西園寺家当主【西園寺穂澄】の憂鬱〜真面目っぽい話
西園寺…その名は過去に遡る程、名が出る古くから権力という毒と共にある名家だ。
しかし私の父の代で本家の跡目問題が発生する。
私と姉、男子が生まれなかった。
父は母だけを愛し、妾を作らなかった。
姉妹である私と姉は名家とのお見合い、そして婿養子として迎える運命を幼い頃から背負っていた。
そこに対しても姉は飄々としていた。
でも知っている。姉は小説が好きで下手の横好きとはいえ自分でも書くほどのロマンチストだ。
『まぁ私だろうね、家なんかどうでも良いんだけどさ』
姉はそれでも半ば諦めていた。
父は良く言えば育ちがよく、悪く言えば世間知らずだった。
常に分家に乗っ取られても別に問題無い様な態度だった…が、母は違った。
母は外から入ってきた分、本家筋の親族や分家の批判や嫌がらせの的となっていた。
そこに没落したが誰しもが認める家柄、【白】の家という日本を救ったと言われる血筋。
白磁、白日、白四、様々な呼び名で言われる謂われる家の孫六という男性を母が連れて来た。
『この人が華蓮の見合い相手ですよ』
自分の好きな相手と…姉は心の奥底ではきっと思っていただろう。父の教育で普通の学生が行く小学校から高校に行かせてやることがせめてもの償いと思っていたんだろう。
そこで奇跡は起きた。
「マゴ…ロッケンローじゃん、お前かよ!?」
「孫六さんじゃん!マジかよ…一代にキレられるじゃん…」
二人は元々知り合いだった。
聞けばこの二人、小学校からずっと一緒だったという。
孫六さんは私にも良くしてくれた。
世間知らずな私に、世情での事を教えてくれた。また、お見合いでも相手を選ぶ権利はある。
そこから自分の運命を決める相手を選べば良いと教えてくれた。
私も後に、心優しい伴侶を婿養子として迎え、その為に反対するものを片っ端から潰した…結果西園寺は弱体化したがそれでも構わなかった。
しかし、この出会いに問題があった。
家同士微妙なパワーバランスにある定満の跡継ぎと阿修羅の問題児の4人でいつも一緒にいたという謂わば幼馴染がいた。
他の二人は複雑で、定満の跡取りは阿修羅の問題児、阿修羅一代に惚れていた。
そして姉と孫六さんが繋がった時、同時に阿修羅の問題児と定満の跡取りが繋がった。
そこから、その四人には波乱しかなかった。
西園寺を出ていき二人の世界で暮らすという姉、更には白は残すものの白座という謎の名字を名乗る義兄、二人の幼馴染の最早天敵と言える関係の阿修羅と定、その阿修羅の問題児は家を出て定満の権力を巨大化させた。
定満の跡取りは家を出た姉と孫六さんを保護した。結果、バラバラの家の四人が繋がった。
その影響で散らばっていた各家が、二分していく。とめどなく巨大化していく定満…小さき家は定満に吸収され残った家は生き残りをかけて合併していく…
それは争いの始まりに過ぎなかった。
水面上は静かであれば雫の波紋は遠くまで、争いが激化していけば人は伝説にすがる。
この争いを止めるのは【白】の家の者しか止められない。
どこぞの文献や口伝によると、特に次男は圧倒的なカリスマと血統や遺伝子を超越し争いを止めると言われていた。
しかし…孫六さんは短命で…【白】の家の次男のアキラ君は孫六さんより早く亡くなった。
全てを背負いし男、誰しもが長男の孫一君に期待した。
皆がこぞって孫一君を手に入れようとした。
しかし…孫一君は一人の女性…いや、人間になり損ないの犬人間、定満千代しか見ていなかった。
この犬人間、自分一人では朝は起きれず、ことあるごとに誘惑し、孫一君を侮辱し、奇行が目立ち、家の権力を背景に組織化し、孫一君を吸収した。
そして…二人は契りを結び子を儲けた。
この事が大きな争いに引き金を引いた。
定満は権力を確かなものとする為か、孫一君もまた亡くなったと喧伝した。
西園寺を継ぎ姉と繋がっていた私は姉に訴えた、犬人間誅すべしと。
しかし姉は犬人間に惚れ込んでいた、喧嘩になった。
そして姉が亡くなると同時に犬人間から救うべく動いた。
何故なら少しづつ…力を付けた有栖川が、孫一君が亡くなったという噂が流れた辺りから急激に膨らみ突如分家の来栖川が台頭、孫一君の仇を討つべく定満を滅ぼし、孫一君の忘れ形見、犬の血を継いだ子を消す為に動き始めた。
私は孫一君と邂逅し思った。
その息子…アキラ君に似た孫代君を連れてきた孫一君を見て思った。
やはり彼等こそが我々の上に立つ者、この日本の頂点に立つ者だと確信した。
その確信は理性やかんじょうではない、魂の響きだった。
西園寺は形勢が不利な定満に付く方針を決めた。
娘の怜羅は西園寺を守ろうとでもしたのだろうか?物心付く頃には来栖川の悪辣…棺に心酔していた。
どうか、孫一君…娘を、西園寺を、日本を救ってほしい。
そして姉さん、孫六義兄さん…助けて下さい。
人生で始めて…心から神に願った。
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