで電話番号ゲットだぜ!

 面倒くせぇ抗争とか…さっさっと終わらせよう。

 

 ぷるるるるる~ぷるるるるる~


『何者だ?名を名乗れ。このホットラインを知るのは一部の「ヤッホー!棺、元気?白座孫一でーす!」

『うヒィあぁあぁあッ!?マゴジルサママ!?』


 何だよ孫汁って。

 なるべく陽気な感じで接したい。

 抗争中とか、何か分からない事言う前に話を付けよう。


『ほ、本物のですか?ほんのんのん?マゴイチイチシャイン?いぃッ生きてましたか?オッオッㇷ』

 

 落ち着けよ、棺ってこんなだっけ?

 暗そうだし極端な事はしそうだったけども…どう考えても自分の得意な分野だけ急に早口になるタイプだなぁ。


「久しぶりの挨拶が『生きてましたか?』は無いだろう(笑)本物だよ、突然だけど、今から会いに行ってもいいかなーっ!?」

 

 なるべくフランクに、昼の番組のノリで話しかける。


『ホンモノだぁぁぁ!?ハイイイイイイイイイイイイイイイットモ!き、汚いですが!いやすぐかたすけますぅ!いやいや、私が行きますよぉ!?♥』


「良し!良いノリだ!愛してるぜ!住所教えてくれ。今から行くわ」


『あい!?♥はいいい!♥』


 こうしてノリと勢いで棺の住所をゲットした俺は、バイクで向かった。

 ほら、話早いじゃん、さっさと終わらせようや。

 都内じゃなくて神奈川の南に住んでいるとは思わなかったが…バイクで1時間ぐらいかぁ…

 ちなみに千代の鬼のような電話が煩いが今日は無視させてもらうぞ。

 内容は分かってるからな。




 バイクでのんびり走る事、1時間。

 軍港のある港…スゲー所に住んでんな…来栖川家だっけ?

 アイツも金持ち何だよなぁ…何か傭兵で稼いでるとか言ってたな…金持ちになるのも大変だな…


 言われた住所に着くと、普通に自衛隊かなんかの基地何なんだが…早速電話する。


「棺…家じゃなくて自衛隊っぽい基地に着いたぞ…冗談にしてはめんどくさい事するな、お前は」


『いえ!♥そちらであっておりまシュル!♥すぐに迎えを…いえ、ワタクシ自らお出迎えを!♥』


 何か変な感じになっていたが基地の前で待つ。

 基地の奥から結構な攻撃を受けても絶対死ななそうな高級車の様な何かが走ってきた。

 あぁそうか…今の棺の感じ、俺に悪い印象は無い様だ。

 多分だな、棺は散々実家で酷い目に合っていた様だが、千代風に言うと『ざまぁ』をしたらしく、今は当主と聞く。

 だけど俺と違い大きい家の当主だからな、周りの目もあるんだろう。定満の当主、辰兄も大変そうだし。

 そうだな、どっかの喫茶店でも行って話そう。


『ま!ま!マゴイチサマァ!♥ホンモノのマゴイチサマァ!♥孫の市サマァ♥』


 ゴツい車の窓から身を乗り出し、手を振って来る意味不明な事を言っている女…アレ?アレが棺?

 黒い紫色のリボンの付いたハット、黒のゴスロリっぽい長袖ワンピースを着た女性…葬式?

 身長が俺(178)ぐらいあるが…顔が千代に似た美人が車から降りて俺の前に立つ…が…デケェなしかし…

 

「綺麗になったな?あんなチンチクリンだった棺がこんな…うおっ!?」


 急に首に両手を回し抱きついて来た…のは良いけど俺の身長も大きい方だから良いが結構ゴツゴツして、ビビった。


「マゴイチサマァ!♥会いとうございました!♥ずっとずっとずっとずっとずっとウォフッ!?♥」


 急に棺の腰が引いた。上半身を押し付けるか下半身は引く…まるで橋の様な体制になる。

 その体制のまま首筋を舐め始めた棺…大丈夫か、コイツ…


「申し訳っ!♥ござません!♥こりは!♥ンハっ!♥ンハ♥ちがますよ!♥」


 普通だったらドン引きかもしれないが俺は千代で慣れてるからな!どんと来い!


「ハッハッハッよしよし、じゃあとりあえず近くの喫茶店で話そうぜ。つもる話もあるだろ?後ろ乗れよ?あ、スカートか?」


 まだ春の陽気の残る穏やかな気候、少し走るには最高だ。


「いえ!♥大丈夫です、ちょっと待ってつかーさい♥ゴソゴソゴソゴソ…はいそれでは乗ります♥」


 ヘルメットを被せる。このメットは買ってからマシロしか付けた事無いからな…臭くはないだろ…

 


「ふぁぁあ♥マゴイチサマァの匂いぃ♥」


 凄まじいシングルエンジンの振動と共に俺と棺の間に何か棒みたいなものが当たるけどこれは何だ?棺は棺で白目向いてるけど…心配だな…

 

 まぁ良いかと思いながら発進し…数秒経った所で事件は起こった。

 なんか並走してくるなと思った謎の車にいきなり引っ張り込まれた!?


