孫一/インパクトのある土下座ってさ、見たことない?ほら、倍返しとか…絶対頭突きじゃないと思うんだけど

 俺はお詫びをしにきた。

 母方の妹…要は叔母だね、叔母に謝りにきた。

 詫びの内容を考える。心が誠意が伝る内容を。


 妻が犯行声明のような文書を送りすいません。

 妻が友達と家でウンコを漏らしてすいません。

 妻が奇声をあげ、おかしな格好ですいません。

 妻が重ね重ねご迷惑をおかけしてすいません。


 無理だな…謝って済む内容ではない。

 その妻はなんか『来るなっ』と叫んだ拍子にまたウンチが漏れたようだ…全身タイツ姿で。

 俺の妻…高校時代は誰もが羨む学園のアイドル、女王とも千代姫とも言われた才色兼備な妻。

 そんな人が奥さんなんて宝くじどころではないと人は言った…が。

 千代の姉からは『孫一専用好色便器』と呼ばれているが、残念ながらその通りになった。


 しかし叔母は、基本的には優しい人の筈だからまぁなんとかなるか…記憶が正しければ…


「あぁ…孫一君…こんなに大きくなって…」


 そして叔母さん…思い出した。

 とても優しくて包容力のある人。子供がいなかったからかな?良く菓子貰ったわ…

 そして…更に思い出していく面倒臭い事…


―――孫一君…貴方は成人したら西園寺と定満を統べる覇者となるのよ?その為なら万の屍を用意するわ、叔母さん何でもやるわ―――


 思い出してきた…駄目だ、この人もヤベェ人だ。


 とか思ってたら永井がいきなり襲われたと判断したらやり返すという壊れた自動防衛システムが発動し、家にいる人を殴りつけた。

 優しい叔母の家に暴力機能付き友人、コレを連れてきた俺もヤベェ人だ。

 

「永井…お前、岡田に良く襲えって言われて断ってたじゃん。何で今、岡田の期待通りの事すんの?」


「アイツのは意味もなくそこら辺の善良な一般市民をいきなり襲え、コイツラは殺意みなぎっているからセーフじゃい…とまぁそんなこんなでラスト一匹!さぁ俺の土下座インパクト!御覧じろってやつじゃろい」


 変な近未来バトルスーツ男が構える、何するんだろうな。これから永井は土下座するらしい、もう遅いと思うが…

 

「貴様ら!亡くなった白座孫一様を騙るなんぞ棺様への宣戦布告とみな『ゴィンッ』アガパ…」


 俺は亡くなってないが?棺も大概だな。

 結局、頭突きし…そのまま土下座の位置まで相手を潰した。しかし永井は喧嘩で負けた事無いな、顔が良くて喧嘩も強い、モテそうだけど実際女が離れていくのはやっぱ性格か性癖か…汗ってな…


 そんな永井は後日、ドヤ顔で一代さんの道場にて今回の事を武勇伝としては語ったが、子供たちからは


『それはともかく土下座インパクトってダジャレのつもりかよ、本当に面白くねぇな』


 と、手厳しい事を言われ、笑顔のまま凹んでいた。実は永井、面白くないと言われるのには弱い。それはどうでも良い話。


 こんな滅茶苦茶をしたが、叔母さんはにこやかだ。


「貴方の兵は棺の手のものを消してくれてわ…私と…娘の麗羅共々お礼します。孫一さんは血だらけになりながらも西園寺を救った…つまり西園寺家を襲名するという事ね…血統は文句ない…分家どもに四の五の言わせないわ…」


「いえ、結構です。違います」「え?何で!?」


 叔母さん違うよ、全然違う。後、血だらけなのは永井が重いせいです。でも、もしかしたら穂澄さんの脅迫かも知れないな…継がないなら損害賠償払えと…参ったな。


「だったら…麗羅とも婚姻を結んで貰えないかしら?」


 横にいた麗羅ちゃん?という小学生ぐらいなのに縦ロールにしている女の子がビックリしていた。

 そりゃそうだろうよ…


「駄目ぇ!孫一…マゴ君は西園寺を継がないわ!マゴ君は白座でも定満でもない、そう、たった一人のマゴイチになる男…それに…既に…穂澄さん…貴女の孫がいるわ…ねぇマゴ君グプッ!?」


 俺は意味不明な事を喋り続ける千代の口を手で封じた。俺の話を混ぜると自慢みたいな話に成り、話が進まないからだ、だから叔母さんが怒るんだよ。

 俺はスッと土下座して詫びた。


「穂澄さん、この度は妻が大変申し訳ありませんでした。結婚した時も母がご迷惑をおかけしたみたいで…本当に申し訳ありませんでした。誠心誠意土下座しますので!ただ、俺はどの家を継ぐとか1ミリも興味ないのでやめにしませんか?また今度、ゆっくり、お菓子を持って来ますので勘弁して下さい」


 叔母さんはグッとハンカチを握りなから一滴の涙が出た。


「私は…孫一君に謝ってほしくて会いたかった訳じゃないの…姉さんの時に…『千代ちゃんを認めろ、穂澄も千代ちゃんのクソまみれになろうや』と笑顔であり得ない事を言われ、ついカッとなってしまった。元々傍若無人の姉で…そんな姉に憧れていた私だけど…中学は行けず、大学も行けず…嫁は名家間で有名なクソ出し女…そんな孫一君が不憫でつい西園寺に引き取ろうと…謝らないといけないのは私なのよ…」

 

 俺は母さんがそんな剛胆(というか狂ってる)な交渉に出たとは知らず、気付けば嫁がクソ出し女と呼ばれていたとは知らなかった。

 後、その言い方だと大分俺は不憫だな…自業自得だけど…岡田じゃねぇけどツレェぜ…

 

「じゃあとりあえず今回の事は無しで。だと気付いたので!これからはたまに遊びに来ますので、とりあえず今日は帰って良いっすか?それと怜羅ちゃんだっけ?無理せず、だけど自分の人生を決められるぐらいは強くなれよー…ほら!千代、帰るぞ…」


 縦ロール少女の怜羅ちゃんがコクコクと頷く。

 今の俺の脳内目的は唯一つ、何か怒って無い様だから何事も無かったかのように帰る事だ。

 何故か?永井も無言で帰路につきはじめた。


「ちょ…白座君…永井…待てよ…なぁ?…ボクは…コレ意味あんのか?…なぁ?…誰かなんか言えよ…」


 上司がウンコまみれキャットスーツで滅茶苦茶キレてるからだ。

 ちなみに俺は前に惚れてたらしいのであまりキレられないが、同僚の永井には滅茶苦茶キレる。同じ同僚の岡田に至っては病院に送る。

 そんな獅子川が俺にもキレてた…これはイカン。


「マゴ君…ごめんなさい…これからは刺客がマゴ君にも…」


「あーはいはい、何とかなんだろ?」


 何で皆、そんな驚愕した目で見る?

 刺客ってあのチンマイ棺の関係者だろ? 

 あ、そうだ。面倒臭いが今度は棺の所に今度行こう。岡田の様にまだ早いとか訳のわからん言い訳は良くない。


 そうして解決したようで解決していない様な西園寺家をあとにした。

 穂澄さんへの詫びは終わった…と思う。


 何か棺の関係者を後から来た定満家の人が回収してたりしたがよくわからん。

 とにかく揉め事は駄目だよ、イカンイカン!


 結局、減給と有給を好きな時に使う権利を剥奪された。

 繁忙期に新作ゲームが出たが出来なかった…チクショウ!


 そして結果だけ見れば起きた事なんてこんなもんだ。

 これからする棺との話はもう少し濃厚にはなるが…

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