「マゴ君を返せえええええええええッッッ!!!」


 俺はバイクからいきなり上半身を引っ張られ後部座席の頭から突っ込んだ。

 

「え?え?キサマァッ!?定満千代かぁ!!!」


 俺の下半身を持ったまま付いてくる棺。

 バイクは転倒したが、後部座席の窓から下半身だけ出ている俺、俺の下半身を掴み、片足がローラーで地面を滑り、もう片足は吸い付くように車に付いている棺…どうゆう事?

 とにかくスピードを上げるな、メッチャ怖いから。

 俺は運転してんの誰だよ、止めろよと思ってみたら永井だった。コイツは駄目だ、死んだ。

 話を聞く限り、永井が暴走族時代、金がないからバイク乗って無いと思ったが、実際は何回が乗ってるらしい。

 そして凄い速度を出して事故るを繰り返していた結果、永井乗物禁止になったそうだ。

 俺が今は乗って無いけど大事にしている、龍獄一家という暴走族をしていた定満辰から貰ったSRも…本来は次期総長の永井に譲るのが普通だが『コイツにやると事故るし…』という事で俺の所に来た経緯がある。


 そんな事はとにかく、いよいよ60キロ越えて来たと思うが…


「離せや棺イイイイ!マゴ君を殺させやしない!」


「キサマが言うなぁっ!孫一様を死んだと言って隠し!孫一様の自由を無くし!貴様の私利私欲の為に…あっ!?♥」


 俺のズボンが脱げ始めた…ちなみに俺の身体は上向きで腰を中心に下半身が窓から飛び出している…

 身体を千代が抑えているが、それでもギックリ腰になりそうだ。

 今、俺の下半身は、国道を肉の棒をもろだしで走っている。

 謎の危機感と千代と棺かワサワサ触るのでちょっとちょっと硬くなっている…死にたい…

「孫一様ぁっ!♥今!♥この棺めが…♥苦しそうな孫一様の分身をお慰めいたしマウス♥そして棺の国へ…♥私の国へ亡命を!♥…グワッ!?」


 棺がゆっくりと…大きな口を開けて俺のアレに近付いて来た…所で千代が思いっきり棺の顔面を蹴った。ガスガスと蹴る千代…


「おーい千代!やめろ蹴るな、危ないから!」


 俺は千代を止めようと思ったが、真っ赤な顔で俺を睨む千代…


「嫌だっ!マゴ君は渡さないんだからあああああぁぁぁ!!!」


 その時、俺のズボンがパンツごと脱げ、パンツが棺の顔をスッポリ包みこんだ…


「孫一様は貴様のモノでは無いっ!孫一さまはぁ♥ふあはあ♥おパンツがぁ…♥力が入らなくなるぅ♥」


 多分100キロ近い速度になっている状況で棺が手を離しそう…危ないわ!俺は棺の頭を蟹挟みした。


「手を離すなよ!?危ねぇわ!千代もやめろ!てか永井止まれやっ!」


 俺が矢継ぎ早に要求を言うと棺が光に包まれ何か良くわからんゴツい軍服のような服に変わった。


「股間が♥千代♥貴様!♥絶対許さんぞクンカクンカ♥マゴイチさまのクンカクンカ♥絶対くん…ふぁぁだみぇだ…シューツ着ると股間ぎゃ……ぅ゙…♥アッ♥グッ♥ンッ♥」


 軍服姿のまま地面に高速で引きづられているのに海老反りになり痙攣し、悶える棺…


 キイイイイイイイイイイイイ


 気付けば橋を渡っており、急な車線変更の勢いで俺の蟹挟みは解け、棺が吹っ飛んだ。

 俺のボクサーパンツで顔が隠れ、ズボンで上半身の自由が効かない棺はそのまま橋から落ちていった。


 なんて事…


「さだみつちよおおおおおおおおおお!!!キサマァ!絶対に許さんからなぁッッッ!!!オウフッ♥」


 ドボーーーーーーーーーーーンッ!!!







 その後、永井の危険運転で地元まで帰ってきたが…


「千代…今回は流石にちょっと怒っているぞ…なんせ全員危なかったからな…あーゆーのは駄目だ。棺、死んでないだろうなぁ」

 

 シュンとしている千代…いや、シュンとされても…後から来た獅子川が千代をフォローするが…


「白座君…千代を許してやってくれ…もし白座君が取られていたらその時点で不知火、定満、西園寺が来栖川の下に付いていたんだ…そうなったら我々はもとより白座君も…それに棺はあの程度じゃ死なない…なんせ異名が不死身の棺だから…」



 いや、そんな雰囲気じゃなかったよ?

 それよりも余計、棺がキレたと思うけど…



 そしてその数ヶ月後…案の定、棺がキレたっぽい… 

 なんか凄い軍隊みたいなの引き連れて定満家と西園寺家を囲んだ。

 だから言わんこっちゃない。未だにあの時話し合いをしてればこんな面倒くさい事にならずに済んだ…と言うと千代が泣き叫んで『マゴ君は渡さないもんっ!』とか意味不明な事を言うので、余り言わない。







  

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